見出し画像

誰かを置き去りにする経済成長よりも地域全員の幸せを選ぶ。 「元都市」に構える群言堂から学ぶ、人口減少社会の中で作る新しい幸せの提案

社会的インパクトのために必要な成長をするゼブラ企業。
持続的な成長のためには、ユーザーや社員にとどまらず、生産者や拠点となる地域を含むあらゆるステークホルダーのコミュニティを尊重して事業を作っていく必要があります。

そこで今回は、実際に地域・生産者コミュニティを尊重し、現在アパレル事業を中心に展開するライフスタイルブランド群言堂の松場さんにお越しいただきました。

産地をつなげ、地域に還元する事業のあり方から、今後求められる企業のあり方のヒントを探ります。

(本記事はTokyo Zebras Uniteが毎月開催しているトークイベント”Zebras Cafe”の内容を編集したものです。これまでのイベントのアーカイブはこちらからご覧ください。)

地域に残る価値を再編集して生まれた、群言堂というブランド

阿座上:今日はよろしくお願いします。島根の石見銀山にあり、アパレルなどを通したライフスタイルの提案で有名な群言堂さんですが、改めてご紹介お願いしてもいいですか?

松場:群言堂というブランドをやりながら、子会社の株式会社石見銀山生活観光研究所の代表を務めています、松場です。
私達はかつて人口が約20万人いたと言い伝えられている石見銀山の大森町で、約30年前に事業を興し、今はそこから発信するライフスタイルを日本・世界中に伝えることをミッションとしています。
事業としては洋服を中心とした製品を販売することによるライフスタイル提案をしており、
今は洋服に限らず、布の生活雑貨や、家具、スキンケアなども他社さんと共同で作っています。
丸の内KITTEや全国の百貨店にも店舗も出店しております。

画像1

阿座上:もともとはどのような経緯で創業され、今の事業に至っているのでしょうか?

松場:はい、創業当初は、妻の父、松場大吉の地元、大森町で、布小物の製造の下請けの仕事をしていたのですが、下請けだけだと、いつ打ち切られるかわからないという点で持続的じゃない。そして、「自分たちの地域の良さを活かして、喜んでもらえる物を自分たちで作りたい」という思いが強くなり、自社で製品を作っていくようになりました。

阿座上:地域に残る魅力をうまく再編集することによって、今はこのようなブランドとして確立したのですね。なにがきっかけだったんでしょうか?

松場:もちろん最初からそうした考えがあったわけではありません。
はじめはBURA HOUSEというブランドで、縫製工場などで余った布のはぎれを譲り受けてアメリカンパッチワークの製品を作って販売しており、当時は石見銀山大森町にログハウスを立てることを夢見ていたそうです。

当時、石見銀山大森町を訪れる海外の旅人から、「なぜ日本人は古き良き日本の建物を壊して、ビルを建てようとするのか!」という声を聞いたり、ちょうどその頃、石見銀山大森町が国内でも三例目として「重要伝統的建造物群保存地区(町並み保存)」に選定されたこともあり、地域の人が当たり前だと思っていたものを捉え直して形にしていこうと考えはじめました。

阿座上:その当時は内需獲得を目指して、あらゆるものがアメリカナイズされがちだったんですね。

画像2

松場:群言堂の本店を開くときも、「なぜ人口が少ないこの町で店を開くのか」、「出雲とか県庁所在地の松江とか駅前に出すべきじゃないか」と様々な人に言われましたが、田舎に出すからこそ世界と繋がれるのではないかと考えていましたので、今の地で出店することを決めたそうです。

阿座上:ローカルな立地だからこそ広がる可能性があるということでしょうか?

