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ゼブラ企業とコミュニティ 〜社会と経済をつなげるキーワード〜

2016年から始まったゼブラ・ムーブメントでは、
「会社は株主のもの」
「株主価値の最大化が会社の目的」
といった考え方に異を唱え、

「会社はステークホルダー皆を幸せにするために存在する」
「会社は経済的価値とともに、社会的価値を生み出していかなければならない」
といった主張を行って、世界中で大きな反響を呼びました。
そのゼブラ・ムーブメントにおいて、重要なキーワードの一つになっているのが「コミュニティ」です。

本記事では、その「コミュニティ」について、Tokyo Zebras Unite共同創設者の陶山がゼブラ企業を支援する中で感じてきたことをお届けします。

なぜ、いまコミュニティを考えることが必要か?

なぜ、いまコミュニティ*1に注目が集まっているのでしょうか。

・経営論におけるコミュニティ

 一つの背景が、SNSの発達、個人発信の情報の増大などにより、経営論においてコミュニティに注目が集まってきたからです。

 ネット広告、テレビ、交通広告など、私たちの日常生活には「広告」が溢れかえり、また、その広告づくり/企業活動の裏側について情報・告発が頻繁に出されるようになりました。
(一時、「ネット告発」、「Twitter告発」という言葉が流行り、企業自体が喧伝する企業像とその実態とがいかに異なっているかが話題となりました)

そうした背景も踏まえUGC(User Generated Content:口コミサイトやSNSなどでユーザーが投稿したコンテンツ)が、企業の宣伝の面でも有用だという実践例が多数出てきて(食べログ、Amazonのレビューなど)、
「ファンコミュニティ」をつくり、他者から薦めてもらうことが、マーケティング上も重要であるとの考えが広まりました。

※ 「ファンコミュニティ」とはSNSやネット上に形成される、サービスや商品、ブランドに対してのファン集団のことを指します。ファンコミュニティでは、ファン同士の交流やファンと企業の交流などが行われます。主催者が一方的に情報を発信するだけではなく、ファンからも情報を発信できることがファンコミュニティの大きな特徴です。

「ファンコミュニティの意味とは?導入する目的やメリットも解説」から抜粋
https://cxin.coorum.jp/know-how/fan-community/

・伝統的コミュニティの崩壊と新たなコミュニティの誕生

 もう一つの背景が、逆説的に、社会における伝統的な「コミュニティ」が稀薄化してきたからです。
 2010年にNHKで放送された「無縁社会」は、血縁・地縁・社縁の崩壊と、身元不明の自殺者や孤独死の増加に警鐘を鳴らしました。
 また、新型コロナウイルス感染症拡大も踏まえて、日本でも21年2月に「孤独・孤立担当大臣」が任命され、孤独・孤立への注目が集まって来ています。

 社会活動家で元内閣府参与の湯浅誠さんは、「3つの傘が閉じてきた」という表現でこの状況を表現しています。
 「3つの傘」とは、日本の高度経済成長は、正社員である家長(父親)が家族を守り、企業が正社員を守り、国が企業を守るといった構造の中で、個々人が守られてきたという考え方です。
 しかし、90年代以降はこの構図が崩れ、国際競争に企業が敗れ、非正規社員が増え、世帯主の収入が不安定化して困窮化する人が増えてきています。

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 一方で、TwitterやFacebookなどのSNSによって組織を超えた横のつながりができ、転職や業務委託などの新たな仕事の機会も生まれています。

 このように経営のあり方や人と人とのつながり方が変わってきた中で、コミュニティとどのように付き合えばよいのか、取り残される人をいかにして少なくできるのかを考える必要が出てきているのです。

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「応援者コミュニティ」と「受益者コミュニティ」

 ゼブラ企業の支援を通じて、先述した「ファンコミュニティ」を超えて、幅広い意味として「コミュニティ」を捉える必要があると考えます。

・応援者コミュニティ

一つは、その会社/サービスのコンセプトに共感し、応援してくれる人を示す「応援者コミュニティ」という考え方です。

 「ファンコミュニティ」、「ユーザーコミュニティ」もこの一部ですが、サービスの使い手のみならず、サプライヤー、投資家、業務委託先なども、この応援者コミュニティの一員だと言えます。
(会社という独立した人格があると捉えると、経営者や従業員も、その事業・会社を応援する「応援者コミュニティ」の一員になります)

