学校警備員をしていた頃 その38

 以前、学校警備の仕事をしてた頃のことについて振り返って思い出せることを書いています。
※ 最初から読みたい方は、学校警備員をしていた頃から読むことをおすすめします。
※ ひとつ前の話→学校警備員をしていた頃 その37

 「S区では学校に警備員がいるんですか」
 3月のある日、4時前にO中学の校門に立哨していたら、なんとなく教員っぽい雰囲気の中年の女性が門の方に近づいて来た。
 私の姿を見て「校長先生に用があってきました」と言った。
「他の学校から異動して来られたんですか」
「そうです。S区では学校に警備がいるんですね」
「別の区から異動して来られたんですか」 
「そうです」
「確かにS区のことをあまり知らなくて初めて私たちの姿を見た人は、ちょっと不思議に思うみたいですね。よその区にはあんまりいないみたいなんですけど、S区は意外とお金持ちが多くて予算があるからこういう仕事があるのかもしれません」
「そうですか」
 といったやりとりの後、その女性は校門の中に入っていった。
 「…S区では学校に警備員が…」というところは、少し不思議そうに話していたと思う。学校にわれわれのような校門立哨タイプの警備員がいる(宿直タイプの方は非常に一般的)という自治体はとても少ないらしいので、別の区から来た人が「S区では…」と聞きたくなるのも当然かもしれない。警備員という仕事自体はよく知られていると思うけど、校門立哨タイプの学校警備員というのは、かなりのマイノリティーなのだろう。 

 新任研修の時も、講師の内勤者が言っていた。
「学校に警備員がいるって、以前では考えられなかったことだと思うし、今でも知らない人が多いと思うんですが、私たちはそのおかげで仕事をしてお金をもらうことがきるんです」
 内勤者でも、「どういう経緯でなんのためにこの仕事が発生し、今後この仕事がどうなるのか」というハッキリとした展望があるわけではなく「どういうわけだか、現在はこういう仕事がある。ありがたいことだ」というくらい認識のようだった。

 校門の前を通りかかる一般の人からも、これに類することを聞かれたことがある。時々会うおじいさんだった。
「今日もごくろうさん」
「ありがとうございます」
「池田小の事件があったから、学校でもこういう警備をやるようになったのかな」
「どういう経緯でこういう学校警備が始まったのかは知らないのですが、S区では8年くらい前から始まったそうです」
「ふーん、まあ時期的には池田小のことも関係ありそうだな」
「そうかもしれませんね」
 確かに、どういう経緯でS区の学校警備が始まったのか聞いたことはない。始まったのがもう8年前で、その頃のことを知っている人と会いその話を聞く機会がまだないからである。よほどうまく8年くらい前の始まった経緯を知ってそうな人を見つけて聞きださないと、ハッキリとしたことはわからないだろう。でも、池田小の無差別殺傷事件が起きたのはその10年くらい前だったので、時期的に見ると事件との関連はありそうだ。
 もし、池田小の事件が大きな要因だとすると、世間を騒がせるような小中学校における大きな犯罪が起きなければ、だんだんと事件の記憶が風化して、学校警備の必要性もあまり認められなくなるかもしれない。 
 この仕事は、「いなければ小中学校の教育が成り立たない」という性質のものではない。でも今のところ、保護者の中には、「子どもたちの安全を考えると、できれば一日中同じ学校の前に立っていて欲しい(現在は午前と午後で別の小学校にいる)」と考えている人もそれなりにいるようだし、「あまり必要性が認められていない仕事」と断言できるわけでもない。
 ただし、「S区でやり始めたのが、他の自治体にどんどん広がっている」ということでもない。が、逆に「予算の無駄遣いだからやめよう」と主張する地方議員さんとか市民団体なども聞いたことがない。こうしていろいろと情報を並べて少し考えてみると、短期的には、現状維持という予想が妥当なところかもしれない。
 でも、中・長期的に見て「この仕事が将来どうなるのか」という見通しを持っている人は、ほとんどいないだろうと思う。

※ 次の話→学校警備員をしていた頃 その39

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