松場:そうですね、競争の激しい地域にいくと埋もれてしまいますが、地域のなかでやると、「こんなところにこういう場所があるのか」と話題になることもあったそうです。もちろんお客さんがなかなか来なかったようですし、当時、お金もなかったので、山にある草花を活けてわざわざお越しいただくお客様をおもてなししていたようです。

別の視点をもって踏み込む、コミュニティの歪み

阿座上:このように地域の価値を改めてブランドとして昇華する群言堂さんですが、
今は地域のコミュニティだけでなく生産者コミュニティまで、様々なコミュニティを考慮しながら事業をしているとお聞きしました。いつごろから「コミュニティ」という考えは意識しているのでしょうか?

松場:昔は「コミュ二ケーションクラブBURAHOUSE」と店名を名乗っていたくらいで、人が集まる場所にしたいという思いは最初から強かったようです。物を仕入れに来る方がきたときには、家に泊めてもてなしたり、時にはお客さんまでも泊めていたようです。もともと20万人以上の人口の都市だったので、人をよそから受け入れる地域柄というのも昔からあったのかもしれませんね。
そしてその後、人口が減り、衰退した経験を持つ地域だからこそわざわざお越しいただく方を最大限もてなしたいという想いは強い地域なように思います。

阿座上:なるほど、人口がもともと大きかった都市だったからこそ、多くの人を受け入れやすく、かつ人口減少を経験したことで、訪れた方を大切にするもてなす文化などもあいまって、コミュニティを大切にする文化が形作られたと。
今は地域で観光業を促進させるために会社を作ったという話をお聞きしましたが、今後何をしていくのでしょうか?

松場:観光業を始めるのにいくつか理由はありますが、地域一体型経営を進めるためというのがあります。
石見銀山が14年前に世界遺産に登録されてからは、観光客が急増し、いわゆるオーバーツーリズムも体験しましたが、今では観光客数は世界遺産登録前の水準まで戻っています。
それをきっかけに観光の流れも変わっていってしまい、様々な点でゆがみが起きてしまった。

例えば歪みの一つとして、地域の中で入場料を払うような施設は同じ地域を盛り上げる仲間にもかかわらず、結果的にお客さんがひとつの施設に集中してしまいバランスが悪くなってしまっているといったことがあります。
本来はみんなでお客さんが喜んでもらうために、それぞれが施設の役割を全うしていくような地域の構造であるべきなんです。それが歪んでしまっていると。

そのため今はそれらの歪みを改善するため、地域一帯型経営を進めており、そのための組織づくり、施設間の連携を進めるための音頭取りをしています。

阿座上:面白いですね。ゼブラを語る上でのキーワードにも、”独占よりも共有”があります。
一方、みんなで連携し合うというのは、正直難しい部分もあると思いますが、具体的にはどのようにその地域一体型経営を進めているのでしょうか?

松場:例えば石見銀山ウォーキングミュージアムというものをやりました。町を一つの美術館とみたてて、入館料を取る施設それぞれにアート作品を設置して共通券で見て回ってもらおうということをやってみたんです。
これは群言堂が入館料をとるビジネスをやっていなかったからこそ入り込めたと思っていて、
もし入館料取る事業者同士が進めようとすると、お互い売り上げの中心が入館料となっているので進めづらいかもしれませんが、自分たちが全く違うビジネスをやっていたからこそ入り込めたと思っています。笑

阿座上:こいつだけがうまくやろうとしていないと思われるのって重要ですね。

松場:移住して8,9年経っていたことや、コミュニティとして400人くらいということもあって、話して理解してもらえる関係性になったのも大きいです。これを移住後にすぐやろうとしていたら空中分解していたかもしれませんね。

画像3

サプライチェーン全体で”ライフスタイル”を提案する

阿座上:群言堂の商品は、コミュニティの中でもそれらの商品を作る生産者コミュニティも大事にしていると伺ったのですが、それらの背景や詳細についても教えていただけますか?

