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ララ・ペニン氏_レクチャーレポート

京都工業繊維大学の卒展・修了展と同時に開催されたララ・ペニン氏のレクチャーを聞いてきたので自分自身で要点を整理する目的としてもメモを書きます。

毎度お馴染みのKyoto-d-lab主宰の会(関西の学生にとってこのD-labという存在がどれだけ重要な存在か考慮していただきたい)

Transdisciplinary designについて

ララ・ペニンさんはパーソンズ美術大学でトランスディシプリナリ・デザイン課程准教授を勤められていた方でサービスデザイン、サスティナビリティデザインなどを横断した活動をされてきた方です。Transdisciplinayというのは「学際的な」という意味の言葉ですが、その名の通り様々な学問的知識を取り込みながら課題解決を行っていくデザインアプローチです。Transdisciplinary design(以下TD)の対応する課題は行政やエコシステムなどいわゆるWicked problems(意地悪な問題)であり特に行政のセクターとのプロジェクトをニューヨークでは行っているらしいです。詳細な内容に関しては実際にこのプログラムを受けられている@daihabataさんの記事が非常にわかりやすいと思われます。

TDの具体的な説明に入る前に言葉の整理としてMultidisciplinaryやInterdisciplinaryなどの他の説明との差異を説明していました。

Transdisciplinary_アートボード 1

Multidisciplinaryは一つのトピックスに対して複数の学際領域での見方が行えるものだと言えます。例えば一枚の宗教画からはその時代の宗教様式や風習をみることもできるし芸術史としての見方もできる、さらにはグラフィックとしての学びも得ることができる状態を指します。

Transdisciplinary_アートボード 1 のコピー


一方Interdisciplinary は一つの学際領域のメソッドを別の領域でも活用するということになります。例えば数学の分野で一つの方程式があるとすればその方法論を気象学や経済学の分野でも用いることを指します。

Transdisciplinary_アートボード 1 のコピー 2


それらとは異なりTDは学際領域の間を越境しながら今の世の中にある課題に新しいゴールを生み出す為のアプローチです。ララさんはこの考え方を星座になぞらえて説明していました。無数の星という知識から星座という学際的な見方を行ってみたり、さらにはそれらを超えた視点を持つというのがTransdisciplinaryという状態であると説明していました。

デザイナーの役割はどこにあるか

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Transdisciplinaryというのは一つの姿勢であり実際に手を動かすときにはデザイナーは他のステークホルダーと協働しながらプロジェクトを進めなければならない、デザイナーの役割は言葉、モノ、プロセス・サービスから最終的には組織、文化まで及びます。この順序はそのままTDのプロセスにも繋がっており抽象的なものから具体的な施策に繋げるまでのデザイナーの役割の変化をララさんは指摘されていました。これは次の項のTDの行動原理にも繋がる考え方です。

Transdisciplinaryである為の9つの原理

これらの背景からララさんは学生とのプロジェクトで得たTDを行う上での基本原理を提示されていました。括弧内は通訳の内容の要約です。

1. Collaboration and Participation(共創と参加を起こす
)
2.Situated thinking (現場での体験が第一)
3.Critical reframing (既存の方法を疑う)
4.Visualizing system (状況・システムの可視化を行う)

5.Experimental prototyping (実際に手を動かしてみる)
6.Design -led research (デザインによって学ぶ)
7.Reflective practice (実践と理論を行き来する)
8.Present and future (今と未来を繋げて考える)
9.Live projects and partnership (パートナーと協働しながら実践する)

これらの原理を活用した事例としていくつかの事例が紹介されていましたが今回は特に議論の対象となったブルックリンの図書館に関する事例について書きます。

コミュニティハブとしての図書館を作る

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ニューヨークのブルックリンにある図書館と協力したプロジェクトで、図書館を地域の交流やコミュニティ形成のハブとして作り替えるプロジェクトです。ブルックリンは犯罪率が高く受刑者や刑務所から出所した方たちにもオープンに使ってもらえる図書館を作ることが目的でした。受刑者や出所した人たちの多さというのはアメリカ全土でも大きな課題となっています。この図書館では入所中の受刑者と家族が通話できるサービスを提供していたりします(写真はそのサービスの様子)。これはまさに現在進行中のプロジェクトですが、始めはスタッフの行動をビデオエスノグラフィで社会学者と共に調査することから始め図書館全体のシステムや仕事の流れを確認したそうです。そこから学生や利用者、行政のメンバーをも交えディスカッションを行い新しいサービスを考えた結果スタッフたちにも課題の共有や解決者としての協力を促せたようです。その最中ではもちろん学生たちによる多くのプロトタイピングや検証を行いながら今もまだデザインプロセスの最中であるというのがこのプロジェクトの説明でした。

デザイナー≠政策立案者

この事例の様にデザイナーが行うのは政策や施策を考案するというのみではなくてステークホルダーを包摂しながら、関係者とパートナーになり共に作ることが望ましいです、その時に必要となるスキルとしていわゆるファシリテーションで行う周囲の人たちを参加しやすくすることや課題を視覚化して多くの人に伝える為の「翻訳」を行うことが重要になります。一方的な戦略立案ではなく相互に関与しあえる関係性やフレームワークを築くことが特に初期の役割としては重要になるでしょう、そのために参加者が新しい目線を得る為のツールをデザインし心理的安全性を保ちながら全体が前に進めるシステムをデザインしなければなりません。

まとめ

・Transdisciplinary designは学際領域をまたぐデザイン手法である
・越境して知識を用いるために多くのセクターと協力関係を結ぶ必要がある
・デザイナーの役割はそれらの関係者に問題を翻訳し全員に参加してもらうことにある


参考記事

この内容を把握した上で記事中でも紹介した@daihabataさんのnoteを読んでいただくと、より飲み込みやすいのではと思います。(追伸:Dai Habata様、面識もありませんのに二度も引用してしまい申し訳ありません。)

以上、言説や解釈に異なる部分あれば是非ご指摘ください、まだまだ勉強中の身なのでこういうトピックスに詳しい方はTwitterの方でもご意見いただけたらありがたいですー。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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