二つのジンクス:「宝塚音楽学校の主席卒業者はトップスターになれない」と「公務員試験の1番は事務次官になれない」

 よく「学校の成績は社会に出てから関係ない」と言われる。
 この言葉はいろいろな角度から考えられるし、いろいろな解釈ができて、もちろん賛否両論あるだろう。当たり前のことかもしれないが、たぶん「一般論としてはなんとも言えない。ケースバイケースだ」と思う人が多いのではないだろうか。
 批判的な意見としては、学校の成績がよかったということは真面目にコツコツ勉強する忍耐力・持続力があり、一定の知的能力もあるということだから、社会に出てから活躍できる一定の資質があるのではないか。だから、学校の成績は軽視できない。というようなものだろう。
 一方肯定的な意見としては、学校でいい点を取るのは暗記力など人間の能力のごく一部が優れているということに過ぎないのだから、社会に出てから活躍するのに必要な様々な能力とはあまり関係がない。といったところだろう。
 これらの意見を、論理的にどちらが正しいか決めるのは不可能かもしれない。
 また、統計をとって実証的調べるのも、「何をもって社会的成功と考えるか?」というような価値観の問題もあり、また相当な時間や資金を投入して調べたからといって、それを個人の金儲けとか教育改革などの行政的な成果等々にどうやって結びつけることができるのかが明確ではないので、きちんと調べる人は今までいなかったと思うし、たぶんこれからもいないだろう。
 学校教育とか日本社会などについて考える上で興味深い文言ではあることは間違いないのだが、一般論として検証するのは難しい。
 でも、一般論として考えるのにどの程度参考になるかどうかわからないのだが、表題のような宝塚音楽学校や国家公務員試験のトップのその後のパーフォーマンスを調べることならばできる。意外な組み合わせかもしれないが、国家公務員試験を上位の成績で受かる人のほとんどが東大生であり、東大と宝塚音楽学校のことを「東の東大、西の宝塚」と呼んで日本の2大難関校と見る向きもあるようだ。また、中央官庁も宝塚も中途採用がない修道院型の組織であるという点でも似ているところがあり、比べてみてもいいのではないか。
 もちろん、それを調べたからと言って、どの程度有益なことがわかるのかは疑問かもしれないが、それなりに私にとってはそれなりに興味深く、もしかしたら同じように興味がある人もいるかもしれないと思って、調べてみることにした。

 宝塚の場合
 まず、「宝塚音楽学校の主席卒業者はトップスターになれない」というジンクスについて考えてみる。宝塚では、音楽学校卒業時に一番の成績だった人のことを主席入団と言い、各組のスターの頂点に立つ男役を「主演男役」あるいは「トップスター」と呼んでいる。
 主席入団でトップスターになった人は、50期以降だと50期の汀夏子さん・77期の安蘭けいさん・80期の霧矢大夢さん・82期の蘭寿とむさん・95期の礼真琴さんの5人。49期以前はネットで調べてもわからず、96期以降はまだこれからトップになる可能性もあるので、ここでは50期から95期までについて考える。
 まず気がつくのは、51期から76期の間26年間主席入団のトップスター就任者がいないことである。このことからジンクスが生まれたらしい。一方、77期から95期までだと19年間で4人なのでけっこういるなという感じである。しかも、93期の彩風咲奈さんも望海風斗さんが引退したらトップになることがほぼ確定しているので、それもいれると5人になる。
 だから、51期から76期までの宝塚及び宝塚音楽学院のことをよく知っていないと、こういうジンクスが生まれるような理由があるのか、それともたまたまなのか、というところはわからない。
 これは自分の推測だが、宝塚音楽学校の教育方針は「清く正しく美しく」だが、男役に求められるものは「強く凛々しくかっこよく」といったところではないだろうか。だから音楽学校の成績がよくてもそれがただちに宝塚の男役としての成功には結びつかないのかもしれない。
 それと「部分の総和が全体にはならない」ということもあるのだろう。舞踏や唱歌などの個々の科目では優秀でも、それ等の要素を合わせて舞台で総合的に力を発揮するのはまた別の能力なり才能なりが求められるのかもしれない。
 それから、「人気と実力は違う」ということもあるだろう。例えば、88期の紅ゆずるさんは、音楽学校の卒業成績が48人中47番で歌やダンスは下手だが、明るい性格と吉本新喜劇のような楽しい演技で人気が出て星組のトップスターになった。
 でも、最近ではこのジンクスはかなり破られ存在感が薄れてきている。

 国家公務員試験の場合
 次に、「公務員試験の1番は事務次官になれない」というジンクスについて考えてみる。
 ここで問題にしているのは、いわゆるキャリア官僚になるための国家上級公務員試験である。そして、事務次官というのは、各官庁のトップである。
 上級試験でトップの成績をとったら大蔵省または財務省に行く人が圧倒的に多かったので、上級試験のトップが財務事務次官または旧大蔵事務次官になったかどうかを見ていく。
 戦後、上級試験の成績がトップで大蔵事務次官または財務事務次官になったのは、吉野良彦斎藤次郎の二人である。吉野良彦はワル野ワル彦というニックネームがあり、斎藤次郎は斎藤デンスケというニックネームがある名物官僚。ちなみに成績2位で次官になったのは尾崎譲小川是。なかなか調べるのが難しく他にもいるかもしれないが、成績トップの人が事務次官になると多少話題になることもあるし、官僚の公務員試験の成績というのは時折公表されたり本人がしゃべったりするので、それほど漏れはないのではないか。
 2人というのは少ないような気もするが、公務員試験の成績は選択式問題の1問・2問の当たりはずれで順位が入れかわるかなり運に左右されるものなので、2人もいればそれなりに順当なのではないだろうか。
 大筋としては、財務省(旧大蔵省)に入れるような上級試験上位の成績をとる人はみんな、少なくともペーパーテストで測れるような部分においては頭がいい。だから試験の成績でいい点がとれるのは当たり前で、出世はそれ以外のことで決まる。というところかもしれない。
 例えばそれは、「ワル」という言葉で表されるような懐の深さやバランス感覚とか、人間力とか、「柔軟性と適応能力」等々かなか万人が納得するような明快な答えはなく、答になっていないかもしれないけど強いて一言でいえば「試験でいい成績をとる能力以外の何か」なのだろう。
 
 宝塚・宝塚音楽学校と中央官庁・公務員試験の例を見てきたが結局、「学校とか試験の成績はいい方がいいいに決まってはいるのだが、それ以外にも重要なことがある」ということくらいしかわからなかった。
 これらの課題は過去のデータを見ていけばある程度は調べられるのだが、調査したことを考察する段階で「華」とか「人柄」とか「人間力」等々なかなか厳密に定義できない言葉を使わないと説明できない流れになってしまうので、万人が納得するように記述するのが難しい分野だと思う。

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