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【分析機器まとめ】表面の構成を調べるには?もっとも適した分析手法の1つである"XPS"

現在、科学分析機器メーカーの会社でエンジニアをやっており、これまで数々のメーカーの科学分析機器を見てきました。

普段から研究や品質管理などの仕事や、私のようなエンジニアをやっていない人でないと触れることができない分析機器。

そんな分析機器がどんなものがあって、どう扱われているかが少しでも多くの人の目に触れることができればいいなと思い、今回からnoteを書き始めました。

可能な限り噛み砕いで説明するので、読んでもらえると嬉しいです。

XPS(X線光電子分光法)

今回は、XPSとは「X線光電子分光法」という名前の科学的な方法を説明していきます。
※XPS=X-ray Photoelectron Spectroscopy

そもそもどんな原理?

  1. X線を使って、分析したいものにX線をぶち当てる

  2. 電子がビューンってとび出る
    =X線が物質に当たると、中から「電子」っていうもう小さくて小さすぎてわからないくらいのミクロの粒子が飛び出してくる。電子は、そのモノを構成している超ぜつ小さな部品みたいなもの。

  3. その電子をキャッチ
    =飛び出てきた電子を特別なメカでキャッチ! それを見ることで、その物質がどんな元素でできているかをチェックするんだ。どの元素から飛び出した電子かによって、速さや飛び出す量がちがう。

  4. 元素をチェック
    =物質の中にどんな元素がどれくらい含まれているかがわかる。

ざっくりとした説明だけど、こんな感じの原理になっています。

つまり、XPSはX線という特別な光を使って、物質の中から電子を飛び出させ、その電子を見ることで、物質を構成している元素を調べる方法です。この情報から、科学者はその物質がどういう性質を持つかを知ることができます。

取り扱っている装置メーカーと製品の特徴は?

1. Thermo Fisher Scientific: 「K-Alpha+」

  • 特徴
    「K-Alpha+」はユーザーフレンドリーで、一般的な研究室向けに設計されています。この機器は操作が簡単で、日常的なサンプル分析に適しているため、多くの研究者に選ばれています。

  • 長所
    自動化された測定プロセスと直感的なソフトウェアインターフェースを備え、初心者から専門家まで幅広く使用できます。また、比較的コンパクトでありながら高い分析性能を提供します。

  • 主に使われる業界
    「K-Alpha+」は一般的な研究室向けに設計されており、医薬品、バイオテクノロジー、材料科学の分野で広く利用されています。その使いやすさから、教育研究施設や品質管理のための産業研究所でも使用されることが多いです。

🔽装置URL

https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/electron-microscopy/products/xps-instruments/k-alpha.html?SID=srch-srp-IQLAADGAAFFACVMAHV


2. Kratos Analytical (Shimadzuグループ): 「AXIS Supra」

  • 特徴
    「AXIS Supra」は、高度な画像分析と詳細な表面分析が可能で、産業や研究分野での高度な応用に対応しています。

  • 長所
    高解像度のイメージングと深いデータ分析機能を持ち、特に表面科学における複雑なサンプルの分析に優れています。多機能性と高い分析精度が求められる環境で強みを発揮します。

  • 主に使われる業界
    「AXIS Supra」は高度な画像分析と表面分析が可能で、特に半導体、材料科学、表面科学の研究に適しています。また、これらの産業における製品開発と品質保証にも役立っています。

🔽装置URL


3. JEOL: 「JPS-9030」

  • 特徴
    JEOLは精密機器に定評があり、「JPS-9030」は特に高精度な測定が可能です。主に材料科学や半導体業界での使用が想定されています。

  • 長所
    高精度な測定が可能で、特にナノスケールの物質解析に強みを持ちます。また、JEOLの装置は堅牢で長期にわたって信頼性の高い性能を提供します。

  • 主に使われる業界
    「JPS-9030」は高精度な測定が可能で、特に材料科学、ナノテクノロジー、半導体業界での使用が想定されています。これらの分野では、微細な構造や化学組成の詳細な分析が求められるため、JEOLの機器が選ばれることが多いです。

🔽装置URL


4. ULVAC-PHI: 「PHI Quantera II」

  • 特徴
    「PHI Quantera II」は特に広範囲の化学分析と高速スキャニングを特長としており、大規模なサンプルセットの迅速な分析が可能です。

  • 長所
    大量のデータを高速で処理でき、特にプロセス制御や品質保証が求められる産業用途に最適です。また、非常に広範囲な元素をカバーできるため、様々なタイプのサンプル分析に対応できます。

  • 主に使われる業界:
    「PHI Quantera II」はその高速スキャニングと広範囲の化学分析能力から、自動車、エネルギー、化学、および環境技術の業界で特に強みを発揮します。大量のサンプルを迅速に分析する能力は、生産ラインの品質管理や新材料の研究開発に非常に有効です。

🔽装置URL

結局、なぜこのXPSが必要なのか?

