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個別指導塾と家庭教師のメリット・デメリット

 子どもに個別指導を受けさせたいと考える保護者にとっては、個別指導塾と家庭教師という2つの選択肢があります。今回は両者のメリット・デメリットを整理してみたいと思います。なお、比較しやすいように講師1対生徒1のマンツーマン指導を念頭に置くことにします。

〈個別指導塾のメリット〉
①自習室がある
②他の生徒たちも別のブースで勉強している空間
③教室長が講師とのコミュニケーションを橋渡ししてくれる

〈家庭教師のメリット〉
①通塾が不要
②保護者と講師が日常的に会話できる

 上のように考えると、何となく個別指導塾の方が便利なのではないかと思う人が多いのではないでしょうか。しかし、必ずしもそうと言えません。案外家庭教師の方が良い場合があります。もっと詳しく考えていきましょう。


自宅に授業できる場所がない?

 まず、自宅が狭くて勉強を教える場所がないから家庭教師は検討もしないという人がいるかもしれません。しかし、場所なんていくらでもやりようはあるはずです。子どもの勉強部屋が狭ければリビングを使えばいいでしょう。授業はせいぜい2時間程度のものです。その間家族が自分の部屋にいれば問題ないでしょう。
 もし家族が多くて勉強に専念できる場所が本当にないのであれば、さすがに自宅指導は難しいと思います。(カフェやファミレスで授業をすることも出来なくはありませんが、店内の混雑状況などに左右されてしまいます。)

どこで自主学習するのが好きか

 自宅で勉強するのが好きな子と、自習室で勉強するのが好きな子がいます。塾に通っていても自習室ではなく自宅で勉強する子もいます。もし自習室が必要なら塾に入る必要がありますが、普通の塾には自習室はありますので、個別指導塾でなくても良いことになります。あくまで自習室目当てで塾を利用するということであれば、集団授業や映像授業の塾に行くという選択肢もあります。また、授業がない日も自習室は利用できますので、とにかく通いやすい教室を選んだほうがいいでしょう。
 注意が必要なケースとしては、子どもは自宅で勉強するのが好きだと言っているけれど、親から見て勉強に集中できているように見えないので、自習室に通い詰めることを要求する場合です。よくあるケースだと思います。環境を変えなければいけないという親の危機感は分かりますが、子どもの気持ちが付いてきていない場合は無駄に終わるかもしれません。自宅であれ自習室であれ、どのみち自主学習ですので、サボろうと思えばいくらでもサボれます。子どものモチベーション次第です。塾によっては親の意向を受けて、子どもに自習室に残るように強く指導する所もありますが、大抵の場合は子どものモチベーションはさらに下がり、子どもの塾スタッフとの関係性も悪くなっていくように見受けられます。要するに、親の思い通りに子どもをコントロールしようという発想で動くと、いろんなところに歪みが出てきてしまうということです。

スタバで勉強するのが好きな子は多い

 とくに高校生の女子に多い傾向ですが、カフェで勉強するのを好む子は多いです。良い場所にスタバがあれば理想的でしょうが、スタバは混雑もしますし、テーブルが小さい席もありますので、ある程度落ち着いて過ごせるお店を探す工夫も大事になるでしょう。
 自習室目当てで塾に入る代わりにカフェ代を出してあげるという選択肢も意外とあるかもしれません。

保護者と講師とのコミュニケーションはどうあるべきか

 さて、じつはここからが本題です。個別指導塾と家庭教師の一番の違いは、講師とのコミュニケーションのあり方になります。塾であれば、保護者が話す相手は講師ではなく教室長になります。(肩書きは「教務社員」など会社によっていろいろですが、会社の社員である点は変わりません。)保護者が講師とは直接話したこともない、顔も知らないというのはよくあることです。では、教室長が間に入ることの良し悪しをどのように考えればよいのでしょうか。

ポイント① 教室長は教育のプロではない

 小さい塾なら教室長が講師を兼ねており、いちばんやり手の講師だったりすることもありますが、いくつも教室を展開している塾になると、教室長は授業をしない、ただのビジネスマンである場合が多いと思います。教育学の知識があるわけでもなく、教育理念を持っているわけでもない人がほとんどだと思います。

