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深夜の京都駅でうなだれる13歳の子供を保護した

「君大丈夫?どうしたの夜の12時前にこんなところで座って」

私が話かけるとその少年はただただ怯えるばかりで、

「大丈夫です。バスに乗れませんでした。大丈夫です」
としか答えない。

おいおい、なんでこう出張中は目の前でハプニングばかり起こるのだろうか。

実は私は出張中何かしらネタになる話と出くわすジンクスがある。
同僚達からも「憑いてる男」として知られているが、
その日はすでに乗ったバスに向かって、個人タクシーの運ちゃんが怒鳴りまくっているところに遭遇したばかりだった。


キレすぎでしたわ。あのおっさん。

アロハシャツを来たおっちゃんが「ぶっ殺すぞ!」とかバス運転手に叫んでいる。隣の若者二人が吐き捨てるように

「だから嫌いやねん個人タクシー。はよ、いねや」
「でも、あれで仕事できるんやから、ええな。」
「ほんまや」


と小声で呟いている。

どうやら私には自分の周辺300mくらいを不穏な状態にさせる特殊能力があるらしい。雰囲気はアメリカ映画に出てくる治安の悪い街みたいだ。まぁでもこんな話もNoteのネタにすればいいや、なんて思っていたら、、、

これである。


そうそう、ここ。

終電のバスを降りたら彼がうずくまっていた。

タクシーのおっちゃんが凄まじく怒鳴っていたおかげで、バスの出発は遅れ、私は最終のバスに乗れたようだった。食事を終えてホテルの最寄りである京都駅のバス停に降りると、すでに人はまばらである。

バスに一緒に乗っていた大学生達はコンビニ近くで酒でも買って、まだ遊ぼうと叫んでいたが、それ以外はそそくさと家に帰っていく。

その中でよく見ると地面に座り込んで体育座りで動かない人がいる。
老人か?ホームレスか?いや違う、明らかに子供だ

背丈は155-160くらい。筋肉もなく小柄だ。
明らかに声代わりもしてないんじゃないか。
少し心配になった。こんな時間にここにいるなんて普通じゃない。

とはいえ、私は出張者で東京から夜遅く10時に京都についたばかり。
そこから食事をさっと取って、ここ京都駅のバス停にいる。
突っ伏せるベッドがあるアパホテルまでは後歩いて10分なのだ。


夜の京都駅は想像以上に人が少ない。

誰か助けてくれるだろう…さすがにサラリーマンのおっちゃんとかが…

誰も立ち止まらない

が、バスを降りた人々はそそくさとロータリーから離れていくばかり。
まるで突っ伏している子供は闇夜に隠れる影のような存在である。

みんな、気がついているのに無視するのだ。

あっという間にそのロータリーに残るのは私とその子だけになった。

正直な話、厄介事だろうなぁと思っていたので面倒くささは感じていた。

それでも話かけたのは、哀れみ30%、興味関心30%、みんなから
「すごいじゃないか!」と褒められたい承認欲求40%のカクテルを飲み込んだからだ。決して素直な優しさではないことを告白しないといけない。

しかし、いくらなんでもみんな、

「見捨てる」を選択するまでの判断早すぎないか?

周りの人に悪質な冗談を散々やっている私のほうが
よっぽど優しいってこの世の中どうなっているんだろうか。

「君大丈夫?どうしたの夜の12時前にこんなところで座って」

私が話かけると、ビクッと、子供が顔を上げた。
洒落っ気0の黒縁メガネはいかにも塾にしか行ってなさそうな子供である。

果たして家でか虐待か


あ~…やっぱり子供か…

これは何かしらちゃんとしたエンディングを用意しないとだめだなと思った瞬間だった。

さらっと聞いてみる。

「どうしたの?帰れなくなっちゃったの?どこから来たの?」

「京北から来ました。大丈夫です。バスを逃しただけです。大丈夫です」

けいほく…?京都に土地勘がないので京北だと理解するまで数秒かかった。訛も京都のそれだ。この辺の子供だろう。

「京北?それって京都の北ってこと?僕ね、ここの人間じゃないからわからないんだけど、遠いの?それでタクシーとかで帰れるお金がないからここで待ってるの?」

「お金あります。大丈夫です。明日の始発のバスで帰りますから。大丈夫です」

「そんなこと言っても、このバス停で待ってたら警察が来てすぐに補導されちゃうでしょう。君家どこ?」

子供の顔が引きつった。あぁそうか。髭面で黒い帽子を被ったミリタリー風のおっさんから住所を聞かれたら顔もひきつるだろう。

自分がジャングルに住んでる人さらいにしか見えないことを思い出した。

その時、ふと少年の服に視線が写った。白いシャツに黒いズボン。全く個性がないが白いシャツが妙に汚れている。

なんというか赤茶色いシミが点々と…血…?

