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突然ショートショート「行列代行」/毎週ショートショートnote

 思い入れのある電器店が、今日で潰れることになった。
 電器店にはそんなに縁の無い人生を送ってきた僕だが、この店には思い入れがある。

 それは高校2年生のこと。ある日、部活で中のよかった友達が頭を下げて頼んできた。

「悪い、頼みがあるんだけど」
「何?」
「俺んちのテレビのリモコンさ、買ってきてくれよ」
「…は?」
「いや、無くしちまって、でも時間が無いからさ、代わりに並んでてくれよ」

 お前が悪いだろと思いつつ、僕は友達の指示に従って電器店に向かった。
 すると、そこにはまさかの行列ができていた。

「何でこんなに…?」
「どうやらみんなリモコンだけ欲しいようでね」前の人は言った。
 その後、リモコンは無事に手に入った。

 まさかリモコンに行列が…と思っていると、あれは嘘だったというのを後で聞かされた。
 テレビ局がドラマの撮影に呼んだエキストラで、リモコンの話はエキストラのアドリブだったという。

 ドラマに出ることは無かったけど…という秋の日の思い出。

(完)(409文字)


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