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「ジェンダーレンズ」をかけた私たちレンズを通して初めて得た視点とは-「男」と「女」の2元論に囚われない社会に向けて-

「ジェンダーレンズ」という言葉を聞いたことはありますか?
ジェンダーレンズとは、性別の違いによって生まれている、政治/経済参画や教育水準、健康面などにおける不当な格差をなくすため、ジェンダーを意識したレンズ(めがね)をかけて世界を見ようという考え方です。
こちらの記事の笹川平和財団の定義を引用)

今回は女性の視点から社会問題をピックアップするメディア、カンファレンスを運営する「MASHING UP」の編集長、遠藤祐子さんにお越しいただき、Tokyo Zebras Unite協同創設者の田淵からの「世界のジェンダーレンズ投資の潮流」についての情報を交えながら、ジェンダーレンズとゼブラ企業をテーマでディスカッションしました。

今回は、イベント内の面白かったところを一本の記事にまとめたのでぜひご覧ください。

ジェンダー問題の変遷

阿座上:本日はありがとうございます。初めに、遠藤さん、自己紹介をお願いします。

遠藤:MASHING UPというメディアの編集長の遠藤といいます。メディアといっても、イベントやコミュニティを中心としたプロジェクトであり、記事を出すことだけでなく、人をつなぐ、場を作るといったところにフォーカスしているのが特徴ですね。

国籍や世代、性別といった様々な属性を超えて多彩な人が出会い、ディスカッションすることで化学変化を現在進行形で起こしていくという、という意味でMASHING UPという名前になっています。主に企業の新規事業担当の方やジェンダー、ダイバーシティといった領域に課題意識を感じている方にお越しいただいています。

MASHING UP | インクルーシブな社会を拓くメディア&コミュニティ


阿座上:遠藤さんとはもともと同じ職場でして、編集長には「激務で深夜まで残業」といったイメージがありましたが、遠藤さんは子育てもしながら定時には仕事をきっちり終えてさっと帰るところがとてもかっこいいなと思っていました。笑

遠藤:その当時からの老舗女性メディアが母体となっていて、今はジェンダーといった領域から課題意識がスライドして、ダイバーシティを中心に女性の視点から多彩な社会課題をディスカッションしていくというコンセプトになっています。

阿座上:MASHING UPが2018年にスタートして今に至るまで、主催の立場からコンテンツの内容や読者、イベント来場者の変化を感じることはありますか?

遠藤:今まで開催したカンファレンスの歴史を振り返りながらお話すると、第一回のカンファレンスは、「日本の女性ってなにかに縛られていないか?」を感じたので「Unleash yourself」という「もっと自分を開放していいよね」というテーマで開催しました。第二回は「Brave and empathy」というテーマで、共感の輪を広げつつ勇気を持って社会に向き合っていこうというメッセージを込めて開催しました。
MASHING UP(マッシングアップ)/シェアすることで、学びを深める。Unleash yourself のその先に


当初は女性個人のエンパワーメントといった要素が強かったです。
例えばセックストイの事業を行う起業家に登壇してもらって、「女性でもこんなイノベーションを起こせるんだ。私もチャレンジしよう」と思えるような要素を持つコンテンツが多かったですし、世の中のムードも個人のエンパワーメントが中心でした。

グローバルでは「Me too運動」、国内では東京医科大の入試における女子差別などがあった時期ですね。

中心は「私」から、「社会」へ。

遠藤:
そして流れが変わったと感じたのが、東大の上野千鶴子さんの祝辞が話題になった2019年です。
上野千鶴子さんはいわゆるフェミニストですが、フェミニストってなんだか世間から嫌われているイメージがありませんか? 女性の権利を声高に叫ぶ人みたいな。

私は彼女の著作を以前から読んでいたのですが、そんな方が東大の祝辞に起用され、

「みなさんがこの場所に来られているのは、あなたの努力だけではありません。東大をはじめとした大学入試の時点でギャップがあり、卒業してももっと公正とはいえない社会がある」という話があり、とても話題になりました。以前から私の中では有名人でしたが、いわゆるフェミニストという枠組みの人達がワイドショーでも取り上げられたことで、誰もが名前を聞いたことある人になりました。

そしてMASHING UPでも第3回カンファレンスに上野さんに登壇いただいたのですが、豪華なゲストが登壇するセッションが数多くあるなかでも、彼女のセッションは一番混んで立ち見が出るほどだったんです。それが私にとっては時代の変化を感じた瞬間でした。

ノイズを立てよ! 女性が主役の人生を生きるためには/上野千鶴子さん | MASHING UP

そのあたりから、「Me=私」というだけでなく、「社会」にとって私達が何ができるのだろうという、どんなビジネスが必要とされているのだろうという視点に変わり始めたと思います。

