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『法律事務所×家事手伝い2 不動正義と水沢花梨とニュースの女』最終読本

Amazon Kindle電子書籍『法律事務所×家事手伝い』シリーズの「最終読本」を第1巻に引き続きお届けします。

「最終読本」などと大げさに謳っているのは、万が一、シリーズ全体が完結する前に作者が死亡、あるいは執筆不可能になった場合のことを真剣に憂慮して、その時点までに決まっていた“物語の先”をきちんと書き残しておこうという目的を設定しているためです。

 そういう意味では究極のネタバレを書いていきますので、『法×家事』シリーズに関して「これ以上読むものがない!」と禁断症状の陥った方以外にはあまりオススメしません。あえて「有料コンテンツ」にしているのも、そういう理由からです。

 何よりこれは作者自身にとっての備忘録でもあるので、発売後も随時、ブラッシュアップしていく予定です。

 各巻ごとに一つの記事を書いていきますが、内容的にはキャラクターごとにまとめていきます。

 キャラのイメージがブレないように、基本的には実在する俳優を念頭に置いて“あて書き”をしているので、まずはどんな俳優を選んだのか? それを公開します。

 そして、そのキャラクターがシリーズの最後はどうなる(予定な)のか?この二つが最大のトピックであり、ネタバレポイントであり、「有料コンテンツ」としての目玉になります。

 作品自体の「メイキング」として、すでに「副読本」シリーズを二冊出していますが、ここではできるだけ内容を重複させず、また旧来の登場人物のコメンタリースタイルはあえて避けて“実録”風に書いていきます。

 前回同様まずは第2巻『不動正義と水沢花梨とニュースの女』のイントロダクションからはじめます。「5.主要キャラクターの設定について」から先が「有料コンテンツ」です。では、ごゆっくりお楽しみください。

1.イントロダクション

「幼なじみは全国区、“家事手伝い”は四苦八苦」
弁護士事務所という「家事」を手伝う不動正義と、義理の妹・水沢花梨。
彼らの奮闘やら失恋やらを描いたホーム(法務)&ハートフル・ストーリー第2弾!

<あらすじ>
 弁護士事務所という「家事」を手伝う不動正義ふどうまさよし
 父親で弁護士の不動征四郎せいしろうを狙って、あろうことか〝オレオレ詐欺〟の電話がかかってくる。
 なぜか自分を騙そうとした当の相手の弁護を引き受ける征四郎。
 やがて事件の背後には〝テンイチ〟と呼ばれる詐欺グループの存在が見え隠れしてくる。
 父親の行動に疑問を抱きながらも裁判の手伝いをすることになった正義は、テレビ局のニュースキャスターになった幼なじみの朝生美也子あさおみやこと再会。
 彼女の実家がある日光への旅に誘われてすっかり舞い上がってしまう。
 しかし、美也子には彼女なりの思惑があって…。

<ゲストキャラ>
・朝生美也子……〈TVX〉のニュースキャスター

<ゲストフード>
・〈どらクレープ〉……初期バージョン&新バージョン

<おまけ>
・スピンオフ『三毛猫の女房』第2話「夏越圭介と水沢花梨と謎の引き出物」

2.(コメンタリーではない)メイキング

 引き続き、当時の日記・メモ・ノートなどをひっくり返して、製作過程を追っていくことにしよう。

○執筆過程

 日記などを参照して整理すると以下のようになる。第2巻の執筆開始は、第1巻の初稿を書き上げた直後のことだった。

・2011年4月30日……プランをまとめる
 と日記には書いてあるが、どこでどうまとめたのか記録が見つからない。
まったくプロットを書いていないということはないと思うが、当時は「字コンテ」に近い文章を書いて、それを直接書き直すスタイルで執筆していたので、完成原稿のなかに“溶け込んで”しまったのではないだろうか。

・2011年5月1日……本文執筆開始
 当時から「25列×32行×左右2段組」というWordの画面設定にして、初稿は横書きで書いている。常に1600文字分の空白が見えていて、進捗度合いの「視認性」が高いからである。

 初日はいきなり7ページ(10000文字弱)書いているが、このまま第2作を書き進めるべきか、系統の違う別の作品を書くべきか一瞬迷ったようである。その結果、まずは「シリーズ作品という“文脈”を作ってみよう」と結論に達したようだ。この判断は正しかったと今でも思っている。

・2011年5月22日……第1稿上がり
 我ながら驚くべき速さで仕上げている。第1巻に比べると大きな修正もしていないから、ほぼここで完成しているわけだ。

・2011年10月1日……第1巻・第2巻原稿仕上げ
 いろいろと読んだ感想を聞いたり、細々とチェックを重ねて、二冊が同時に完成した。

○人物相関図と間取り図

・2011年7月6日……人物相関図と間取り図を製作
 Microsoft Visioというソフトを使って作ってみた。

「人物相関図」については上記に掲載したもの、不動家の「間取り図」は下記のようなもので、自分が小学生から中学生時代に住んでいた、生涯に一回だけの“一軒家”(ただし、借家)をモデルにしている。

 征四郎の書斎以外はほとんど間取りが同じなので、イメージが湧きやすくて助かっている。二畳分の大きさの“掘り炬燵”は、実際にそんなものを作ったら、お互いの距離が遠すぎる気もしたが、何か特徴がある“茶の間”にしたかった。

「間取り図」自体は正義が結婚して家を出た時点で一度修正を加えている。

「第1期」の間取り図

○「東京コンテブラザーズ」

「東京コンテブラザーズ」とは川口世文の「屋号」である。「コンテ」は「コンテクスト(文脈)」の意味だが、よく「絵コンテ」の「コンティニュイティ」と間違えられる。残念ながら、絵心はまったくない。

「ブラザーズ」のほうは、都度誰かしら協力してくれる相手を見つけていっしょにやっていこうという決意表明のようなもので、実際に“兄弟”で製作しているわけではない。読んで感想をくれる人も、表紙のデザインをしてくれる人も、みんな「ブラザーズ」なのだと勝手に考えている。(もちろん“シスターズ”の意も含んでいる)

 開業届を出したのが7月11日だということが憶えていたが、今回、日記をひっくり返してみて、新規のメールアドレスを設定したのも2011年7月11日だったとわかって驚いた。

○パート2は何を書くべきか?

