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「囀る鳥は羽ばたかない」 第50話 感想

第50話


 発売直前のチラ見せで、ベッドで矢代を押さえつけた百目鬼が

「こうして欲しかったから、俺を選んだんですよね」

と言う1ページを見ただけで、私は苦しくて胸が張り裂けそうになった。

 矢代の切ない気持ちを思うと、つらくて悲しくて…。

 第50話がもし、第46話以上につらい展開だったら、私は完全に打ちのめされて感想すら書けないのではないかとドキドキしながら発売を待っていた。
 幸い、ある程度予想が当たっていた分、ダメージは少なかった。

 それにしても、表紙のあおり文句は不穏。

≪何もかも 壊したくなる≫

 矢代の細い首に、黒い手袋に包まれた百目鬼の左手がかけられている。
 白いシャツの上に舞うたくさんの黒い羽根。

 百目鬼は、矢代を壊したいの…?

「こうして欲しかったから、俺を選んだんですよね」

 そう言われて、一瞬表情を固くした矢代だったが、私の期待通り、本音を隠して突っ張ったままだった。

「勘違いすんなよ。お前いいって言ったんだ。お前いいとは言ってねえ」(勘違いしてました、すみません…じゃなくて、矢代はまた嘘で自分を守っている)
「神谷じゃコッチは期待できそうにないからな」

 惚れた相手にも(だからこそ)そう簡単に弱みを見せない、私はこういう強い矢代が好きだ。 

 矢代の返事を聞いた百目鬼の瞳は、寂しそうに見える。

 矢代の言葉をそのまま受け取って、やっぱり…と思っているのだろうが、百目鬼が冷たいことを言わなければ、矢代だってこんな心にもないセリフを吐かずに済んだのに…。

 百目鬼は手袋を外して、矢代を脱がせ始める。

「だからって、今はいいっ…って。さわっ…んな」

 嫌がって抵抗する矢代。

 49話でも、私はここが気になっていた。
 自分を選んだのは性的な相手をさせるためだ、と百目鬼が考えたとしても、矢代がヤりたがっていないこのタイミングで、なぜ百目鬼は矢代を襲うのだろうと
 その理由を、私は矢代が井波とセックスしたことに百目鬼が怒っていて、独占欲と嫉妬からだろうと考えていた。(50話に向けて
 一部は当たっていたように思う。

 百目鬼の指でアナルを抉られただけで、矢代はすぐに勃起してしまう。

  この場面で矢代のペニスは描かれていないけれど、百目鬼が

「井波とやったばかりなのに、もうこんなになるんですね。あなたの体は本当に、どうしようもない」

と言うのだから、そうなんだろう。

「…よく言う…な。今は、お前が、そうしてんだろ…が」

 本当は百目鬼の愛撫に対してだけ、矢代の身体は反応するのだ。

「お前がそうしている」にはそういう意味も込められているのだが、当然百目鬼にはそんなことはわからない。

 矢代の手首に縛られた跡を見つけ、井波と拘束プレイをしたことに気づいた百目鬼はますます苛立つ。

百目鬼「やっぱり、好きなんですね。こういうのが」

矢代「ムカつくんだよ…そういう、知ったようなセリフ…」

 矢代は縛られるのが好きなわけじゃないのに…

「知っていますよ。それなりに。あなたのことは」
(どうかなぁ…。矢代の本当の気持ちは知らないくせに)

 百目鬼はネクタイを外し、矢代の両手を頭の上で縛る。

「おい。必要ねぇだろ。はな…」と拒絶する矢代を

何故俺だと拒むんですか。こうされるのが、好きなんですよね。それとも、優しくされたいんですか

 百目鬼は冷たく突き放す。

 私はきっと50話で百目鬼が「井波はいいのに、なぜ俺だと拒むんですか?」みたいなことを言うだろうと思っていたので、ここは予想通りだった。

 でも、こんなに冷たい言葉で矢代を追い詰めるなんて。

 矢代は百目鬼に優しくされたいんだよ!

 本音を言えない矢代は答えられない。
 ただ、百目鬼に足を開かされて、指で犯され、射精するだけだ。(ここははっきり描写がある)

「触らなくても、こんなになるんですね」

 快感に抗えない矢代の姿を見て、百目鬼は蔑んだように言う。
 自分で刺激しておきながら、敏感に反応してしまう矢代を軽蔑するようなこと言わないで。
 後ろだけでイケる矢代はさすが(に経験豊富)だな…と思いつつ、百目鬼にイかされた矢代は悔しそうに見える。

 そして、矢代は気づくのだ。

そうか。これはかつて俺が望んだ…

 「体だけの関係だ」と。

 第46話の考察で書いたように、今や矢代と百目鬼は、昔の矢代が望んだ通りの、精神的な繋がりのない肉体だけの関係になった。

 しかし、矢代は今度はそのために苦しむことになるのだ。

 本当は百目鬼に優しくされたい。精神的な触れ合いが欲しい。
 でも、もうそんなことは言えない。

 我々読者が長く待ち望んでいた膝枕が、こんな形で描かれることになろうとは…(涙)

 朝になって、矢代の部屋に七原がやって来て、百目鬼がいることに驚く。

 道心会がこの件に関わっていたことを七原は百目鬼から聞かされる。
 百目鬼の前では必死で知っていた振りをしたものの、七原は矢代からは何も知らされていなかったのだ。

 俺ってそんな信用ねーのか!?