ポイント② 講師は保護者の要望を「聞き捨てる」ことがある

 一方の講師のほうは様々な人がいます。とりあえず教科指導ができるだけの大学生アルバイトもいれば、元教員や現役非常勤講師のような経験豊富なプロの教育者もいます。保護者としては、大学生アルバイトと一々コミュニケーションを取るのは煩わしいかもしれませんので、教室長から伝えてもらう形のほうが便利かもしれません。しかし経験のある社会人講師の場合には、(よくものを知らない)教室長が間に入ることによって、かえってコミュニケーションが阻害されてしまうことがあります。
 これは教室長という立場を考えれば分かりやすい話です。教室長は保護者から要望を聞き取って講師に伝えようとします。それが「顧客満足度」につながると考えるからです。しかし、プロの講師から見れば、その保護者の要望が非合理的なものに思えることも少なくありません。ここに対立が生じるわけですが、(あまりものを考えていない)教室長はこれを調停する能力を持っていません。ここで外形的な話もしておきますと、一般にプロ講師は業務委託契約を結んでいる社外のフリーランスですので、教室長の指揮命令を受ける関係にはありません。教室長は講師に対して「保護者は〇〇をご要望です」と伝えることしかできないわけです。なので講師は保護者の要望を「聞き捨てる」ことがあります。保護者からすれば「要望したことが無視された!」ということになるでしょう。
 このような問題を収拾するためには、結局のところ保護者と講師が直接対話するしかないのだと私は思っています。伝言ゲームでは無理です。教室長のようなビジネスマンが間に入らないほうが、講師の本音を聞くこともできるでしょう。その意味で、ごまかさずにちゃんとコミュニケーションをしながら進めたいのであれば、塾よりも家庭教師のほうが適していると思います。
 ただし、プロ講師の全員が教育学の勉強をしているわけでもありません。得意教科のオタクのようなタイプの講師も多いです。その場合には指導方法について保護者の方から要望を出せば、その通りにやろうとするでしょう。そういう講師もいます。
 もし、保護者自身が焦りや不安を感じているのであれば、子どもを塾に通わせるだけにするよりも、家庭教師を家に招いて、ちょっとでも講師と会話することで落ち着けるかもしれません。親の焦りや不安は子どものメンタルに影響しますので、そうした方が子どもにとってもプラスになるかもしれません。家庭教師、とくにコミュニケーション力に長けた講師であれば、そういうサポートができます。

管理を徹底するために家庭教師を雇うのはナンセンス

 最後に注意点を一つ。保護者の中には、個別指導塾だと子どもがどんな講師の下でどんな指導を受けているのか見えないことが不満で家庭教師を雇うケースがあります。その方がより自分の思い通りの指導をさせることができると考えてのことです。完璧主義の親に多いケースです。親の中にすでに理想の教育のイメージがあり、家庭教師はそれを遂行するための駒とみなします。このような、管理を徹底するために家庭教師を雇うというやり方は非常にリスクが高いのでお勧めしません。1対1の人間関係で「管理」や「抑圧」というモードを前景化させてしまうと、子どもには逃げ場がありませんので、かなりの地獄になります。そうすると授業中に黙ってしまったり、宿題をやったと嘘をついたり、本音を隠したりしてコミュニケーションが成立しなくなります。信頼関係が成立せず、モチベーションも上がらず、そのうちに指導終了となります。「もっと自分の思い通りにしたいから」という考えで家庭教師を選択するのは間違いです。

まとめ

 現代は個別指導塾に人気が集まっていますが、本当にそこまで良いものなのか、私は疑問を持っています。とくに保護者と講師とのコミュニケーションにおいて問題があると思っています。塾の商売上の論理が介在するせいでおかしくなっていると感じます。もし良心的で誠実な講師を見つけられるのであれば、塾を介在させずに直接付き合った方が実りが大きいのではないかと思います。その見つけ方としては、家庭教師派遣会社に問い合わせる際に、「生徒とも保護者ともちゃんと誠実に対話してくれる先生がいい」と伝えてみるのはいかがでしょうか。コミュニケーションの上手さにおいて定評のある先生なら安心だと思います。
 逆に言えば、大学生のアルバイト講師に教わりたい場合には、家庭教師よりも個別指導塾の方が良い気がします。大人や先輩の目があるところで仕事をしてもらったほうが多少は質が上がることが期待できますので。
 また、あくまで教育をビジネスライクに捉えている家庭においても、塾の方が使いやすいかもしれません。シンプルに、塾に要望を伝え、期待通りの成果が見られなければさっさと解約するという使い方をする限りにおいては、塾とドライな関係を結んだ方が都合が良いでしょう。(私は教育とはビジネスではないと思いますが、そういう家庭の方針なら止めようがありません。)

 いろいろ書いてきましたが、もし迷うならとりあえず併用してみるという選択肢もあります。やってみて良い方を残してもいいでしょうし、科目ごとに使い分けてもいいでしょう。子どもの気持ちをよく聞きながら進めていけば、まず大丈夫だと思います。

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