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足りない本

なんとなくぼうっと本棚を眺めていると

あるはずの本がないことに気づいた。

上・中・下巻揃いのシリーズのなぜか中巻だけがない。

はて、と頭を捻る。

割と好きな本だったから失くすということは考えにくいし、どこかに置き忘れていることもありえない。

そうして、ようやく思い出す。

あいつに貸したまんまだったと。

もう何年も会ってないし、ずっと忘れていた。

思い出したら、ムカついてきた。

早く返せよと。

あいつのへらへらしてるそういう適当なところが嫌いだったんだ。

そうやって怒りがふつふつと湧き上がってくるのと一緒に別の思い出が絡まった洗濯物ものみたいに手を繋いで付いてくる。

あざなえる縄のような苦楽の日々がさまざま思い出されて、たしかにあいつはかつてわたしの人生の一部であったということが分かった。

忘れてたのに。

クズ野郎。

今もどっかでへらへらしてんのかな。

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