ベンチャー企業においては、その商品・サービスを使ってくれるお客様(個人のこともあれば、企業のこともあります)をはじめ、投資家、サプライヤー、業務委託先(個人としてそのベンチャー企業を手伝ってくれるプロフェッショナルなど)の人たちにも協力してもらわないと、なかなか事業が伸びていくことはありません。(自分が立ち上げをサポートしてきたベンチャー企業は、そういった応援者がいなければ、一社として立ち上がっていくところはなかったと思います)


 特に、B2Bのサービスにおいては、最初にサービスを使ってくれる顧客が非常に重要で、その顧客先の担当者が愛を持って率直に改善すべき点を言ってくれる、一緒に考えてくれることで、サービスの質がどんどんと向上していきます。
 たとえば、私が関わったB2Bの企業においても、最初にそのサービスを使ってくれた一部上場企業の部長さんが、様々な指摘をし、試行錯誤(ピボット)にも付き合ってくれ、さらにはイベントの登壇、ビデオ出演もしてくれて、そのサービスの意義や効果を世の中に宣伝してくれたことにより、昨今、数億円規模の資金調達を完了するところまで事業を進めてくることができました。

・受益者コミュニティ

もう一つの捉え方が、そのサービスが解決したい課題を有する人々が集まった「受益者コミュニティ」です。
 たとえば子育てシェアを提供しているAs Mamaであれば、子供を育てながら繋がりを欲しているお母さん、お父さんのことであり、障害者の就労支援等を行っているLITALICOであれば、その就労支援の対象となる障害者の方々になります。

 こちらは、企業・サービスが奉仕する対象としてのコミュニティであり、本来的な意味(なんらかの共通点を持った構成員のための集団であり、所属メンバーそれぞれが異なる目的を持つ)に近い意味でのコミュニティになります。*2

「コミュニティ」という言葉を使っていると、どんな位置付けのコミュニティで、具体的に誰を対象にしているのかに無自覚になって議論してしまいますが、こうした趣旨が異なるコミュニティを整理しながら考えていくことが重要であると考えています。

コミュニティと、どのように付き合うか?

 それでは、ゼブラ企業の経営を考える時に、具体的にコミュニティというものに、どのように向き合っていけば良いのか、3つのちょっとしたコツ/考え方をご紹介します。*3

・「コミュニティ」の解像度を上げる

まず第一は、「コミュニティ」という言葉を使う際の解像度を上げることです。一言で「コミュニティ」と言っても、「応援者コミュニティ」と「受益者コミュニティ」が混ざっていることも多いので、それを整理し、それぞれ、どのような方々がコミュニティの参加者としているかを整理することです。

 たとえば、子育てシェアを行うAs Mamaの例で言えば、
・受益者コミュニティ:子供を育てながら繋がりを欲しているお母さん、お父さん
・応援者コミュニティ:そうした受益者を応援したいサポーターや行政、NPO、受益者を対象顧客にしている不動産会社や消費財メーカーなど
と整理できるかと思います。

また、たとえば、LGBTQにまつわる事業活動を行なっているゼブラ企業であれば、
・受益者コミュニティ:LGBTQの方々
・応援者コミュニティ:LGBTQの方々を応援したい人(LGBTQの親族・友人を持つ人)、NPO、LGBTQを対象顧客にしている企業など
と整理できます。

 もちろん、受益者コミュニティと応援者コミュニティが重なり合うことは多く、特に、受益者コミュニティの人々は、自分たちが対象になっているサービスを応援することが多いので、応援者となってくれることが多くあります。
 一方で、受益者コミュニティのみに訴求していると、活動としての広がりを欠いてしまうことが多くあり(受益者コミュニティの参加者がとても多く、その中でたくさんのお金やノウハウを持っている人が多くいれば良いのですが、往々にしてそうでない場合が多くあります)、
 受益者コミュニティ以外に、応援者コミュニティを広げていくことが一つの重要な鍵になります。

