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私の演劇の記憶-FRAGMENT- 角田萌果

『FRAGMENT』の主人公が俳優であることにちなんで、実際に俳優である出演者一人一人の、演劇に関する「記憶」を深掘りするインタビュー企画、「私の演劇の記憶-FRAGMENT-」。
俳優として生きている人の考えを「断片」を集めていくと、
自ずと『FRAGMENT』という作品につながっていくのかもしれません。

八人目は諸橋陸役、角田萌果さんにお話をお聞きします。


さて、これはこの企画で恒例の質問なんですが、角田さんが初めてご覧になった演劇はなんでしょうか?

これ他の人の読みながら考えてたんですけど、私あんまり覚えていないんですよ(笑)。っていうのは私が小中高と通ってた学校が、各学年で授業の一環として演劇をやってて。大きい発表だと本番の2ヶ月くらい前から稽古をやって。先生たちによる劇もあったりして。だから学校生活の中で日常的に演劇に触れてたんですよ。私自身も小学校3年生の頃からやってたから、気づいた頃には演劇を見るのもやるのも普通になってて。

そうなんですね!

その中でも今でも強く印象に残ってるのは、私が中学1年生くらいの時に高校3年生だった学年がやった、井上ひさしさんの『父と暮せば』っていう2人芝居です。自分たちで脚本を選んで、大道具も小道具も自分たち作るんだけど、そのクラスは男子が2人しかいないクラスで、その2人が出てて。1人はお父さん役で、もう1人が娘役をやってたんだけど、それにめちゃくちゃ感動しました。その後校舎で娘役の人とすれ違うんだけど、その人が男か女かわからないくらい(笑)。

なぜ強く印象に残っているんでしょう?

いや、もう分からなくて。今だったら演劇的な言語というかそういうのを考えるための知識を持ってるけど、当時は何も分からないし。でも多分、その劇は原爆で死んだ父と生き残ったその娘の物語なんだけど、いつも知ってる学校での男の子の姿ではなくて、その役の本物の姿として強烈に見えたっていうことなのかも。劇が扱ってる問題みたいなのに真摯に取り組んでた姿勢が伝わってきたのかなぁ。

角田さんは新国立劇場の演劇研修所のご出身ですけど、経緯としてはどんな形で入られたんですか?

元々私学校の先生になりたくて。教職にめちゃくちゃ興味があって、高校2年くらいまではそれで大学とかを探してたんだけど、自分がなりたい先生像みたいなものを真剣に考えた時に、高校卒業してすぐ大学に入って先生になるっていうよりも、何か全然別のことをやってた方が人間的にも社会的な知見としても広くて深い人間になれるんじゃないかって思って。そういう大人たちが私を育ててくれたから、私もそういう風になりたいって思って、若いうちに違うことをやろうって考えて、教職以外だったら演劇が身近で好きだったからやってみようって。でも、私やるとなったらとことんやりたいタイプだから、それで調べてたら新国の研修所が出てきて。もし落ちたら1年浪人して大学に行って先生になろうって決めて、高校3年生の時に新国の研修所を受験しました。

では言い方はアレですけど、ある種の寄り道として俳優を始めたんですね?

当時はね?今はわからないよ(笑)?いつか全く違うことをやりたいって思うかもしれないし、もう演劇界は終わりだって絶望して辞めるかもしれないし、どうなるかはわからないけど、いつかとことんやりきったって自分が思えるまで俳優をちゃんとやろうって覚悟を決めたのは劇団に入る時だった。

それは何か角田さんの中で重要なものが動いたんでしょうか?

新国の研修所って3年間本当に演劇漬けなわけ。もう本当に演劇漬けなの(笑)。まじで。演劇以外のこと考える余裕がないんだけど、修了してちょっと時間が空いて、果たして自分は18歳の時にポンって芝居の道に入ったけど本当に演劇がしたいのか、本当に演劇が好きなんだろうかとか考えて。で、その時はやっぱり教職にも興味があって、3年間お金貯めたら俳優を辞めようかなとかも考えたんだけど、そんな時に青年座の方に声をかけてもらって。その方に劇団の道を示してもらって、いろいろ悩んだけど、そんな声をかけてくれるなんてありがたかったし、もちろん劇団の試験を受けなきゃだからタダで入れるってわけじゃないんだけど、色んな人に後押しをしてもらってやれるところまでやってみようかなって決めた。

そういう過程があったんですね。ではそんな角田さんの演劇人生の中で最も印象に残っている作品はなんでしょう?

こまつ座の『兄おとうと』(作・井上ひさし 演出・鵜山仁)っていう芝居。6人しか出ないんだけど、うち4人がずっと固定の役で残り2人が毎場違う役で出てくるっていう劇で、歌もあって、なんだけど割と社会的な物語で。ようは社会性とエンタメ性が本当に上手に混じり合ってて、かつ俳優たちも手だれで。

今、社会性とエンタメ性というキーワードが出ましたけど、角田さんにとってその二つはどんなものなんでしょう?

