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「ロクスノ」のシューズテストについて


はじめに

以前、私は「ロクスノ」はなぜつまらなくなったかという記事の中で、シューズテストにあれほどのページ数を割く必要性はない、という旨のことを書いた。

有益性という点でアピールする点はあるものの、近年はシューズに著しい進化があるとは思えず、マンネリ化している。一部に根強いニーズがあるようだが、カラーでそれほどのページを割く必要性があるとは思えない。

シューズに限らずあらゆるギアに言えることだが、ギアはあくまでも手段であり、脇役である。それがゲームの性質を大きく変えてしまうようなもの(例えば、アルパインクライミングにおけるドローンとか…)でない限り、トピックとしてゲームそのものより重要になることはなく、扱いもそれに見合ったものでよいと思う。

自分のnote「『ロクスノ』はなぜつまらなくなったか」より

にもかかわらず、早速101号でシューズの特集が組まれているではないか!

また、私の記事に対し(?)、いくつかご意見をいただいたので、それらにも触れながら、自分なりにこの特集記事について考えたい。

正直、当初そこまでの関心が無く、やる気も無かったのだが、調べれば調べるほど深みにはまり、書き終わった今となっては「実は、それなりに面白い記事だったのではないか」という風に思っている。
また、この特集記事だけを見ても、この雑誌が号を追うごとにつまらなくなっていく様が、手に取るように感じ取れた。

シューズテストが続く理由

人気がある

なぜこれが続いているかというと人気があるからである

森山編集所

ストレートなご意見で、これについては反論する材料が無い。雑誌は売れないとしょうがないので、人気があるならある程度ページを割かなくてはならないのだろう。自分の周りには登山寄りの人が多いので、人気記事というイメージはないが、雑誌のメインのターゲット層?であるスポーツクライミング層の支持が大きいのではないか、と推測する。

シューズは最も重要なギア?

シューズはクライミングにおいて最重要、というご意見もあった。

少なくともロッククライミングにおいては、裸足で登る例外的なクライマーを除き、重要度が高いことは間違いない。「進化の過程」が記録されていれば、確かに価値はあると思うが、私の前提はこのところ「シューズに著しい進化があるとは思え」ないというものなので、ここは見解の相違だろうか。

大人の事情

それ以外にも、メーカーやディストリビューターとタイアップしやすいというようなビジネス的な側面や、森山氏が挙げていた「編集的に作るのがラク」というような理由もあるだろう。
ただ、記事にかかる労力と記事の面白さは、ある程度比例するのではないか、とも思う。もちろん、いくら凝ってもつまらない記事はつまらないだろうが、やはり楽に作れてしまうものは内容が浅かったり、金太郎飴的な内容になってしまうきらいがある。

バックナンバーより

正直、この記事を熟読したことがなかったのだが、これを書くにあたり一通り読んだ。自分が気になった部分を中心に、以下、ダイジェストでまとめる(あと、個人的に印象に残った言葉をいくつか引用した)。意外と長くなってしまったので、読み飛ばしてもらっても構わない。

#12:2001年夏

おそらく、この雑誌が創刊してからはじめてシューズテストを記事化したのだろうと思う(「岩と雪」でも過去に関連記事があったようだ)。ちゃんとした前置きがされている。

ふつう岩を登るには、多くのギアが必要だと思われている。
(中略)
しかし(中略)これらのギアはすべて登るためのギアではなく安全確保のためのものである。
となるとフリークライミングにおける”登るための”ギアといえるのは唯一シューズということになり(以下、略)

ROCK&SNOW #12

これは先のTwitter上のご意見とも重なる。シューズというのは特別な存在なのだから、こうして特集を組むに値するのだ、ということだ。それに対する意見は分かれたとしても、こういう丁寧な理由付けは大事だと、個人的には思う。

なお、本記事はテスト方法やテスターの選定についても、詳しい記述がある点で、これに続く他の記事よりも優れている。それは、概ね以下のようなものであった。

  • 人工壁、花崗岩、石灰岩の3カ所でテストしている

  • シューズのサイズが近い3人を選定した(サンプルを用意する都合上)

