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【NYY #26】WHY, BRIAN CASHMAN, WHY!? 〜不可解な先発投手放出〜

現地2022/8/6、ヤンキースとカージナルズとのカード2戦目が開催され、1-0でカージナルズが勝利。

敗戦投手はヤンキースのDomingo German、勝利投手はヤンキース...ではなくカージナルズのJordan Montgomery。

Why, Brian Cashman, Why!?!?!?!?

Introduction

2022年のトレードデッドライン(TDL)数時間前(日本時間8/2夜)までにヤンキースはAndrew Benitendi外野手、Scott Effross投手(中継ぎ)、Frankie Montas投手(先発)、Lou Trivino(中継ぎ)を獲得しました。

私及び同NYY担当の助手氏が同日に放送したヤンキースラジオでもお話をしていた通り、放出が見込まれていたJoey Gallo外野手やMiguel Andujar ?野手のトレード等比較的マイナーな動きが残っているものの、ヤンキースとしてのTDLは概ね終了だと思っていました。

しかし、数時間後にはとんでもないビッグニュースが飛び込んできました:

なんと、先発ローテでフル回転中だったJordan Montgomery投手をカージナルスへ放出し、代わりに怪我離脱中のHarrison Bader外野手を獲得しました。

既に色々ツッコミどころが多いですが、とりあえずトレード後のローテを見てみましょう:

本記事は8/6のJordan Montgomery及びDomingo Germanが先発をした前に大半を書き上げてしまったので、当該投球内容は表等には未反映な点ご了承ください。(一部文中にbefore afterの形でアップデートしている箇所はございます)
ちなみにMontgomeryは5回2安打無失点と安定的な投球を魅せ、Germanは5回4安打1失点と表面成績上は好投をしたものの終始痛打されていた印象があります。

怪我やトレードで気づいたらマイナー先発要因が焼け野原に…

そうか、先発4番手だったMontgomeryを放出して、防御率6.39 WHIP 1.82のGermanがローテ入りを果たしたのね。
そしてデプスも実質的にClarke Schmidtのみね。
代わりにもらった対価は代わりの投手ではなく、怪我中の外野手ね。

はにゃ?

という訳で、今回は一見不可解なトレードを何とか紐どいていきたいと思います。

Con ①: 綱渡り危機一髪薄々ローテ

Monty放出までは良い感じのローテだったのに、、、

まずは言うまでもないが、Montgomeryがいるといないでは明確な戦力の差が見えます。
上記表の通り、Montasが加わったことによってCole-Montas-Cortes-Montgomery-Taillon(+IL中のSeverino、控え要因としてGermanやSchmidt)という理想的なローテーションが組める見込みでした。
またSeverinoが9月以降ILから復帰した際には
・一番成績の芳しくない投手がローテから外す
・Severinoをブルペンへ転向させる
・6人のゆとりローテで回す
と様々な選択肢がありましたし、怪我による離脱があったとしても保険としてGermanやSchmidtが控えている万全な状態でした。

しかし、計算式からMontgomeryを外すと
防御率 6.39 5.09 WHIP 1.82 1.53のGermanを先発起用する必要あり
・先発の控え要因がいない為、ロング要因として優秀な成績を残しているClarke Schmidtをマイナーで先発調整をさせざるを得なく、MLBで起用できない
・先発投手1人が怪我離脱をした場合はSchmidtを代替起用できるが、2人以上に怪我が出た瞬間にローテーションが崩壊する
・キャリアハイの投球回数を既に上回っているCortes Jr.の稼働制限(ローテを一度飛ばす等)がかなり難しくなる

と状況が大幅に悪化してしまいます。

Con ②: そもそも対価が戦線離脱中

冒頭から本トレードを不可解と酷評していますが、誤解なき様、対価として獲得したHarrison Bader選手自体は本当に素晴らしい選手だと思います。
特に私自身がずっとニーズとして掲げていた「CF守備要因」に最も相応しい選手と言っても過言ではないでしょう。(その心はこの後お話します)

ただ、冒頭でもお伝えしている通り、現在Baderは怪我離脱中です。
しかも軽傷ではなく、足底筋膜炎というなかなかの重傷で既に1ヶ月半以上欠場しています。
復帰見込みは恐らく9月とされている一方、シーズン全休の可能性も示唆されており、最早今季貢献するかもわからない状態です。

