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[AI絵本]妖怪村[こわくない]

 近所の子どもたちを連れて「肝試し」をやることにした。
 こんな時代なので夜中などは無理。時間帯は早朝、場所は「隠し田」をチョイスした。「隠し田」とは里から見ると山にしか見えないような場所にある田んぼや畑のことだ。地理的にはそれだけのことだが、おそらく歴史がある。行ってみればわかるが雰囲気が普通とは全然違う。大げさに言えば、桃源郷。こそっと云えば、秘密の花園といったところか。「クマ出没注意」の看板が興ざめだが、ともかくクルマで十五分の距離なのに別世界の気分が味わえる。きっと子どもにも受けると思った。

 狙いは的中。子どもたちはすぐに探検モードに入った。やはり何か異質なものを感じたに違いない。目の輝きがちがう。口調が違う。ナメた口など利かない。芝居かがってるほど真剣だ。畦に転がってるガラクタ一つ拾っても「手がかり」はないかと見つめていた。

 そこまではよかったのだが、そろそろ出発という時になって、一人いないことがわかった。田畑や水路にいないところを見ると、山に入ってしまったらしい。山に入ることは固く禁じていたのだが、蝉でも捕ろうとしたのかも知れない。大問題である。

 予定では十時には切り上げるつもりだったが探すしかない。
 引率していた大人は三人。オレと若いお父さんが二人。若い二人が山を探索し、オレが子どもたちを見ていることになった。気が咎めたが山野とは云え真夏の炎天下、探索する自信はなかった。

 河原の木陰にさらにタープを張って影の面積を大きくし、そこに子どもたちを集めた。こういうこともあろうかと用意していた怪談話をすることにした。このあたりの要領は、高齢者施設の見守りで心得ていた。動くな!と命令するのは最悪である。そんなことをすれば双方にフラストレーションがたまっていく。関心を引くプログラムをやって、時の経つのを忘れさせるのがベスト。

 妖怪クイズからはじめたが、そこは年寄りと違って子どもたちのテンポは速い。年寄りなら小一時間はもつネタが十五分ほどで終了。幽霊の話は十分もたなかった。何故、後ろ髪が長く足がなく手がひょろひょろなのかという講釈である。年寄りなら膨らむ話が、膨らむどころか萎んでしまった。

 こうなると即興でやるしかない。さいわいタブレットPCは持参していた。妖怪の絵を見せるためである。ただ、想定していたのは走り回れないような一部の子どもだ。そういう子がもし一人二人いたなら、その時はタブレットで対応するつもりだった。十人近い子どもたちをタブレットに引きつけるのは、そもそも無理があった。そこを話術で乗り切ろうとしたわけだが、それがいかに無謀なことか、語りはじめてすぐに悟った。
 何度も云うようだが、何しろ子どもは頭の回転が速い。また、こっちが予想もしない質問をしてくる。考える暇を与えてくれないのだ。これはマズイと、頭が真っ白になりかかったその時に、それが起こった。

「奇跡」と云いたいところが、何しろ妖怪のことなので奇跡とは云いにくい。「怪奇現象」ということにしておこう。妖怪の静止画像が動き出したのである……

 映画のようではなかった。あたかも「妖怪村」が実在していて、そこをカメラが中継しているかのようだった。映し出されたのは、人間と妖怪が仲良く暮らす村の日常だったから……

 子どもたちが夢中になったのは云うまでもない~

いらっしゃい~
ちょっと混んでるが、気楽にやってくれ
ちがうちがう、そこはこうだ!
その言い訳は、先月も聴きました!
今いいところなんだから、邪魔しないの……
へんなとこ、撮らないでよぉ

 
追伸 おかげさまで迷子の子も無事、見つかりました!


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