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[暮らしっ句]受 験[鑑賞]

 乗り合せ 受験子らしき 眼の寒さ  能村登四郎

思わず身震いしました。そんな時もあった、というのは、たいてい懐かしい気持ちになるものですが、そうならないこともありますね。「あとで振り返れば、いい思い出だよ」とは云えない。それはわたしがうまく越えられなかったせいか……。
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 受験子の つぶやきは皆英単語  中野匡子

多少の誇張はあるにしてもシリアスなユーモア。
ちょうど先日、ラヂヲでユニークな経営者の人が、どうしてユニークな人生を歩むことになったのか? というインタビューを受けていて、学校時代のことを語っておられたのですが、「頭は良かったが暗記は大嫌い」「我慢してやれば一番だったが、一回我慢したら、二回三回サボるようになった」 等々、延々と勉強と成績の話をされて驚きました。受験がテーマの番組じゃないんですよ。経営者として出演して、単にどんな子どもだったのかという質問だったのです。学校で相当、屈折されたようです。でも、その方は、それを逆手にとって成功されたわけですが、屈折したままの人も多いだろうなと。自分のことですが~
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 受験期や 団欒の椅子 ひとつ空き  小田司

それまでは夕食後など、しばらくは一家団欒の時間だったのが、すぐに自室に引き上げるようになった……。まあ、今の時代だと、受験でなくとも、スマホ見るために自室に向かうのかもしれませんが、その「当たり前」は、本来、さみしいこと……。
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 手荷物の 目覚し鳴り出す 受験生  田中こずゑ

たまたま、の出来事。別に普通の旅行でもありそうなことです(昔は目覚まし持参することもあったんです~)。でも、それが受験生だと特別になる。その受験生、元々神経質なのか、試験が近づいてナーパスになっているのかわかりませんが、本人は緊張マックス、でも、端から見ると、笑えるキャラだったりするのかも。
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 今年また 受験子のゐる 二階かな  鈴木しげを

これは、親戚か知り合いお子さんを預かっておられる方ですね。「また」というのが、同じ子なのか別の子なのかはわかりませんが、「子の顔」が見えません。交流が希薄だということですね。
空いた部屋に感じのいい人が来てくれれば、暮らしはいっぺんに愉しくなりますが、「受験生」を預かるというのはビミョウだと。勉強の邪魔をしないよう気を使ったり、少しでも気持ちを和らげようと、明るく声をかけてみたり、食事を工夫したりしても、なかなか反応が返ってこない……なんてことが推察されます。それを愚痴ってはいないんですけどね。仕方がないよね、というのがせつない。

ちなみに、この句と対になるような句もあります。

 受験生 預かりし間の 灯かな   鈴木庸子

ふだんは老夫婦の二人暮らし。独居が多い時代にあっては贅沢は云えませんが、それでも活気には欠ける。若い人がいてくれると、それだけで、こんなにも変わるものなんだなあと。こちらは喜んでおられる。
ちなみに、この句も先の句も同じ「鈴木」さん。もしかしてご夫婦? だとしたら、まったく同じ状況で、受け止め方が真逆? なんてことが妄想されました。その場合、この受験生、奥さんには感情を見せていたということになりますが、そういうのもあるあるですね~
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 受験子と 話すに言葉 えらびをり  岡本眸

「すべる」「おちる」とかですね。あ、いっちゃった~
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 受験子よ机に余る背を曲げて  田中武彦

何でしょう。視線に愛を感じます。頑張れと思うと同時に、無理するなとも思う。じゃあ、どうすれば? 見守るしかない……。
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 受験子の気迫の一打 除夜の鐘  鎌須賀礼子

気晴らしに鐘撞きに連れ出したのでしょう。すると、あんなに大人しそうな子が……ということになったわけですね。やっぱり、いっぱい我慢していたんだと。本当は、疑問や迷い、いや怒りのような気持ちさえ抱きつつ、机に向かっていたんだと。でも、よかったですよ。少しでもそれを発散出来たのですから。


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