実際、本トレードではSTLからBaderに加えPTBNL(後日指名する選手)を獲得しているが、そのPTBNLの選択肢が「Baderが今季中に復帰した場合」と「今季中に復帰できなかった場合」とで変わる異例の契約形態となっています

Baderの契約は来年もある為、来年フルで活躍をすればヤンキースにとっての勝ちトレードへと変貌を遂げる可能性はありますが、少なくとも
「今季レギュラーシーズン中のBaderの貢献>Montgomeryの貢献」
というのはほぼ間違ないと思います。

Con ③: ロスター整理が地獄

TDL前の40人ロスター(現地2022/7/26時点)
TDL後の40人ロスター(2022/8/6現在)

上記がTDL前後のロスターで、動きを整理すると下記の通りになります:

<26人ロスター>
IN
・Andrew Benitendi(KCから獲得)
・Scott Effross(CHCから獲得)
・Lou Trivino(OAKから獲得)
OUT
・Joey Gallo(LADへトレード)
・Jordan Montgomery(STLへトレード)
・Clarke Schmidt(マイナー落ち)
<40人ロスター>
IN
・Frankie Montas(現状忌引リスト入りの為26人ロスター入りは後日)
・Harrison Bader(10日IL)
・Ben Rortvert(60日ILから復帰、即マイナー落ち)
・Luke Bard(レイズからマイナー獲得)
OUT
・J.P. Sears(OAKへトレード)
・Luis Medina(OAKへトレード)
・Luis Severino(60日ILへ移動)
・Miguel Castro(60日ILへ移動)

ご覧の通りかなりロースターの入れ替えがあり、獲得選手のロースター入りをする為に今季ブレイク中のSchmidtを(前述の要因に加え)余儀なくマイナー降格をさせる必要が生じてしまった、といった難しい判断も下されました。

しかし、実は8/6現在でまだ26人ロースターの枠を空ける必要があります。
これらトレードの最大の目玉であるMontasがトレード前から忌引でチームから離れているため、現地8/7の予定先発に合わせてピッチャーを1人マイナー降格orDFAする必要があります。

チームとしては極力DFA(Designated for Assignment、実質的な戦力外通告)を避けたい中、唯一オプション(ウェーバー公示せずにマイナー降格をさせる権利)を有するのは以下3名:
・Scott Effross (46IP ERA 2.54 WHIP 1.07)
・Ron Marinaccio (26IP ERA 2.08 WHIP 0.85)
・Jonathan Loaisiga (24IP ERA 6.38 WHIP 1.46)
こう見ると降格をさせるべき選手は明らかにLoaisigaになります。昨年は不動のセットアッパーとして圧倒的な成績を残したものの、今季は怪我等で振るわず、残念ながら一番可能性が高いでしょう。

しかし、本来であればLoaisigaも昨季の感覚を取り戻すためにもマイナー降格をさせずMLBロスターで低レバレッジ投球させるべきです。
それが出来なくなったのもMontgomery放出により、DFA筆頭候補だったGermanを残さずを得なかった為です。
更に前述のSchmidtも枠の運用と先発の控え要員待機のダブルパンチでマイナー降格をしているが、こちらもそもそもGermanをDFAしていればMLBチームに直接貢献できていたはずです。

しかも、皮肉なのがどのみち今季中にはGermanをDFAせざるを得ないと思われる点:

9月にはロスターが26人→28人へ拡張するものの、何名かの降格/DFAは不可避

仮にLoaisigaをシーズン終了までマイナーに残すとしても、Severino復帰時にピッチャーを誰かしら26人ロスターから外す必要が生じます。
その時、Germanが余程好投をしない限り、もしくは他の投手が余程酷い投球をしない限りはGermanに白羽の矢が立つでしょう。

ちなみにさっきからGermanばかりに辛辣じゃない?と思うかもしれません。実際その自覚はあります。
まだ34試合とサンプルサイズが小さいながら、表面上の成績(防御率 6.39 5.09 WHIP 1.82 1.53)のみならず
FIP 7.30 5.77(8/6更新、以下同)
HardHit% 41.3% 45.9%(MLB平均35.7%)
xSLG .503 .520(同.406)
wOBA .414 .375(同.316)
xwOBA .382 .388(同.315)
ととても擁護できるような内容ではございません。