松場:群言堂は日本のものづくりをテーマにしています。
経産省のレポートによると、日本に流通している商品の流通量の2%しか日本製はないとのことです。そんな時代だからこそ、私達は日本のものづくりを大切にしてきたいと考え、
自分たちで機屋さんと取り組んで、オリジナル生地を作り、国内の縫製工場で縫ってもらい、仕上げて販売するまでを30年間やってきました。
今は商品開発のさらに川上のほうに向かい、そもそもの糸作りのところから紡績メーカーと一緒に企画を始めています。
私達はこの商品開発のつながりのことをバリューチェーンと呼んでおり、これを通してもっとお客さんが喜び、商品を通して多くの人と繋がれる方法論の構築をしていこうと思っております。

画像4

阿座上:ものづくりのなかの、最後のアウトプット(販売、製品ブランディング)を行う立場にいるからこそ、サプライチェーンのうちの川上にいる方の人を引っ張っていく必要があると考える姿勢はすごいです。いわゆるD2Cのスタートアップだと、まず売上を作るのがどうしても先行してしまうので。

松場:私たちの事業は、「ライフスタイル」を提案することがとなっています。
ライフスタイルとはすなわち、生き様だと思っていて、ただお金を稼げればいいとかではなくて、その稼ぎ方も生き様にあらわれてくると思うんですよね。

また、創業当初から、布の端切れをつなぎ合わせたパッチワーク商品を手作りしていたなど、そもそものものづくりの起点が少し特殊だったという背景は、今のやり方につながっているかもしれません。

阿座上:今でいうアップサイクルクロージングのような感じで商品を生産していたんですね。

松場:かっこよく言えばですが笑
お金がなかった当時だからこそ、そして田舎の環境に身をおいていたからこそ、なんとか形にしようと取り組めたという側面はあったのかもしれません。

幸せなお金の使い方

阿座上:僕自身もスタートアップ系の事業に携わっていて思うのは、お金があるのが必ずしもいいことではないのかもしれないということです。
お金がないからこそのクリエイティビティやイノベーションが生まれるという側面もありますよね。

松場:お金がなくてうまく行かないやり方してしまっていることももちろんありました。
ただ、どうやったらいいお金の使い方ができるかは常に考えています。だからこそ、事業を急ぎすぎないということは大切にしています。

阿座上:お金がコモディティ化されてきていると金融の業界では言われてきている中で、それをどう使うのかというのが実は、ビジネスで重要とされることなのだと思います。
そこに着目しているのは、群言堂さんが、ライフスタイル・生き方の提供を目指しているからというのがあるんだなと思います。
様々なアパレル系の事業がひしめいて、競争がある中で、あえて急がないやり方ができているのはなぜなんでしょうか?

松場:
たしかに置いていかれるのかもしれないと不安になることはあります。
ただ、ライバルもいるなかであっても、競争とかを意識しないほうがいいと思っていて、
なんなら、競争からはドロップアウトしたいと思っていますね。笑
たとえば、あらゆる事業を展開していって、ものづくりプラットフォーマーになろうとするといった方針も、今の群言堂のブランドや事業的には、目指すことも可能かもしれません。
ただそれよりも僕らは、実体が磨き上がっていて、実際に幸せに生きている人を目にすることができるということを第一に目指していきたいと考えています。
だからこそそういったお金の使い方を意識していると思います。

画像5

群言堂が提案したいもの

田淵:ゼブラ企業が大切にしている要素の一つとして、社会的インパクトがあると思います。松場さんの考える、群言堂が作る社会インパクトとは一体なんでしょうか。

松場: やはり先程からお伝えしている通り、生き方の提案ですね。
石見銀山を拠点に据えながら、この地に関わる全ての人のために事業を行っていますし、
そこから伝えられるメッセージがあると思っています。
こういう暮らし方をしていったら楽しいし、持続可能性があるよね、といった、無理のない暮らし方を提案していきたいと思っています。
そうして私達が目指している「根のあるくらし」を世界中に広めていったら、それぞれの地域の人々が、そこにあるローカリティを楽しみながら、置かれている場所で楽しく暮らしていけると思うんです。

