学校警備員をしていた頃 その42

 以前、学校警備の仕事をしてた頃のことについて振り返って思い出せることを書いています。
※ 最初から読みたい方は、学校警備員をしていた頃から読むことをおすすめします。
※ ひとつ前の話→学校警備員をしていた頃 その41

 生徒が警備員の家に遊びに来た
 警備員同志とか内勤の人と話していて時々話題になっていたのが、生徒と仲良くなりすぎ、仕事が終わってから一緒に遊んだりしてクビになった人の話である。
 それは、比較的最近起きたことらしいのだけど、なんだか伝説のようになっていて、それまで内勤から正式に研修などの場で話を聞いたことがなかった。
 半年に一度の現任研修の時、内勤さんがこの事件についてちゃんと知っている人で、誰かが質問したら、言いにくそうにしていたが、一通り教えてくれた。
 本当は大切な事例なので、誰かが質問しなくても積極的に教えてくれた方がいいと思うのだけど、どうも言いたくないような様子だった。学校警備担当者は全員知っていた方がいいことだと思うし、どうして言いたがらないのか少し不思議だった。が、まあ、わりあいデリケートなことではあるので、できれば正社員などもっと責任のある立場の人から話してもらいたいと思ったのかもしれない。
 内勤さんが話してくれた事件の概要。

 A小学校で警備をしていたBさんは、人なつっこい顔つきの20代の若者で生徒に人気があり、特に小5の男子生徒3人組からは異常に好かれていた。
 A小学校の警備をしている時、その3人組は下校時にいろいろとからんでくるというかじゃれついてくるようになった。Bさんは、特に避けるようなことでもないと思い適当に相手をしていた。そのうち、B小学校の警備が終わってA中学に移動する時もついてくるようになり、そして、A中学の校門前で立哨しているときにもじゃれついてくるようになった。さらにそれが進化して、A中学の警備が終わり、着替えて出てくるまで校門の前で待っているようになる。Bさんも子どもは好きなので、警備の仕事が終わってからその生徒たちと公園などで遊ぶようになった。
 Bさんのアパートは、運悪くA中学やA小学校の近くにあり、その後、さらに生徒たちとBさんの関係はエスカレートして、Bさんのアパートにも遊びにくるようになった。
 それを他の生徒にも見られ、「アパートにはアダルト・ビデオがあって一緒に見ている」という噂(事実ではないらしい)が立てられ、学校側から支社にクレームが来た。
 一方3人組の保護者たちはBさんのことを信頼していて、むしろ子どもたちを預けて遊んでもらい助かっている、という意識だった。
 結局、支社は学校側からクレームが来たという事実を重く見て、Bさんは学校警備の仕事からはずされた。Bさんは警備士はやめて別の仕事につき、子どもたちの遊び相手は続けた。

内勤さん「女の子でなかったのでよかったけど、なんだか不気味ですよね」
警備士C(私の前の席に座っていた男性)「どこが一番問題点なのか一概には言い難いようにも思います。生徒も喜んでいるし、保護者も認めているのに学校警備の仕事をはずされてしまうというのはある意味不条理な話ですねえ。アパートまで遊びに来てしまったところが一番問題なのかな。それと、変な噂が流れてしまったのが、運が悪かったのかもしれませんね」
私「うーん、まあ、芥川龍之介の『トロッコ』とかケストナーの『飛ぶ教室』とか、いろんな文学作品にも出てくるけど、親や教師以外の大人とのかかわりが子どもの成長に必要な面もあり、子どもとかかわっていくこと自体を悪いこととは言えない。でも、お金で雇われて派遣されてきている人がそういう役割になると、一人二役になってしまって、どうもよくわからないややこしいことになってくるのかな。本当は、学校警備員も毎日のように生徒に会うわけだから、生徒の成長に何らかの意味で役に立つような親・教師以外の大人という役割が果たせた方が世の中のために役に立ちそうだ。が。まあ、現実には村のお寺の住職だとか町の商店街のおじさんだかのようにはいかないのかもしれませんね」
内勤さん「確かに、村のお寺の住職なんかは共同体の中にいる人だけど、我々学校警備士はお金が動く契約によって一定期間の一定時間帯だけそこにいる人だから、立場が違う。だから、どっか学童クラブのようなところに子どもを預けるんじゃなくて、警備士にそんなことをまかせてしまう保護者もちょっと変じゃないかと思う」
私「でも、それは、子どもたちがその警備士のお兄さんがいいと思っていて、その人も保護者も納得しているわけだから、変わった事例かもしれないけど、一応問題はないと思う。学童クラブみたいな、制度的に整っていてお金で解決するものだけが一方的にいいとは言えないんじゃないかな。とは言うものの現実的には、『変わった事例である』というところが理解されない困ったところなのかもしれませんね」
内勤さん「まあ、確かにいろいろと考えさせられるところもあるんだけど、実際に学校側からクレームが来てしまうとわれわれは困ってしまい、事なかれ主義で対応することしかできない。だから、『自重してもらいたい』としか立場上言えません」
 といったやりとりがあった。
 内勤さんが言っているようになかなか考えさせられるところもある事例だけど、会社側としては当然のことながら商売なので、トラブルを避けクレームが来ないようにすることが一番大事なのだろう。営利企業なので、それはそれで仕方がないことだと思った。

※ 次の話→学校警備員をしていた頃 その43

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