 と内心ショックを受けている。

 肝心なことになると矢代が一人で抱え込んでしまうのは、6巻の頃から変わっていない。

 七原は、矢代と百目鬼の間に何かあったのではないかと疑う。

七原「おい、お前まさか」
百目鬼「セックスなら、してませんよ」

 百目鬼は平然と答えるけれど、そこにベッドから全裸の矢代が降りてきて、七原は真っ赤になってしまう。

 矢代のガサガサの声を聞いて、「ぜってーやってんだろ、コレ」と七原は二人が性的な関係を持っていることを確信する。

 神谷に矢代の護衛を任せて一人で出かけようとする百目鬼を、七原が呼び止める。

七原「何かあったんなら、教えろ。共有してないとこっちが困る場合もあんだろ」

 結局、矢代、百目鬼、七原は3人で連れ立って出かけることになる。

矢代「奥山組が関わってんなら、行っとかねーとウルセーおじさんがいるんだよ(三角さんですね)」

 桜一家がケツ持ちしているクラブから売上金300万円が盗まれて、それがどうやら奥山組の仕業らしいのだ。

 本当に奥山組が糸を引いているのかどうか、クラブに行って確かめることになった。
 「クラブのママ」と聞いて七原は何か引っかかるものがあった。
 以前、桜一家の下っ端が「百目鬼とできている」と言った女だ。

 そのママによると、昨日クラブに来た数人の客が黒服と小競り合いになった。

ママ「ちょうどその時、組の人がつかまらなくて」
百目鬼「なぜ俺を呼ばなかったんですか?」
ママ「組の人が今は別のこと(矢代のことですね)で忙しいって言ってたから」
百目鬼「できるだけ駆けつけますから、呼んで下さい」

 なんだか、ママと百目鬼が特別な関係であることを匂わせるような会話だが、私は騙されない。

 その後、客と話をつけているうちに売上金が金庫から消えていた。
 相手ははっきり「奥山組」と名乗ってはいなかったらしく、「昔はここを使ってて、知ってる口ぶりでした」とママは言う。
 ふーん…。

 皆と一緒に店を出た百目鬼を、ママが「力」と呼び止める。
 親密な様子で話す二人を見て、七原が「百目鬼とあのママ、できてるらしいですよ」と矢代に教える。
 それを聞いた矢代は当然気になる様子…。
 矢代が二人の関係を誤解して嫉妬するのは想定の範囲内だ。
 心配しないで矢代。二人はできていないから。

 クラブで合流した神谷と共に4人はカウンターでステーキを食べる。(おいしそう)

百目鬼「内通者ですね。女の中に手引きした人間がいる」
神谷「はぁ!? あんた、分かってて言わせなかったのかよ」
百目鬼「言ったところで、不安にさせるだけです」
神谷「女にはお優しいことで…」
百目鬼「神谷さんにも、優しいつもりですが」

 百目鬼と神谷の会話を聞きながら、矢代は昨夜の百目鬼のセリフを思い出す。

それとも、優しくされたいんですか

 百目鬼は女にも神谷にも優しいのに、自分には優しくしてくれない…。
 矢代は一人、席を立ち、店を後にする。

 ミステリ大好きな私は、案外このママが奥山組と内通していて、百目鬼はそのことに気づいているからママと親密になって監視しているのではないかと思った。できている振りをして。

 矢代が向かったのは、城戸が雲隠れ生活を送るアパートの一室だった。
 矢代は城戸をシャクって、ヤりたがる。

「犯せよ。昔みたいに」

「切羽詰まってんだ。早く」

 そう言って、城戸の膝の上に跨る。

 矢代は切羽詰まっている…。
 百目鬼が冷たくするから、矢代はこうして憂さ晴らしせずにはいられない。
  満たされない心を、犯されることで埋めようとしている。
 アルコール依存症の人が、ストレスがかかるとお酒に逃げてしまうように、矢代はセックスに依存している。

城戸「勃ってもいないくせに、何が切羽詰まってるだ」

 矢代は勃起していない。本当はヤりたくなんかない。体の方が正直だ。

「さっさと脱いで、またがれよ」と言った城戸だったが、すぐに気が変わって「やっぱもっと咥えろや」と矢代の頭を押さえつけ、喉元まで自分のモノを押し込む。

城戸「物みてえに扱われるの、好きだろ。他の奴らにも見せてやりたいぜ。こんな姿よ」


 こういう行為を繰り返すうちに、物みたいに扱われるのは好きじゃないって今の矢代なら気づけるのではないだろうか。

 突然、城戸の襟首を黒い手袋をした男の手が掴み上げ、勢いよく投げ飛ばす。

 急にいなくなった矢代を、百目鬼が追ってきたのだ。

 激昂しているはずの百目鬼の顔は描かれない。
 ただ矢代の腕を掴んで、引っ張っていく。

見えない顔 ありえないほどの力 食い込んだ指 怒りを隠さない声

 矢代は驚き、呆然としている。

 そして、百目鬼はついに

俺が犯せば満足ですか

 

と言うのだった。

 
 ほら、やっぱり、怒っている。

 50話に向けてでも書いたが、7巻以降の百目鬼は、矢代が他の男と関係を持つことへの怒りを口に出さない分、行動で表している。

 俺以外の人間に触れさせたくない、という独占欲を抑えることができない。

 いよいよ、矢代と百目鬼はいわゆる「セックス」をするのだろうか。

 体だけの繋がりに、この先矢代はますます苦しむだろうけれど、百目鬼を愛している自分を受け入れ、人を愛せるようになるためには荒療治が必要なのだろう。

 46話はつら過ぎたが、50話まで来て、新章も面白くなってきた。

 矢代の気持ちは痛いくらいわかる一方で、百目鬼の考えは相変わらず謎に包まれたままだ。
 そろそろ本音を見せてくれればいいのに…。

  51話の予想を含む考察はこちら → 50話感想その2

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