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なまえのはなし。


「なんか、ケチャップのcmに出てそうだよね。」

よくわからないこの一言がはじまりだった。



一つ前の自己紹介の記事で、名前についてまた詳しく書くと言ってしまったので、「とまと」という名前について書こうと思う。


私がアルバイトを始めたのは、高校を卒業する前。
タウンワークで見つけた、地元のお好み焼き屋さんだった。

面接の日、ものすごく緊張しながらお店のドアをそろりと開けたのを覚えている。
心臓がバクバクしすぎて今にも目と耳と口から出てきそうだった。
ドアが開いたことに自動で反応するセンサーが、ピンポーンと鳴る。

まだ開店前の時間で、お客さんもスタッフも見当たらず店内はシーンとしていた。
するとセンサーの音に気付いた1人のスタッフらしき人が、厨房の入り口からひょっこり顔を出して出迎えてくれた。
高身長でヒョロッとした30代ぐらいの男性だった。
男性は私に気付くと、

「あぁ!面接の子ね!ちょっと待ってね。」

と言ってからまた厨房の方へ消えてしまった。


待ってねってどこで待てばいいんだろう、
ここで立って待ってていいのかな。

なんせ生まれて初めてのアルバイトなので、勝手がわからずひたすらソワソワしながらその場に立っていた。

するとすぐ、アフロの男性と茶髪の綺麗な顔の男性が出てきた。


え!?アフロ!?
(厳密にはアフロに近いパーマだった)
まぁ髪型自由って募集要項に書いてたしな。多分いいんだろうな。
隣の人はすごいイケメンだな。
ていうか男の人しかいないのかな、ちょっと怖いな。

まさかアフロの人が出てくるだなんて思いもしなかったので、顔には出さないようにしながらも頭の中ではわーわーとひとりやかましく喋る。

するとアフロの男性が

「店長のサカナです。」

と名乗った。


、、、さかな?
サカナって言った?聞き間違いかな。

戸惑っていると間髪いれずにサカナさん(仮)の隣に立っていたイケメンが、

「副店長のギョーザです。」

と続けて名乗った。


え、、、?ギョーザ!?
サカナさんならまだいるかもしれないけど、本当にギョーザなんて苗字の人いるのか!!?

今度こそ戸惑いが顔に出てしまっただろう。
でも今日は面接。失礼な態度をとってはいけない。
頑張って返事をするんだ、私!!

なんとか自分を奮い立たせて挨拶を返し、戸惑いを振り切るようによろしくお願いしますッと勢い良く頭を下げた。


開店前の時間なので、まだ誰も使っていない客席の一角で面接が始まった。
2人の名前についてはどうしても突っ込まずにはいられなかったので、頭の片隅で

ほんまか?いやいや、聞き間違いやんな、、、
それかあだ名?でもギョーザってあだ名つけるか、、、?

と自問自答を繰り返しながらも順調に面接は進み、有難いことにトントン拍子で採用が決まった。

この店の一員になるということで、あだ名を決めたいとサカナさん(仮)から提案があった。

どうやらこの店では、スタッフはみんなあだ名で呼び合っているらしい。
なるほど、恐らくサカナさんもギョーザさんもあだ名なんだな。よかった。


1人納得していると、冒頭の台詞をサカナさんが私の顔を見ながらぼやいたのだ。

「え、そうですか?そんなこと初めて言われました。」
(というか、そんなこと言われる人この世にいる?)

ギョーザさんも同意しているとは言い難い顔で、
あー、、、とかなんとか曖昧な相槌を打つ。

ほらぁ、ギョーザさんもちょっと困惑してるやん、、、

そんなギョーザさんと私を他所に

「よし、今日から君はカゴメだ!」

と意気揚々としながらサカナさんが言った。


てっきり本名から何かしらもじったあだ名になるだろうと予想していた私は、想像もしていなかった響きに戸惑った。

「カゴメ」という名前に高橋留美子さんの漫画、犬夜叉のヒロインの「かごめ」がパッと頭に浮かんだが、ケチャップのCMに出ていそうとかいうよくわからない発言から、
(カゴメ、、、?あ、KAGOMEってことか!野菜ジュースとかの会社の!!)
というルートでサカナさんの思考に追い着いた頃、全く同じことをギョーザさんが口にした。
どうやらギョーザさんもサカナさんの思考に追いついたらしい。

そうですよね、最初から「KAGOME」を連想する人なんてそうそういませんよね。

ちなみにこの後他のスタッフに自己紹介をするとき、十中八九「犬夜叉の?」と聞かれることになる。


店長の独特な感性のおかげで、「カゴメ」としてこの店で働くことが決まった。

本名とは全く違う名前で呼ばれることに最初は中々慣れなかったのだが、そのうちスタッフのみんなからも「カゴメの本名ってなんやったっけ?」と言われてしまうほど、「カゴメ」というあだ名は私に馴染んだ。

みんなから呼ばれ、愛着が湧いてしまったこのあだ名を、アルバイトを卒業した後も何年経っても忘れることが出来なかった。

そこで、noteを始めるときにこの時のあだ名を使おうと思った。
けれど、「カゴメ」だと響きが少し可愛らしすぎて年齢的にも少し恥ずかしいような気がしたので、ケチャップから連想させて「とまと」と名乗ることにした。


これが私の名前の由来。
家族、職場の人にも見せない、もう1人の私。



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