私のダンナが辞めるまで(24)
準備
夫が転職を決意した。
結婚を機に、女ではなく男が辞める。それは会社創業以来初めてのことだった。
"前例がない"ことを嫌う経営陣、特に人事役員に知られては圧力がかかる。
さて、どうするか。
翌日、私は直属の上司である課長を呼び出し、夫が退職する意向であることを話した。
「僕も貴女が辞めるのは勿体ないと思う。でも人事がどう言うかなぁ…」
予想通りの言葉が返ってきた。
私は営業部の役員に相談したいと申し出て、課長に同行をお願いした。
役員室に入り、2対1で向かいあった。
課長は夫が退職する意向であることに加えて、私が営業部に必要だと言ってくれた。
-役員、前例がないのは分かっています。
でも会社にとって、どちらが辞める方が損失が大きいか、よく考えて頂けませんか?
役員は少し驚いた顔をしていたが、うんうん、と頷いた。
「君からそんな言葉を聞くなんて、成長したな。
分かった。役員会で私が話そう。」
その日の夕方、すんなり夫の退職が決まった。
チャラ人事役員の抵抗を避けるため、営業部の役員が、会議前に社長を説得し、役員会で決定事項として発表したのだ。
崖っぷち
夫の転職活動は、予想通り全く進まなかった。
転職サイトを教えても、見ているだけで登録しない。情報収集もしない。
だが、3ヶ月後の退職は決まっている。
急かしてもいい結果は得られないので、とにかく見守ることにした。
そして2週間が経ち、思うように進まない状況に夫は絶望しているようだった。
(やっぱりその場の勢いで、自分で探すって決めちゃったんだなぁ…)
-先輩にもう一度、お願いしてみたら?
待ってくれてるんだから。
夫はそれからもう1週間悩んだ末、先輩の方から
「早く決めろ!」と電話で叱られ、やっと先輩の会社へ転職すると決めた。
晴れて、私たちは予定通り、来年結婚式を挙げることが確定した。
つづく…
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