そして投球内容はおろか、DV問題で81試合出場停止になったり、出場停止中にSNSで引退宣言をしたり、22時間後に撤回したりと度々問題を起こしていることもあり、人格面でも中々肩を持ちたいと思いません。

まだ保有年数が2年半あるので、そこそこの投球が出来ていれば延命措置をする価値はあるとは思うものの、最近の投球内容は正直絶望的です。
個人的にはSchmidtがマイナーで先発調整が完了次第すぐさま交代して頂きたいと思っています。

Pro ①:CFの守備を大幅アップグレード

ネガティブな話ばかりしてきましたが、ここからはポジティブな話を。
まずは前述もした通り、対価のHarrison Bader外野手はレベルの高い選手です。
特にCF守備に定評があり、OAA(Outs Above Average、≒平均より何個多くアウトを取れたかを示す守備指標)では2018年以降通算ベースで外野手トップの53OAAを計上しています。

2021年にはゴールドグラブ賞も受賞

そして前述の通り、現在ヤンキースには「CF守備要因」への大きいニーズがあるので、まさにパーフェクトフィットです。
その最大の理由は現在MVP争いのトップランナーとして君臨しているAaron Judge選手がCFを守っている為です。

決してJudgeがCFとして物足りないわけではなく、むしろCF(もっと言うとどこのポジションからも)には贅沢すぎる打撃を日々魅せており、守備も他CFにも引けを取らないレベルだと思います。
そもそもチーム事情(元正CFのAaron Hicksの守備が大幅劣化した為)でシーズン初旬に急遽本職のRFからCFへ半ばコンバートをした中で、十分以上の適性を見せている点は寧ろもっと評価されるべきではないでしょうか。

しかし、やはりMVP級の活躍をシーズン通して維持する為にも守備負担の重いCFからRFへ戻すべき、という意見はヤンキース内でも多かったでしょう。
守備指標上でもRF Judgeはゴールドグラブ級の名手である一方、CF Judgeは単に平均的である為、RFに戻すことがチーム全体にとってプラスでしょう。

というわけで、RFに球界トップクラスのJudgeを戻し、CFに球界トップのBaderを並べ、更にLFにも直近ゴールドグラブ受賞者Benitendiが揃えばダントツで球界最強の鉄壁外野が誕生します。
Montgomeryという重い対価を払ってでも完成させる価値があったかもしれませんが、それは(Baderが正式に復帰をして)実際に稼働してからでないと評価が難しいかもしれません。

Pro ②:見方によっては余剰戦力で弱点の穴埋め出来た

この点は本トレード擁護派が一番挙げる点ですが、Montgomeryは先発陣では「余剰戦力」であり、放出しても大きくは困らないという考えもあります。

大きく二つに分けると、
①Montgomeryはどのみちプレイオフローテには入る余地がなかった
②多少ローテの厚みが減っても地区優勝は安泰

という点が挙げられます。

プレイオフローテを見据えて

MLBのプレイオフでは多くとも4人、場合によっては3人の先発ローテで挑むチームが多いです。
これは最大7試合のChampionship Series(リーグ優勝戦、CS)とWorld Series(WS)がそれぞれ2試合-移動/オフ日-3試合-移動/オフ日-2試合となっている為、中4日前提では1試合目に先発した投手が5試合目には再度先発できる様になっています。
更に先発4番手に不安を抱える場合は中3日の3人ローテで回すチームも多いです。
(ヤンキースも2009年のWS優勝シーズンではCC Sabathia-AJ Burnett-Andy Pettitteの3人ローテで世界一を奪還しました)

その観点でローテを見てみましょう。

4人に絞るとなると一気に選定が難しくなる

Gerrit Cole-Frankie Montas-Nestor Cortes Jr.の3人はプレイオフローテ入りがほぼ確定として、残り1人を誰とするかが問題となっています。