予想以上の厄介事かもしれないと思い始めたのはその時である。

これもしかして虐待案件だろうか?
半袖の先から除く腕をさり気なく見てみたが傷はない。
だが、見えないところだけ痛めつける親っていうのは実際にいる。

「どうしたの?帰りたくないの?なんか事情でもあるの?」

聞いてみても彼は「大丈夫なんです」
しか言わない。親にはどうやらケータイで連絡していて、
「なら、始発のバスで帰ってきなさい」と言われたらしい。

嘘なら家出小僧だが、真実ならいよいよ虐待だ。
私の顔が曇った。相手の顔は最初っから鈍い曇天である。

受け取らない金


「よし、わかった。何も聞かないよ。帰りたくない理由があるかもしれないからね。それに知らない人になんでもかんでも話したくないでしょう。でも、ここにいても警察は絶対パトロールに回ってくるんだ。君は捕まっちゃうの。わかるね?それに真夏だっていっても雨降ってる日に屋外に居続けるのは体に悪い。これ持って行きなさい。」

さっと5000円を渡した。

だが、彼は受け取らない。強情である。

「大丈夫です。お金あります。」

「じゃあいくらあるの」

「….」

「お金あって受け取らないならいいけど、ここにいても何も変わらないのはわかるね?君はどこか遠くに行きたい。でも遅かれ早かれ警察がやってきて君は補導される。もし、遠くに行きたいならここから離れることだ。持ってる金でマックにでも行きなさい」

「はい。。。」

終始怯えた顔でその子供は立ち上がってロータリーを離れ始めた。

この時点で無理やり警察に連れて行けなかったのは理由は2つ。まず、誘拐かなんかだと思われても困る。第二に本当に虐待だったら警察に捕まって親元に引戻されても帰って悲劇なんじゃないかと思ったから。

彼は何も語らないし、こちらも真実はどちらかわからない。
それで彼の行動力と神に任せることにした。

仮に虐待されていて本当に逃げたいと思っているとしよう。警察に補導されて連れ戻されるのは絶対に嫌なはずだ。ならここから離れるだろうから問題ない。

だが家出ならそこまでの行動力はないからそこにとどまるだろう。結局、この怪しいおっさんがいなくなってから元のロータリーに戻ってくるだろうと思ったのである。


というわけで、彼と一旦分かれた後すぐに交番に直行してこの辺に家で少年が歩いていることと、彼は何も話さずどこかに行ってしまったこと、そして血によるシミみたいなのがあるので虐待かもしれないと伝えてその場を去った。

警察は比較的真摯で、すぐに探しますと飛び出して行ったのがせめてもの救いだった。果たして真実はどちらだったんだろうか。

何が正しい答えなんかわからない

とりあえず、電話番号と名前を警察に告げると、私はホテルに戻った。
そしていそいそと翌日の準備をしていると、30分後くらいに署から電話がかかってきた。

結局少年はまたロータリー付近にいて親御さんとも連絡がつき、ただの家出だとわかったらしい。

良かったと思いつつ、これで一つ善行を積んだので悪事をしてもチャラだな。善行貯金ってやつだ。という声が頭の中を通り過ぎていった。

しかし、本当にこれで良かったんだろうか。
親は警察が限界に子供を送り届けるまでは玄関先でニコニコ待っていて、扉を締めた途端、タコ殴りにしたりしないだろうか。

無理やり警察に連れて行くのが正解だったか?それとも飯でも奢ってやるべきだったのか?結局どれも正解と言えるほど正しい選択には見えなかった。

ただ、少なくとも13歳の子供を駅前に放置しなかったのだけは正解だろう。日本社会は安全だから問題ないと通り過ぎていった大人たちは思ったかもしれないが、いくらでもおかしいやついる。まぁ海外なら本当に誘拐されるかもしれない。

みんな忙しいのはわかる。俺だって仕事仕事で京都駅についたのは夜の10時だった。それでも判断つかないような年頃の子供を道に放置する社会でいいのだろうか。それほどみんな子供は嫌いなのだろうか。同じ社会を支えてるメンバーなのに…

都会のなんとも冷たい風を感じる夜だった。


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