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Kog #2

 「あの娘は 女のくせに 自転車漕ぐのが上手」
 昔これを聴いたとき、変なフレーズだな、と少し感じた程度で、取り立てて気にもしてなかった。だが、初めて聴いたときから40年くらい経った今も、忌野清志郎が歌ったこのフレーズが時折、頭の中でリフレインする。何故かはわからない。
 思い付く事と言えば、ええと、こんな時代なので、何を言われるかわからないが(少なくとも私の中では)事実であるので言う、言ってみる。どうしよう。いや言おう。それはつまりMostly, 女性は、自転車に乗るのが下手であると、私が思っているからだろう。Probably.
 歩道を走ってくるのは構わないが、謎のライン取りでこちらに向かってくる。私が左に寄ったのに何故、君も左に寄ってくるのか。たわけが。
 正確に言うと、上手くなろうという気がさらさらない、のだと思う。ま、自転車ってそういう乗り物だよね。免許があるわけでないしね。

 かく言う私もこれまでは、自分自身が自転車に乗る際に、上手いの下手の、そんなことは考えもしなかったのである。
 ところが型落ちとはいえ、サイクルベースあさひで売ってる二万円のクロスバイク、とかではない自転車を買ってしまった。そう、この自転車の前に乗っていたのはまさに、サイクルベースあさひで買った二万円のクロスバイクで、数年間乗ったものの、外置きだったのでサビッサビにサビオ、サビて、とてもみすぼらしい姿になってしまったのだ。
 それから数年、いつまでも錆びた自転車が家の前に駐まっているのが嫌になったのも、自転車を買い替えるきっかけとなった。今回は、サビると心が痛むので。玄関に入れている。おかげで、玄関が狭い。
 そのように、今は大事に扱っている自転車なので、ちょっとは格好よく乗りこなしたい、そんな気持ちも沸いてくる。乗りこなす、ってどういうことか。私個人の定義としては、身体の延長のように自由自在に自転車を扱えること、である。
 なので、スタンディングスティルとかウィリーとかマニュアルとかは、私にとってこれから習得しなくてはならない、必修科目なのである。歳なのに。

 外出自粛が要請されている昨今、週二、三回、自転車を部屋に乗り入れて、スタンディングの練習をしている。自転車を室内に入れられるとは、随分広い部屋にお住まいですね。と訊かれれば、全くそんなことはなく、何せ去年、つい出来心で買ってしまったチンニングスタンドが、ただでさえ狭い室内でデカい顔をしている。そこに自転車を乗り入れるのだから、そりゃもう大騒ぎである。百万ドル騒ぎ。ボブ・ディランアンドザ・バンドのベースメントテープス。
 室内スタンディングでコケると、色々なものにぶつかり、チンニングスタンドや、電気スタンドが倒れて襲いかかってくる。早く上達しないと、いずれ部屋の中の何かが壊れる。従って、上達せざるを得ない。上達しないと破産する。プアなメソッドである。十万円欲しい。

 とはいえ、一日三十分でも一時間でも、サドルにまたがっていれば、さすがに上達の兆しが見えてくるもので、それはそれは微々たる進歩ではあるが、嬉しいものである。
 このエッセイを書き始めたのも、果たして何回目で「スタンディング出来るようになりました!」と書けるのか、楽しみにしている自分もいるからである。
 スタンディングをマスターするのが先か、部屋が壊れるのが先か、自分の身体が壊れるのが先か、そんなチキンレースが始まっている。

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