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誰かを指差すときは、3本の指が自分に返ってくることを忘れないでください

心が弱い人がうつ病になる。
統合失調症になる。
メンヘラになる。

悪意がなくても、このように思う人は多い。
精神障害当事者として病気について学んだ私としては、違うんだと言いたくなる。
精神疾患は、おおむね脳内の神経伝達物質の失調・乱調で起こる。
その乱調の原因がストレスだ。
すぐ思いつくように同じストレスで病気になる人とならない人がいる。
平気な人もいるのに病気になったということは、ストレスに対する弱さ・もろさを持っていたことになる。
この弱さ・もろさのことをストレス脆弱性という。
脳にこのストレス脆弱性のある人が大きなストレスにさらされると発病するのだ。

「心が弱い」は心の問題で「ストレス脆弱性」は脳=身体的な問題だから、両者は全く違う概念だ。
このことを一般の人に啓蒙したいと思った私が考えたのが、「心が弱い人が犯罪を犯す」という表現だ。
「心が弱い」を精神疾患から切り話すためには、別の何かと結び付ければよいと考えたのだ。

けれど、実は犯罪を犯す人の多くが脳=身体的な問題を抱えていることを知ってしまった。
もう犯罪者は心が弱いのだとは言えない。
脳に問題があるのだから、その人の心を責めることはできない。

私は、自分が精神疾患についてある程度知っていたことをいいことに、一般の人を啓蒙してやろうなどと考えた。
そして、不本意にも犯罪を犯してしまった人の心を責める言説を広めようとしていた。
恥ずかしい。
「誰かを指差すときは、3本の指が自分に返ってくることを忘れないでください」という格言を思い出した。

どんな脳を持って生まれるかは運だ。
精神疾患になりやすい脳を持って生まれることも運だし、犯罪者になりやすい脳を持って生まれるのも運だ。もっと言えば健全に生きやすい脳を持って生まれるのも運だ。
どんな脳を持って生まれるかを自分で選ぶことはできない。
「あの人」は私だったかもしれない。
多様性を認めるとはこの気持ちのことではないか?

(800字)


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