  • 「各モデルの評価は、テスター3人にそれぞれのチェック項目を10段階で評価してもらい、その平均値をグラフ化した。赤い線のグラフは岩質別、青い線のグラフは機能別の評価を表している。」(テスター個人の採点がわからない点が、その後のテストとの大きな違い)

また、最後に「アドバイザーが語る3大ブランドの魅力」という記事が打たれ、それぞれ平山ユージ(ボリエール)、山崎岳彦(スポルティバ)、小山田(ファイブテン)が語るという充実ぶりだ。個人的には、ここにボリエールが入っていたことが驚きだった。

岡野寛
「ぼくはとにかく、こうやって登れってのはイヤなんで。登る側の技を引き出してくれるような靴がいいですね」

ROCK&SNOW #12

テスター:岡野寛、飯山健治、杉野保(以下、敬称略・順不同)

#19:2003年春

ここでも、テスト方法に関する記述があったが、残念ながらこれが最後になってしまう。それは、「テストする岩場、人工壁はそれぞれのテスター任せ」というものである。おそらく、諸々の手配が大変だったので、簡略化したのだろう。それはそれでよいのだが、誰がどこでどのようなテストを行ったのかは、採点や講評を読み解く上でとても重要だと思っている。

その点では、テスターの経歴を紹介するだけでなく、「クライミングより(?)クライミングシューズを愛する男」や『足を使ったクライミングをする』クライマーというような、キャッチコピーをテスターにつけているところが、本号は好感がもてる。

室井登喜男
「ぼくは違いがわからないかも。今回の全体でもボリエールとマッドロック以外は全部同じに感じましたけどね。」
「ミウラーは足入れがいいから30分くらい履いていられるし。走ったりできますよ。」

ROCK&SNOW #19

テスター:鈴木邦治、篠崎喜信、室井登喜男

#31:2006年春

前回から3年の時を経て現れた本号は、自分が計測した限り、史上最も辛口な回となり、レッドチリの「X キューブ」とNEPAの「スパイダーX」がオール1(合計3ポイント)を獲得するという、大荒れの展開となった。個人的には、ベビーフェイスな渡辺数馬氏がとても辛口だったのが、ギャップになってよかった。

また、ここでの佐川氏の発言「岩雪のシューズテスト2回目の1位がレーザーで、2位がモカシムだったから。」から、「岩と雪」でも、シューズテストがあったことを知る。また、豆知識として、ファイブテンの「オンサイト」が、「小林由佳が開発に参加したモカシムのニューモデル」として、「ユカシム」と呼ばれていたことなどが披露される。

杉野保
「まあその後、僕はモカシム一辺倒です。というのは、もう僕はその時点で柔らかい靴用の足ができあがってたんですね。もちろんモカシムは面で乗る靴なんだけど、それで点にも乗れる足になってしまっていた。」
「靴とクライマーが一体化して進化していくってこと。」

ROCK&SNOW #31

テスター:佐川史佳、杉野保、渡辺数馬

#36:2007年春

本号では、理想のシューズは「履き分け」という話が、小澤氏と大西氏の二人から生じる。対し、遠藤氏が「やっぱり人によって分かれるんじゃないかな。履き替えと一足派に。」と返す展開に。前述の杉野氏(「モカシム」)や室井氏(ミウラー)が一足派に属すると思われるが、どちらかというと珍しいようだ。また、シューズテストという記事の特性もあってか、これら一足派はその後、姿を消してゆく。

また、本号には、新井裕己氏による「クライミングシューズ解体新書」が続き、これがまた結構な情報量である。

小澤信太
「僕なんかは多くの部分でシューズに頼ってますね。だから、そのルート、課題に対応するベストのシューズで臨みたい。」

ROCK&SNOW #36

テスター:遠藤由佳、小澤信太、大西良治

#44:2009年春

ここでは、「クライミングシューズ新時代」と題し、シューズのタイプを次の3つに分類する前置きが入る。

  1. これまでの進化を受け継ぎ次のレベルへ行こうとするもの

  2. ある目的のためだけに特化したもの

  3. どんな状況でも無難にこなすオーソドックスなもの

毎年こういうのを書こうとすると、さすがにこじつけになりそうだが、たまにはこういう時代背景とか変化についての言及がほしい。そうでないと、この特集の位置付けがわからないのだ。