もちろんエンタメのお芝居も楽しくて好きなんだけど、それだけじゃなくて。私は机の上でするお勉強が苦手だったんだけど、自分が芝居をやる上で色んなことを知らないといけないわけで。色んな考え方に触れるし、自分とは全く違う思想の役を演じることもある。本当に身体ごと新しい世界を知っていけるっていうのはとても楽しくて、お客さんにも今まで持ってた価値観が変わったなんて言ってもらえるのはすごく嬉しい。でも、『FRAGMENT』の笑里の言葉を借りるなら「説教くさい」部分が多すぎても面白くないっていうか、色んな人に受け入れてもらわなきゃいけないっていう意味では、やっぱりエンタメ性も重要で。

ではそういう社会に何かインパクトを与えていくという意味で、今回の『FRAGMENT』はいかがでしょう?

出てくる11人全員の迫ってくる「戦争」というものに対する受け止め方が違くて、そのあり様を観てお客さんはどう思うんだろうっていうところは気になる。多分登場人物と同じ表現を仕事にしている人とそうでない人とで感じ方は変わってくるだろうし、政治的にどういう立場かっていうのでも全然違うと思う。そういう意味であなたどうだった?あなたどうだった?って色んな人に聞きたい物語だと思う。

何かこれきっかけに色んな人の価値観を色んなように変えていける社会性を持った作品に『FRAGMENT』はなっているんでしょうか?

お客さんがどう感じるかはわからないけど、そうなっていて欲しいなっていう思いは強くありますね。

では今度はご自身のキャラクター諸橋陸について、ご自身と似ているところや違うところはありますか?

私俳優をやりながら詩を書いていて2年前くらいに詩集を出してるんですけど、陸は小説家で。詩のことを川名さん知ってたのかって思ったけど、聞いたら知らないみたいだった(笑)。他にも陸について考えていくと20代前半くらいまでの私にかなり似てる。許せないことを許せないってはっきり言ったり、すぐ本音が顔に出たり。本音が顔に出るのは今も同じだけど(笑)。

陸が許せないと思うことと20代前半の頃の角田さんが許せないと思うことは近いんですか?

近い近い(笑)。けど、今の私はもう少し自分と違う意見を受け入れられるようになってると思うかな。でももしかしたら許容できるっていうのは、言い方を悪くすると諦めているっていうことなのかもしれなくて、そういう意味で陸はちゃんと自分の芯を持って許せないことを許せないって言い続けてる。なんなら私の年齢と比べると、私より5年くらい言い続けてるから、それは興味深いし、陸は小説家・物書きっていう職業だからそれを持ち続けていられるのかもしれない。

そんな陸を演じる上で何か意識していることはありますか?

いろんなシーンが一瞬で通り抜けていくんですよ。陸は会話の流れと違うテンションでコーンって入らなきゃいけないところが多くて、気を抜いてると陸のその流れに乗れないで過ぎていっちゃう。ちゃんと感情のフックみたいなものを拾って、引っ掛けておかないと陸の感情でしっかり跳べないから、それは意識してますね。それは陸が普段張ってるアンテナの広さなのかもしれない。

最後に『FRAGMENT』をどんな人に見てもらいたいでしょう?

まず役と同年代の30代の人。作中に散りばめられてる問題に対して、これどう考えてますかって聞きたい。見て見ぬふりをしていることがあるんじゃないかなって。で、同じように上の年代の人たちはどう思うのかなって気になる。若いなって思うのか、それとも同じように当事者として考えるのか。でも、私は特定の誰かに向けた芝居っていうのはあんまり好きじゃなくて、色んな人が観て、それぞれがどう思うのかっていうのは絶対違くて良くて。だから色んな人に観てもらって、その感想を聞きたい。


以上がインタビュー本編になります。
劇団東京夜光『FRAGMENT』、吉祥寺シアターにて上演中です!

劇団東京夜光 公演
「FRAGMENT」
作・演出:川名幸宏
2023年、戦争が起きたら、俳優はどう生きるか。
その記憶は、誰の真実か—
2022年の本多劇場公演から1年半。
劇団東京夜光は”劇団とはいったい?”に勝手に向き合いながら1年間の創作を積み重ね、
劇場のある吉祥寺の1944年と2023年を繋いでみます。

1944年、B29東京空襲の最初の標的となったその場所に、2023年、あまりにも先が見えない 30 代俳優の男女ふたり。 広大な原っぱのベンチに座って、男の雑なプロポーズを皮切りに始まる痴話喧嘩。
その刹那、航空機の轟音。
地下壕に逃げ込んだ人々は、戦中の少女の日記を見つけ、“少女の記憶の真実”をとりとめもなく探しはじめる。
【出演】
丸⼭港都
草野峻平
笹本志穂(以上劇団東京夜光)

永⽥紗茅(柿喰う客)
阿久津京介(もあダむ)
堀⼝紗奈(劇団4ドル50セント)
⾓⽥萌果(劇団⻘年座) 
⽥中博⼠(東京タンバリン)
都倉有加(C-PLUS)
ししどともこ
中⼭⿇聖
【チケット料金】
一般前売=5,000円 U-25前売=3,500円
一般当日=5,500円 U-25当日=4,000円
アルテ友の会会員=4,500円(武蔵野文化生涯学習事業団でのみ取り扱い)
*全席指定・税込*U-25は当日引換券のみでの販売。当日受付にて要証明書提示《チケット取扱》
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【お問い合わせ】
劇団東京夜光
info@tokyoyako.com

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