『黄色い繭の殻の中』Q&Aレポート | 11/23(木) | 第24回東京フィルメックス
11月23日(木・祝)、有楽町朝日ホールでコンペティション作品『黄色い繭の殻の中』が上映された。本作は、事故死した義理の姉の遺体を田舎に送り届けた青年が、やがて自身の魂の在り処を探す旅に彷徨いこむ様を描いた神秘的な物語。本作でカンヌ国際映画祭の新人監督賞にあたるカメラドールを受賞したのは、これが初長編となるベトナム出身の新鋭ファム・ティエン・アン監督。上映後にはアン監督がQ&Aに登壇し、観客からの質問に答えてくれた。
朝早くからの上映にも関わらず、上映後、詰めかけた観客の大きな拍手に迎えられて登壇したアン監督。まずは初長編となる本作の製作が実現したことを「幸運だった」と語り、「親友や妻に助けられながら、この映画を一緒に作ってきました。その過程では、言葉で語らずとも気持ちが通じ合った状態で仕事ができました」と満足そうに振り返った。
ベトナムの美しい自然も印象的な本作は、動物を象徴的に捉えたカットが随所に挿入される。この点についてアン監督は「動物は人の暮らしにおいてなくてはならないもの。映画に必要なものと考えています」と持論を披露。続けて「例えば、カイコが蛾になってはばたくシーンは、カイコが繭から出て成虫になる様子を象徴的に捉えたかった」とその思いを語り、さらに「この映画では、できるだけ多くの動物のシーンを入れたかった」と打ち明けた。
また劇中では、これまで刻んできた年輪を感じさせる老人が、自分の人生を語る味わいのあるシーンも、作品に深みを与えている。このシーンについてアン監督は、まず「おじいさんは、戦中戦後を過ごしてきた自身の体験を語ってくれています」と、本人の実体験に基づく話であることを説明。続けて、出演の経緯を「私がおじいさんに会ったとき、彼が歩んできた人生の話を聞き、それが非常に神聖なものだと感じたので、彼が語るシーンができました」と告白。ただし、プロの俳優ではないため、撮影には苦労したらしく、「おじいさんは『この通りに喋ってください』とお願いしても喋れるわけではないので、撮影には時間をかけた」という。
なお、これと同様に老婆が臨死体験を語る場面もあるが、こちらは「ご本人の経験ではなく、プロの女優さんが、私たちが用意したプロットに基づいて演技をしてくださっています」とのこと。
また上映時間3時間に及ぶ本作は、長回し撮影のシーンも多く、時間がゆったりと流れる。その意図を「映画の中の時間と実際の時間が同じように流れるようにしたかった」と解説。理由については「観客が、演じている俳優と同じように時間を体感することで、内面世界をより深く理解していただけるのではないか」と語った後、こう付け加えた。
「時間について、観客の方にもっとチャンスを与えたい。私が『こう考えてほしい、こう見てほしい』ということを押し付けるのではなく、ご覧になる方が自由に解釈し、作品世界をより深く理解する。そういうチャンスを持っていただけたら」
このほか、自身が影響を受けた映画監督として、アンドレイ・タルコフスキーやアッバス・キアロスタミ、溝口健二らの名前を挙げたアン監督。神秘的な作品に、質問はまだまだ尽きない様子だったが、時間切れとなり、惜しまれつつQ&Aは終了した。
原稿:井上健一
写真:吉田留美、沈週
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