一番無難な選択肢はTaillonを4番手とし、中継ぎ経験も豊富なSeverinoを(怪我明けということも考慮し)ブルペン転向させることかもしれません。
しかし直近のTaillonはとてもプレイオフで先発出来る様な投球をしていませんし(ここ7試合で防御率5.71)、逆にSeverinoはプレイオフ経験が豊富(防御率5.23ながら計8先発+リリーフ登板1回)ですので、個人的にはSeverinoがローテ入りする可能性が高いのではと考えています。

そうなると、先発要因のTaillonを中継ぎ転向させるか、場合によってはプレイオフロースターから完全に外すという選択を取らざるを得ません。
その中でさらにMontgomeryが入ってくると、さらに話がややこしくなりますね。
Montgomeryもプレイオフローテに入る可能性は限りなく低かったでしょう

それを踏まえ今オフにFAになるTaillonにはトレード価値がほぼない為、保有年数が残り1年半あるMontgomeryを放出し、プレイオフで別の形で貢献をできる選手を獲得する、というのは理に適っているかもしません。

地区優勝が安泰?

現地8/6現在、ヤンキースは10.5ゲーム差でAL東地区首位

個人的には残り55試合で10.5ゲーム差で安泰と言えるかは微妙だと思っていますが、、、
Montgomeryなしでも地区優勝は出来るという判断があったかもしれません。

確かに10ゲーム差でも、1ゲーム差でも優勝は優勝なので、ギリギリを攻めていこうという考えなのかもしれませんが、私はそんなチキンレースをしたくないですね。
まあだから私は家のソファで寝転がりながらnoteを書いていて、Cashmanは世界最高のスポーツ球団の指揮官をしているわけですが、、、

でもやはり納得できない

こうやってプロコン並べても、やはりどうしてもProsよりConsの方が大きく感じますし、どうしても腑に落ちないですね。

ホームアドバンテージを捨てる舐めプ

まず一つどうしても引っかかることがあって、それは宿敵アストロズの存在です。

リーグ首位はHOUと僅差。テキサスでなるべく試合をしたくないなら首位は死守してほしい

言うまでもありませんが、2015年、2017年、2019年とプレイオフでKOされ、例のサイン盗み事件でも因縁を持つ相手。
今年もアメリカンリーグでは最大の脅威であり、WS制覇をする上で対決は避けて通れません。
そこで少しでも優位になれるよう、1試合でも多くホームで主催すべくホームアドバンテージを全力で取りに行くべき、と個人的には思っています。

それなのにアストロズに実質的にリーグ首位を献上するような舐めプをして自ら自分の首を絞める行為はあまり理解ができません。

後続のトレードがあったのでは

そして最終的に辿り着くのはここ。
恐らく後続のトレードで別の先発投手を獲得する見込みだったところを、そちらの交渉が決裂し、後任を手配できずに前任を放出してしまった最悪のシナリオが生まれてしまったと思います。

具体的には、MIAのPablo Lopez投手とSFのCarlos Rodon投手の獲得交渉をしていたとの噂があり、対価としてGleyber Torresとトップ有望株1人を中心としたパッケージを考えていた様です。

詳細の真偽は別として、少なくともMontgomery獲得と同時並行で別の先発投手を獲得しようとしていたのは間違えないです。

個人的に気になったのが、キャッシュマンGMが次の発言をしたこと:

直訳をすると「一番最後に色んなトレード構想で空振り三振してしまった」と言っているが、TDL直前に希望していたトレードが叶わなかった旨をあっさり漏らしています

あのプライドが高いキャッシュマンが自身の思惑通りに行かなかったことを認めていること自体が珍しいですが、これは逆に「認めなければキャッシュマンが素でMontgomeryを先発補充なしで放出した無能GMだ」というストーリーになってしまうことを危惧してあえて発言したと私は考えています。
考えが捻くれすぎかもしれませんが、ヤンキースが前述の理由で本気で単体トレードをしたと信じるより余程理解が出来るので、私はこれを信じるとします。

Conclusion

ワールドシリーズでBaderがチームを崖っぷちから救う超絶ファインプレーが出て、あの時キャッシュマンが意味わからんディールを遂行したお陰で優勝できた!と言える日を楽しみに頑張って応援したいと思います。

あれ、Andujarがトレードされていない?

引用: mlb.com, Baseball Reference, Fangraphs, MLBTR等

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