見出し画像

サヨナラ シャンパーニュ①

12月の風は強くて冷たい、信号を待ってる間はずっと首をすぼめてマフラーを掴んでいた。
早く、2020年の春を迎えたいと思えるほどに2019年の冬は寒い。鈴原絵莉は信号が青に変わった瞬間に小走りで歩道を渡って、駅のホームに向かった。

仕事を終えて、「恵比寿 BAR」で検索した二番目に評価のいい店をマップをもとに探した。
一番のお店はあまりに敷居が高すぎて怖気ついた。
その店の名前は「TONBI」という、和風の名前をローマ字にするのが恵比寿スタイルなのだろうか。

店の外観はというと派手でもなく、かといって地味でもない木材の看板に青く店名が刻まれたものだった。
店内も暗すぎず、落ち着いたブルーライトでお酒が照らされている。インテリアはアメリカの西部劇のようで、モノクロの絵はおよそ1900年代初頭のものだろう。

この洗練された空間に髪の毛はオールバックで髭もしっかり剃ってるオーナーが「いらっしゃいませ」と床を這うような低音を響かせていた。 渋めの声とは裏腹に、顔はとても若々しく、およそ30代前半か下手したら20代のように見える。

重低音オーナーは「今夜はどんなお酒になさいますか」とメニューを机にスッと渡した。
BARは何回か来たことはあるが、相変わらず、
見慣れない名前のカタカナのカクテルでいっぱいだ。その中でも、定番のお酒の名前を言ってみることにした。「じゃあ、ギムレットで」
わかりましたとオーナーが頷いた瞬間、
「それがお嬢さんのオススメのカクテルかい?」と紺色のストライプのスーツのヒゲを生やした40代ぐらいの役所広司似の男が話しかけてきた。どうにも怪しいと鈴原絵莉は身構えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?