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 そして、その応援者コミュニティの方々が何に共感しているか、何を求めているかを模索しながら、応援者コミュニティの拡大を図っていくことが必要になります。

・“受益者”の考え方を広げる

では、どうやって応援者コミュニティを広げていけば良いのか。
その一つの手法が“受益者”の考え方を広げるというものです。

たとえば、子育てを相互に助け合うサービスであれば、
いま現在子育てをしていなくても、過去、もしくは将来に子育てをしていた/するかもしれない人を対象にすると、その対象者はぐっと広がります。
また、子供時代に周囲の大人の世話になっていない人はいず、人は、誰しも、なんらかの共同体の中で育ってきているものです。

たとえば、LGBTQ向けのサービスであれば、
自分自身はLGBTQではなかったとしても、全ての人は、なんらかの形でマイノリティ(少数派)になる/なり得るということをいかに伝えるかが重要です。
性別、国籍、所属、考え方など、環境が変われば、私たちはすぐにマイノリティになります。

マイノリティに対して寛容な社会をつくること、多様性を認め合う社会をつくっていくことは、全ての人が受益者となり得ます。
(例えば、下記のURLの記事の中盤にある演説(ジェームス・クロフトさんのスピーチ)では、自分たちは誰もがマイノリティであり、マイノリティになる可能性があるということを話しています
https://www.sogo-seibu.jp/shibuya/thinkcollege/20160218/archive.html

このように、直接の受益者でない場合でも、「この活動が行なっていることは、私にとっても重要なことだ」と思ってもらうことができれば、共感の輪を広げていくことができます。

・アクションの明確化

では、“受益者”の考え方を広げ、共感が広がっていったとして、次に何をしたら良いでしょうか。
 マーケティング用語で言えば、Call To Action(コール トゥ アクション)、共感してくれた人に、次に何をしたら良いかを伝えることが極めて重要です。

特に、何らかの社会課題の解決を目指す場合、その社会課題を生み出す構造がわかっていなければ、下手に行動してしまうと、より事態を深刻化させたり、問題を複雑化してしまうことがよくあります。
(たとえば、貧困世帯について強調して喧伝しすぎたり、どの家庭がどの程度貧困であるかを調査しようとすること自体が、その対象者を傷つけることにもなり得ます)

具体的に何をしたら良いのか。
とるべきアクションについて、わかりやすく(かつ、最初は極めて簡単なベイビー・ステップから)明示して、行動してもらうことが重要です。

「コミュニティにどのように向き合い、広げていくか」は、それだけで数冊の本が書けますし、既に何冊もの書籍が出ていますが、簡単なコツとして、
・「コミュニティ」の解像度を上げる
・“受益者”の考え方を広げる
・アクションの明確化

という3つをお伝えしました。

私たち自身の、コミュニティとの付き合い方

私たち自身としても、

受益者コミュニティの見える化(ゼブラ企業同士のコミュニティ化)により(特に、経営者同士を繋げることにより)、
先輩経営者から後輩経営者へのメンタリング、若手経営者から年配経営者に対する最新テクノロジーやマーケティング手法の情報提供、同じような思想を持った経営者同士での助け合いが生まれてきていますし、

ゼブラ企業の応援者の見える化(投資家やサービサー、地方自治体や研究者などのコミュニティ化)を行うことによって、ゼブラ企業・ゼブラ経営を広げ、盛り上げていくことに繋げています。

また、こうした情報発信や、それに対する感想、イベント登壇や、ご関心を持っていただける方とのクローズドな勉強会などを踏まえて、
コミュニティを生み出し、育てていく方法論の探求を行ない、「ゼブラ経営」というものを、より可視化・体系化していければと考えています。

今後もnoteの投稿やイベントを定期的に開催して様々な角度からゼブラ企業に関する情報を発信していきます。
より思考が深まりますし、執筆者のモチベーションにも繋がりますので(笑)、ご意見・ご感想をお待ちしています!
noteとFacebookもフォローいただけると幸いです。
(↑コメント募集、そして、noteとFacebookもフォローのお願いが、まずは自分たちにとっての「アクションの明確化」です。 継続して、みなさんと議論・対話していければ幸いです!)

