突然ショートショート「スーパーウーマンになりました」
楽にあれこれできたらと、ついつい考え込んでしまう。
先人達は言う。「楽に物事が進むんだったら、こんなに苦労はしない」と。
そんなことは口ではわかっている。しかし、その苦労というものを私はどうにも受け入れにくく、その旅に何かご褒美をぶらさげたり、自分に鞭を打ったりして努力してきた。
しかし、できるならその苦労からも解放されて、もっと大事なことにパワーを使っていきたい。
そう思っていたある日のことだった。
レストランの仕事を終えて家に帰ろうとしたら、同僚が目の辺りにつける仮面をくれた。
もらったものの、使い道がないからあげるという。
取りあえずその仮面をバッグに押し込んで家へと帰った。
家に帰ると、そこにはいつもの光景。
少しだらしなく散らかった部屋。忙しくて片付けまでうまく回らないからだ。
この部屋をキレイにできたらなとどれだけ思ったことか。
その時、ふと、あの仮面が目に入った。
青と白で塗られた、ヒーロー物みたいな仮面。改めて見てみると、その色と形が印象に残って離れない。
これをつけた自分は、一体どんな感じなのだろうか。そう思うと、つけてみたくなった。
洗面台へ向かう。仕事のスーツ姿のまま、仮面を目の辺りに当ててみる。
顔の辺りだけヒーローに変身したようで、これはおかしいと思った。
すると、マスクの辺りから突然、光が湧いてきた。
どんどんと大きくなって、体全体を包み込む。
周りが何も見えなくなってくると、今度は着ていたスーツが溶けていくような感触がした。
気持ち悪い。そう思っているうちに、再び周りが見えてきた。
鏡に映っていたのは、あの仮面をつけて、赤いマント、そしてアメリカンヒーローのようなおそろいの全身タイツを身に纏った、紛れもない私だった。
どうなってしまったのだろう。そう思うよりも早く、頭が冴えてきた。
未体験のこの状況にもすいすいと説明がつく。
私は変身してしまったのだ。なんでもこなせるスーパーウーマンに。
そうなれば話は早い。
散らかった部屋を大掃除のようにキレイにして、ついでに数日分の食事も作り置き。さらに溜め込んでいた洗濯物もすべて片付けた。
これで完璧だ。そう思った途端、変身は解けた。
仮面はどこにもなかった。
スーパーウーマンの力は、一度きりしか使えないようだ。嬉しいのか悲しいのかよくわからない。
(完)(947文字)