作詞講座 第三回 「人称」

人称を考える。
一人称、二人称、三人称などという人称のことだ。

まずは吉田拓郎の歌の例から。

わたしは今日まで生きてみました
時にはだれかの力をかりて
時にはだれかにしがみついて
わたしは今日まで生きてみました
そして今 わたしは思っています
明日からもこうして生きて行くだろうと

今日までそして明日から 吉田拓郎

「わたしは・・」という明快な一人称。
続いて、井上陽水の歌の例。

つめがのびている 親指が特に
のばしたい気もするどこまでも長く
アリが死んでいる 角砂糖のそばで
笑いたい気もするあたりまえすぎて

たいくつ 井上陽水

先の吉田拓郎同様、自分からの視点の歌だが、一人称というよりもモノローグ。一人語りで、人称代名詞は出てこない。よりいっそう、話者(歌い手)の心情が強調されて感じられる。

二人称、語りかける歌詞も、世の中には多い。
「君がすき」「I Love You」恋の歌はおおむねそんな二人称だ。

あなたはもう忘れたかしら
赤い手ぬぐいマフラーにして
<神田川>

<神田川 かぐや姫(詞:喜多條忠)>

もう終わりだね君が小さく見える
僕は思わず君を抱きしめたくなる
「私は泣かないからこのままひとりにして」
君のほほを涙がこぼれては落ちる

<さよなら オフコース(詞:小田和正)>

小田和正のラブソングは君と僕の世界の典型だ。さらに、この歌詞では女性の台詞として「私は・・」と女性側からの一人称を組み入れるという技法を使ってる。

二人称問いかけは、恋の歌でなくてもいい。
一人称で一人語りしてもいい内容を問いかけの形にすることで、強く聴く者に訴えるという形をつくることができる。

君の欲しいものは本当に望むものなの
その欲望は誰かの手でつくられたものじゃない?
だけどひとはひとの模倣の中でしか生きられない
はるかはるかの昔から繰り返してきた営み

葉音 -Sound of Leaf- 頭慢

始めて私が「問いかけ」の二人称を意識して作った歌。2012年の作品。
問いかけを歌詞の最初に持ってくることで、いわゆる「つかみ」、オーディエンスを引き込む。だが、二行目までは問いかけだけど、三行目からは問いかけるでもない。モノローグ的であるが、淡々と「こういうもんだ」という語り。

二番も同じような形で始まるが、三行目からは「君」という二人称を使いつつモノローグ的。

だけど君の欲しいものはきっと誰にもわからない
まだ見えないものは可能性の中でしか語れない
君の愛するひとが明日笑顔でいるために
今日を明日に、明日を明後日につなげてゆけたら

<葉音 -Sound of Leaf- 頭慢>

そのあと、三人称的「神」を主語にして語って、

山の神はそっと地を震わせて
海の神がわずかに波を寄せる

<葉音 -Sound of Leaf- 頭慢>

サビでは、誰か、不特定多数に呼び掛ける。「持て」「聴け」。

祈りの声をいつかどこかの誰かに届けるために
鞄の中に何を残すかを選べる力を持て
街の木立の梢に残った一枚の枯葉が
風に震えるその音を聴け心を研ぎ澄まして

<葉音 -Sound of Leaf- 頭慢>

そんなふうに、人称の移動を意識した歌詞づくりをした歌だった。

最後に、明快な三人称の歌詞の例を挙げておこう。

彼は目を閉じて枯れた芝生の匂い深く吸った
長いリーグ戦しめくくるキックはゴールをそれた

<ノーサイド 松任谷由実>

まわるまわるよ時代はまわる
よろこび悲しみ繰り返し
今日は別れた恋人たちも
生まれかわってめぐりあうよ

<時代 中島みゆき>

やんちゃ坊主が走ってく
この界隈に夕陽が落ちる
赤んぼ抱いた婦人がせわしなく
せんたくものを取り込んで

<ゆうやけ N.S.P (詞:天野滋)>

「彼」「時代」「恋人たち」「やんちゃ坊主」「婦人」。三人称を使った歌詞である。それぞれ、三人称を使うことで、淡々とした第三者的な描写となっている。

一人称で、自分を強く表現するもよし。二人称で、オーディエンスを引き込むのもよし。三人称で、歌詞に説明付けをしたり、第三者としての描写をするもあり。

人称ということを考えて、歌詞にバリエーションを持たそう。
また、たとえば一人称でも「私」「僕」「俺」「あたし」「われ」日本語には色々な表現もある。色々使ってみよう。
いちど、歌詞を作った後で、その人称を変えてみると、ちがう雰囲気になるよ。
人称を意識して歌詞をつくろう。

作詞講座 第三回のまとめ
「人称を意識しよう」

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