そして追い風となったのがコロナです。
今までの働き方や暮らし方が変わったことによって、ゼロベースで「幸せってなんだろう」「時分も組織も社会も幸せで入れる形ってなんだろう」と多くの人が”Well-being”のWellの部分について考える機会が増えたんですよね。

オリパラ委の森喜朗氏の女性差別発言を機に、世間がジェンダー差別への認識を持ちました。また国連ではジェンダーによる賃金の格差やDVが、より問題視されるようになりました。つまり「ジェンダーレンズ」をかけて視点を変えると、いかに女性に不利益が生じているか分かったり、世の中の違った側面が見えますよね。

阿座上:以前お話したときに、「一周回った」感覚と仰っていましたがどういった感覚でしょうか?

遠藤:「やっと始まった」という感覚ですね。

ようやく様々な方面からジェンダー平等というものが話されて、0→1のフェーズが終わったようなイメージです。これからはその主流化に向けて再スタートしたという認識です。

女性とベンチャー投資

遠藤:また今年大きく衝撃を受けたのはキャシー松井さんが女性だけのVCを立ち上げたというニュースです。
以前西海岸で起業している韓国のアジア女性の話を聞いたんです。
彼女の障害児の母なのですが、特別なケアを必要とする子どもたち向けの教育アプリを開発しています。
やはり西海岸VC界隈においても、男性偏重の傾向というのはあるようで、彼女に、「怖いと感じることはないのか?」と。「たしかに女性でかつ小柄であるということでなめられることも多い。怖くないといえば嘘になる」と言っており、話を聞いたことでより想像がしやすくなりました。そこで今回の、MASHING UPでのジェンダーレンズとゼブラ企業の連載に至りました。

ゼブラとジェンダーレンズの記事一覧 | MASHING UP

阿座上:
ゼブラも同じ背景がありますね。
西海岸の女性起業家四人がシリコンバレー周辺ではあまりにも女性、そして特に黒人女性などのマイノリティに対してはVCの資金が入ってこないというところに対して課題を感じていました。

そんな彼女たちが持つ課題意識を綴った、「Sex&the Startup」というブログが世界中で反響を呼び、それをもとにゼブラというムーブメントは生まれ、今では世界に広がっています。
実際に国外にインパクト投資を実践してきた田淵さんからジェンダーレンズ投資の歴史といった側面で簡単にご説明いただけますか?

ジェンダーレンズ投資の現在地

田淵:
先程遠藤さんが説明してくださった考え方の移り変わり方に近いものがジェンダーレンズ投資という文脈でもあると思います。
ジェンダーレンズが国外では標準的な言葉として、女性支援向けの投資において使われている印象です。

まずジェンダーレンズ投資という言葉に関してですが、レンズとはそのままメガネのようにかけるレンズという意味、ジェンダーを意識したレンズ(めがね)をかけた投資活動をさします。一口にジェンダーレンズ投資といっても様々な捉えられ方があり、女性起業家への投資だったり、インパクト投資の一部として捉えられることや、ジェンダーに関係する課題を世の中のギャップ、すなわち市場として捉えて投資を行なうことと考えている人もいます。

ジェンダーレンズという言葉自体は2009年に作られ、広がってきたのは2010年ごろだと言われていますが、女性支援のための投資という意味で捉えると、1970年頃のマイクロファイナンスが誕生したころまでさかのぼります。
マイクロファイナンスはもともと途上国の、日々の食事に困るレベルの貧困層に当たる人々のためという背景で始まりましたが、同時にジェンダー格差は途上国で大きな問題となっていることが多いため、女性がお金へアクセスできるようにして女性の自立を促していくという意義も大きかったです。

そしてその延長にSME(=中小企業)の女性経営者の支援もあると思います。
女性が経営している会社に投資するフランスのファンドが2005年頃ありましたが、それはおそらく今のような女性かつユニコーン志向向けの投資というよりかは、中小企業を経営する女性経営者向けのファンドであったと考えられます。

最近注目されているような、急成長を目指す女性起業家を支援しようという流れにかわった転換点は、遠藤さんのお話にも有りましたが、「Me too運動」だと思います。
ちょうどその時期(2018年頃)にベンチャーキャピタルの界隈にいる投資家の多くは白人男性が占めているという点に問題意識を持つ人が多く生まれ、女性のVCが増えた印象があります。実際に、2012年ごろのフェムテック企業への投資は62億円でしたが、2019年には1000億円までにのぼっているという話もあります。

今日の話で出てきたような、「女性」に対する新たな視点は色々な文脈や社会的な背景から世界の国や地域に発展しており、その一つとして女性起業家向けの投資などの話に繋がっていっていると考えます。

阿座上:田淵さんはCWI(女性起業家支援コミュニティ・プログラム)のアジアの審査員も務めていますよね。

田淵:
そうですね。CWIに参加した起業家として例えば、中国のエネルギーマネジメントのSaaSを開発している起業家がいます。彼女は国のエネルギー関係の委員会のメンバーにもなっているのですが、男女関係なく頭一つ飛び出て優秀であり、そういった起業家が多くいる印象です。


女性起業家という言葉への違和感

阿座上:
女性起業家が持つ「強さ」が、コロナの中では特に強みになっていくのでしょうか?