大体の原理と世の中にある分析機器がわかったところで、疑問に思うのが、「なぜ、多くの分析機器が世の中に存在する中で、このXPSが必要なのか?」だと思います。

そこについても簡単ですが、書いていきます。

XPSが使われる理由

様々な理由がありますが、大きく分けて3つあります。

  1. 表面分析の精度:
    XPSは物質の表面からわずか数ナノメートル(nm)の深さの成分を分析することができます。これにより、表面の化学状態や電子状態を非常に正確に調べることができるため、表面処理や薄膜コーティングなどの分析に非常に有効です。

  2. 元素の同定と定量:
    XPSはほぼすべての元素を検出でき、特に元素の酸化状態や化学的結合の種類を詳細に分析することができます。これは材料科学、ナノテクノロジー、電池研究など、新しい材料の開発に必須の情報です。

    ※同定=成分が何であるかを明らかにすること。

  3. 非破壊分析:
    XPSはサンプルを損傷せずに分析が可能なため、貴重なサンプルや再現が難しいサンプルの分析に適しています。

主な目的としては、表面分析。特にうすいもののさらにその表面の構成を見たい時に使うものです。

XPSでなければ測定できないもの

  1. 表面のみの化学状態:
    XPSは表面数ナノメートルの極めて薄い層のみを分析する能力があるため、表面特有の化学的性質や反応を調べるのに適しています。他の多くの分析技術では、より深い層まで影響を受けるため、XPSに特有の表面感度は他の方法では得られません。

  2. 特定の化学結合の検出:
    特定の化学結合や酸化状態を識別する能力は、XPSの特長の一つです。他の技術では同様の詳細な情報を得ることが難しい場合があります。例えば、異なる酸化数を持つ鉄の種類(Fe2+, Fe3+など)を区別することが可能です。

そもそも何で、表面を調べるの?

ここで、XPSが表面分析に適したものがわかったところですが、でもそもそも何で表面を調べる必要があるのか?。

そのそもそもの疑問に立ち返ってまとめてみました。

  1. 製品の品質と性能:
    特に工業製品や電子機器において、表面の微細な構造や化学的組成が製品の機能と耐久性に直接影響します。例えば、表面コーティングや表面処理は、製品の耐食性や摩耗抵抗を向上させるために重要です。

    ※耐食性=材料が腐食、すなわち環境による化学的または電気化学的な攻撃に抵抗する能力
    ※摩擦抵抗=物体が他の物体に対して動く際に生じる抵抗のこと

  2. 新材料の開発:
    新しい材料やナノテクノロジーの研究では、表面の性質が全体の性能に決定的な役割を果たします。ナノスケールの材料では表面積が大きいため、表面の反応が全体の反応性や安定性を決定することがあります。

  3. 触媒の研究:
    触媒の活性はその表面の特性に大きく依存しています。触媒がどのように反応を促進または制御するかを理解するために、表面分析は不可欠です。

    ※触媒=化学反応を速めるために使用される物質

  4. 腐食の予防:
    建材や金属製品の腐食はしばしば表面の化学的相互作用によって起こります。表面分析によって、どのような条件で腐食が起こるかを理解し、それを防ぐためのコーティングや処理方法を開発することができます。

  5. 医療機器の安全性:
    医療機器の表面は患者の体内に直接触れることが多いため、その安全性と生体適合性を確保することが極めて重要です。表面分析により、材料が生体にどのように反応するかを事前に評価し、安全な使用を保証します。

まとめ

ざっくりまとめると、

  • XPSは、X線を当てて出てきた電子で構成されている元素が何かを調べる

  • 特に表面を分析するのに適している

  • 化合物も識別しやすい

  • 表面というものは、触れやすい場所なので安全性などを見るために必要

本当にざっくりですが、こんな感じですね。

分析機器って本当に多くあるので、何があってどう調べるのかって分かりにくいんですよね。

そんな人やこれから研究をする人、投資する人にもこんな機器を製造しているメーカーがあるということを知っていただければと思います。


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