阿座上:石見銀山的な生き方、丁寧な暮らし方を伝えるだけじゃなく、地方、都市部関係なく身近なもので幸せに暮らしていくための手段や方法を伝えようとしているということですね。

松場:はい、都会・地方の捉え方についても、以前は地方は都会のアンチテーゼのようなものとして捉えられがちでしたが、僕らは都会に出てきてビジネスをして田舎、地域の価値について理解を得るようになっていますし、スタッフでも都会と田舎を行き来する人は増えているのもあり、アンチテーゼのような捉え方からは変わってきていると思います。なので私達は都会と地域を分けて考えるということはしないようにしています。

どの地域にも、それぞれの根のある暮らしがあり、“あそこも楽しそうでいいね”と情報交換したり、旅人として交わることで、お互いのローカリティを大切に理解しあう。そうして自分たちのローカリティを楽しんでくれている姿をみて、より一層自分たちの地域の価値を発見して、洗練されていくのだと思います。

画像6

陶山:なるほど、地方も都会もお互い支え合っており、そこを旅人としてお互い行き来することによってより自分たちの地域がもつ価値がブラッシュアップされていくということですね。
たしかに仰るとおり、地方が衰退すると、都会も衰退するのではと思い、お互いが支え合っているのだと思います。とはいえ、顕在的になっているところを見ると、地方のほうが衰退しつつある印象がありますが、その中でどう都会と地方が共存できる、融合モデルを作っていけばいいと思っていますか?

松場:難しい質問ですね。
経済的な観点で見ると、正直試行錯誤の繰り返しですし、地域の中で事業をやっていくことの苦労があるのは事実としてあり、都会に依存している点もあります。
私はそれを踏まえながらも、地域として幸せに生きることができるモデルをいかにつくれるかが大切だと思います。

その点で、石見銀山が元都市だったのは一つの重要なメッセージだと思うんです。
もともとは鉱山開発という労働集約型の都市モデルとして経済成長を遂げてきた地域でしたが、資源がなくなり、一気に衰退し、人口減少している。つまりは都市の成れの果てを一度経験しているんです。人口のピーク(約20万人)を迎えていてた江戸時代と比べて、約1/500の400人に減少しています。普通に考えると、完全に、難しい地域として見られてしまいますよね。

でも私たちはここで暮らすことに幸せを感じ、この町に未来の可能性があることを信じています。

その可能性を実現するためにも、物というより、生き方そのもので持続性のあるあり方を実現できたらと思いながら、これからも取り組んでいきたいですね。

陶山:
今の予想だと21世紀後半には全体の人口がピークアウトしてくると言われている中で、そのような価値の捉え方の変化が必要とされてきていますよね。

編集部コメント

今回は「コミュニティ」をテーマに群言堂の松場さんにお話を伺いました。
「地方創生」という言葉がよく聞かれるようになって久しいですが、その実態は国からの補助金や一企業・特定の個人に依存するものが多くなっているように感じます。
しかし群言堂さんや大森町はビジネスとしての強さを築くことを目指しながら、地域内での格差を作らないシステムも同時に進めることで、自律的で新しい自治を目指しているように感じました。
日本は高齢化や過疎化が進みマイナスの面に目が行きがちですが、そんな中で自分たちの歴史を強みに、現代的アプローチを考えチャレンジした結果は世界に発信すべき新しいモデルが作れるのではないでしょうか。
これからも群言堂さん・大森町のチャレンジを応援していきたいと思います。
(阿座上)

今後もTokyo Zebras Uniteは本noteやイベントを定期的に開催して様々な角度からゼブラ企業に関する情報を発信していきます。
ぜひ、noteとFacebookをフォローしてください。

FBでいいね を押して頂けると、最新情報が届きます。
https://www.facebook.com/tokyozebrasunite/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?