遠藤:私としてはそういった「女性らしさ」のようなものに気が向かない世の中になっていったら良いなと思っていますね。
この4人が話しているように、ジェンダーとか関係なく一人ひとりの個性をいびつなジグゾーパズルのままうまく組み合わせられるリーダーや事業に光を当てたいなと思います。

なので女性社長という言葉が頻繁に使われますが、そのような呼び名が使われることに対して違和感を感じます。ジェンダーレンズ投資が遍く行き渡って、もはやその言葉が必要でなくなっている状態が理想ですね。

田淵:たしかに和えるの矢島さんなど、経営者も同じような違和感を感じると仰っていましたね。

遠藤:以前は、女性社長とかだと「高級バッグを持って」「ピンク色の名刺を持って」、みたいな、「女性起業家」という枠にはめこむ処世術があったのかもしれないが、「女性」と名分けは必要はないと思いますね。

男らしさからの脱却

阿座上:
最近買った「男らしさの終焉」(グレイソン・ペリー=著,小磯洋光=訳ー, フィルムアート社)という本に書いてありましたが、本書ではマニフェストを綴っていて、オールドスクールの男性が他者と共存するための男性の権利は

・傷ついていい権利
・弱くなる権利
・間違える権利
・直感で動く権利
・わからないと言える権利
・気まぐれでいい権利
・柔軟でいる権利
・これらを恥ずかしがらない権利

とのことでした。
こういったことを腹落ちできるようになれば、男性も女性も関係なくフラットに働けるのだろうなと考えています。


遠藤:
正直私立の男子校出身同士とか、同じサークル出身とかのほうがハイコンテキストで効率はいいと思うんですよね。でも全員が異物でありたいというのがMASHING UPの掲げる理想なのかなと思っています。

引用:MASHING UP

「恥ずかしさ」を伴う学びの必要性

陶山:僕はジェンダーっていうものをどう考えていくべきか悩ましいと思っています。例えば、「ダイバーシティ」といった取り組みは、外国人や女性といった特定の枠組みでしか見ていないことも多く、違和感を感じることもあります。一方、企業の女性役員の少なさや女性の国会議員の少なさといった、「女性」というわかりやすい区切り方をしても、問題が山積みです。
だから僕としては、「役人出身であること」による文化の影響を受け、それを強みとしても捉えながら仕事をしているように、ジェンダーという枠組みも、着脱可能な文化的背景として活かせられる社会にしていけばいいと思っています。難しいと感じている部分ではありますが。

遠藤:
面白いですね。私は、メタ的にみる教育が必要だと思っているんですよね。今まで女性、男性として教育されてきたということをメタ的に認知(客観視)しながら、これからの行動や考えを選択していけると良いと思っています。

日本人に生まれたというバックグラウンドを理解しながらもそこに固執しないように、女性という特性も着脱可能にできるといいなと思っています。それを大人のリカレント教育として、実践することによって多くの人が着脱可能にできるようになるのも良いと思いますよね。

陶山:
インパクト投資界隈の人が研修で、「大人が女装をして街なかを歩く」という研修をしていました。実施した人は、一週間たつまでは「こわい」と感じていた感覚や、一週間近く経つと「慣れてきた」といった自分の感覚をノートに綴っていくんですよね。

今の話のような、「だってそういうものでしょ」という考えを「見つめ直す大人の体験」が必要だと考えています。「何歳になっても学び続ける」、人によっては「恥ずかしい」と思ってしまうような体験、がすごく必要だと思いました。

遠藤:
「恥ずかしい経験」というのはまさにで、自分自身も多くしてきました。MASHING UPのカンファレンスの準備をするときに、スロープを用意していなかったり、介助者が必要な方の介助者の方を無料にするなどができていませんでした。「恥ずかしい」経験でした。自分自身がいかに他の人のことを考慮できていなかったのか、他者と出会えてこなかったのかということを自覚し、恐ろしいとさえ感じた経験でした。

でもそういった経験から学んだことだったり、様々な視点があることによってイノベーションが生まれるような社会にしていければとても素敵だと思います。




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