ちなみに、本号は手元の集計で最多レビュー数を誇るテスター御三家の一人である荒川氏 a.k.a「Mr.3」(後述)が初登場した記念すべき号である。

荒川裕一
「昔から、事務用と岩場用を使い分けてる人はいたけれど、どちらかというとエキスパートというかエリートといわれる人々だった。でも、今はそれが一般化しています。それは、やはり登る時間が増えたからですよね。」

ROCK&SNOW #44

テスター:荒川裕一、小澤信太、中根穂高

#56:2012年夏

#51は、どういう壁に向いているかを表現するチャート図が消えた以外に特筆事項が無かったので、割愛。#56にきて、累計レビュー数第二位を誇るテスター御三家2人目である山崎岳彦氏が登場する。また、氏が「ずっとロックピラーズのアドバイザー」をしていたことが明かされる。

あれ?確かスポルティバのアドバイザーもされてましたね?
この辺が採点にどのように反映されるのかは、要チェックである(後述)。

テスター:荒川裕一、小澤信太、山崎岳彦

その後

そろそろ疲れてきたので、ダイジェストで紹介する。

2014年の#65では、満を持してテスター御三家最後の一人である稲葉織也氏a.k.a オリャー氏が登場する。また、テスター紹介欄にそれぞれの過去ベストシューズについての記載が追加される。

2015年の#69では、これまで行われてきた座談会が、ついに無くなる。前置きやテスト方法の記述が無くなり、意義付けが無くなり、ついには座談会まで無くなり、「シューズテスト」から一切の文脈が切り取られた。この記事はどこから来てどこへ行くのか、それはまるで木にかかった白いブラジャーのように、私を混乱させる。

一切の文脈が切り取られたものの象徴

続く#73(2017年)については、特記事項無し。
#77号(2018年)は、近年では珍しく趣向が凝らされており、ソックスの検証記事が追加されたり、シューズのリソールに携わるようになったフレッド・ニコルや裸足のクライマー、シャルル・アルベールのインタビュー記事等が追加されたり、と久しぶりに充実した。
なお、近年の3号(#85、#93、#97)については、型通りで無味乾燥である。

こうしたら良くなる

正直、この企画にそこまで期待していないので、私からの提案はあんまりない。X(旧Twitter)で見つけたいくつかのご意見を引用させていただきながら、いくつかご紹介したい。

文脈が必要

何の説明もなく、いきなりシューズの採点を始めてしまってはいけない。
どのような時代背景や潮流で、今どのようなシューズテストが作られているのか、どのメーカーが新興で、どのモデルがどこでどのくらい使われているのか、テスターが実際にどのようなテストを行ったのか、少しでも文脈が欲しい。
前述の木にかかっていたブラジャーでたとえるなら、誰がどのような経緯でそこに残置したのか、という説明が絶対に必要である。そうでないと、対象に入り込めないのだ。

歴史や流れを踏まえて

その点、次号は「HISTORY & TEST」ということなので、このような読者の声が反映されたような気がしている。

辛口レビューも必要?

これはシューズテストに限らず、誌面作り全般にもかかわるご指摘だと思う。シューズテストに限れば、実際に当たり障りのない採点をする人が、テスターとして多く登場するという傾向が、データからも明らかになっている(後述)。

特徴のあるテスターを

このご指摘もその通りだと思う。

データから読み解く

ここでは、過去19年、13誌分(#19、31、36、44、51、56、65、69、73、77、85、93、97)の評価点を集計し、それがどのように推移してきたか、どのメーカーが高得点をマークしてきたか、誰がどのような採点をしてきたか(テスターごとの平均点、レビュー総数等)について、まとめた。
これについては、やや内容がデリケートであること(故にでも見せる内容ではないこと)、まあまあ手間がかかっていること(故にお小遣いを頂いてもいいんじゃないかなんて思っていること)などから有料としました。ご興味のある方は、課金されたし。

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