(文責:陶山 祐司(Tokyo Zebras Unite Co-Leader))

Tokyo Zebras Unite 
連絡窓口:tokyo@zebrasunite.com

FBでいいね を押して頂けると、最新情報が届きます。
https://www.facebook.com/tokyozebrasunite/

文中用語注釈

******
1:そもそも「コミュニティ」とは何か?

「コミュニティとは何か?」という点について、これまで様々な研究がなされてきています。
こちらの記事で簡潔にまとめられているので詳細は省きますが、
・元来の意味は「共同体(あるいは地域共同体)」(一定の地域において営まれている自主的な共同生活)
・「集団を脱中心化して捉え、固定的な構造や明示的なルールに縛られない、所属メンバーそれぞれが異なる目的を持つという前提に立つ」というのが、コミュニティ論的な集団の捉え方
といったところがポイントになります。
https://note.com/yumitonan/n/nb9a155a86278


私が学生時代に受講していた思想史・社会学などの授業では、「コミュニティ/共同体」を論じる際、必ずドイツの社会学者テンニースが提唱した「ゲマインシャフト」と「ゲゼルシャフト」といった概念を引きながら、共同体とは何かを論じていました。

・ゲマインシャフト:共同体組織。なんらかの共通点を持った構成員一人ひとりのために存在する組織。構成員の満足感を高めることが重要なテーマ。
・ゲゼルシャフト :機能体組織。組織自体に目的があり、その目的を実現させるために人材やその他の資源を集め、役割分担や指揮命令系統の整備を行っていく組織。
(参考にした解説記事:https://www.waseda-hm.com/column/p160/ )

 上記の両記事とも、コミュニティ(共同体/ゲマインシャフト)と機能的な組織(ゲマインシャフト)を対比させながら、コミュニティ的な集団の捉え方/その特徴について解説してくれています。
 (ものすごくわかりやすく言うと、コミュニティが“サークル”的(参加者の満足度重視)、機能的な組織が“部活動”的(勝利重視)といった形でしょうか)

 ゼブラ経営においても、機能的な組織と対比させながら、コミュニティを語る/実践することが有用かなと思います。

***
2:ゼブラ企業とコモンズ
あるイベントで「受益者コミュニティ」について議論していたところ、参加者の一人から、「『受益者コミュニティ』とゼブラ企業との関係は、コモンズ(共有地:転じて共同体で共有・共同管理される資源のこと)とも関係がありそう」といった指摘がありました・

 Zebras Uniteでは、ゼブラ企業のあり方として、協同組合※やE2C※といったあり方を模索しており、こうした追求は、まさにゼブラ企業がコモンズ共有資源になろうとしているのだと思います。

※ 協同組合:株主と労働者が分かれるのではなく、労働者コミュニティが株主となる会社の所有・経営形態。昨今では、「協同組合型株式会社」を標榜し、株式会社という仕組みを使いながら、協同組合と同様の意思決定の仕方をしようとする企業も日本では出てきています。2020年には労働者協組法という法律が日本でも成立し、こうした仕組みがより広範に広がっていくことが期待されています。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14982.html

※ E2C(Exit to Community):IPOやM&Aを追求するのではなく、従業員や取引先、地域社会などのコミュニティへとエグジットするあり方

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3:コミュニティをつくり、社会を変えていく方法論:コミュニティ・オーガナイジング
この節で述べているような「コミュニティをどのようにつくり、社会を変えていくのか」を考える際、マーシャル・ガンツ氏(“オバマを大統領にした男”)のコミュニティ・オーガナイジングは極めて有用です。
 コミュニティ・オーガナイジングについて、ちょうど昨年末に書籍が出ましたので、ご関心がある方は、ぜひこちらもご覧ください。




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