 第1巻は勢いで書いた。では、第2巻はどう展開させるべきなのか? 当時もいろいろ考えたはずなのだが、何も記録が残っていないので、逆に完成品から逆算して振り返るしかない。

 多くの「パート2」が前作のスタイルを踏襲しようとするように、『法×家事』も例外ではなかった。なかでも特に重要なのは「個人的に感じた身近な怒り」をモチーフにしようと思ったことだ。

 前作では現実の裁判を傍聴して感じた理不尽なことをアイディアの核に据えた。そして、今回は実際に自分自身にかかってきた“オレオレ詐欺”の電話に対する「怒り」を採用することにした。

 かかってきた電話の内容は本文に書いたのとほぼ同じ(録音出来ていたらもっとリアルに書けたのだが)で、唯一違うのは電話を受けたのが本人だったということ。つまり、「自分が痴漢で逮捕された」という連絡を自分で受けたのだ。

 当然、すぐに詐欺だとわかったので、しばらく話に乗ってみたのだが、演技がつたなかったせいか警戒されて切られてしまった。落語の『粗忽そこつ長屋』ではないが、「連絡を受けているオレはいったい誰なんだ?」というシュールな感覚にしばらく茫然としていたのち、ふつふつと怒りが湧いてきた。

 本編ではこの電話を父親の征四郎が受けたことにした。もちろん彼自身が詐欺に引っかかることはないが、息子の正義に関して、これが「詐欺でよかった」と感じさせる不安感を彼はまだ持っていたことになる。

 不動父子の関係と、今回の被告人・笠谷誠一の父子を対比させて、笠谷の父親に「先生はいい後継ぎをお持ちですね」といわせるのは、この作品の大きな目的だったといえる。

 こんな風にしてパート2では、周囲の人間のさまざまな受け止め方を描くことで、不動正義のキャラクターをさらに掘り下げたかった。「(マ)ドンナ」の朝生美也子を正義の“幼なじみ”に設定し、〈三毛猫〉の圭介の役割を高めたのもそういう趣旨があったからである。

 ついでにいうと「東日本大震災」からちょうど一年後の春に、雑司が谷で以前のように“お花見”ができている風景も描きたかった。

 執筆時期は震災直後の春で、前回も書いたとおり、2011年4月11日に雑司が谷を取材したとき、法明寺の花見は中止という看板が立っていた。それを見たときの複雑な思いを作品を書くことで解消しようとしたことは間違いない。(表紙の色が“桜色”なのもその一環だ)

 前作のスタイルの踏襲という意味では、
・花梨が正義にハマーをネタにした賭けを持ちかける
(前回はハマーを売る、今回はオレンジ色に塗り替える)
・りつ子が作品のキーワードをいう
(前回は「おかえり」、今回は「おいしい」)
 などスタイルの継承を意識していたこともあり、この2作は補完関係にあるというか、鏡像関係にあるような気がする。

○初期の表紙案

 第1巻の「最終読本」で説明したとおり、ここでも知り合いの有限会社ウニコに依頼した表紙デザインが存在している。そのときの作業依頼内容──。

(2)テレビ
・32~40インチぐらい。男性がギリギリ持てる大きさで、なるべく大きい画面。メーカーなど指定なし。デフォルメしてもらってよい。
・画面内には「ニュース番組」風に、白っぽいスーツを着た女性キャスター(TBSの膳場キャスター風)の上半身が映っている。

 便宜上、「(TBSの膳場キャスター風)」としているが、後述するように朝生美也子のモデルは「膳場キャスター」ではない。

3.いつから「伏線」を張っていたか?

 前回に引き続き、実際に使うかどうかも、どのように使うかも確信がないままに仕込んでおいたアイディアに関して、第2巻を書いた時点で、どの程度の認識だったのか、思い出せる範囲で記録しておこう。

○「テンイチ」

「詐欺コンサルタント」の「テンイチ」は、まだここでは笠谷誠一の供述のなかにしか出てこないが、第4・5巻でチラッと登場し、第8・9巻で本格的に正体を現すことになる。

 具体的に「何巻目」になるかはともかく、こうした3段階の登場はこの時点から何となく考えてはいたものの、書けなければ書けないでいい、とも思っていた。実際、「伏線回収」まで9冊もかかったのだから、そこまで行けるのかまったく自信はなかった。

「天板が自動に上下する机」というのは実際に存在する机を参考にしたのだと思う。「テンイチ」が車椅子に乗っている可能性がことにしたのは、単純にあとで思い出してもらいやすくするため。

「テンイチ」という名前は「徳川天一坊」という講談で描かれるある種の詐欺師(自分は将軍の落胤らくいんであると称した)にあやかったもので、さらには『大岡政談』にちなんで、不動征四郎を“大岡越前”に見立てるアイディアも当初はあったのだが、実際にはそうしなかった。その理由は、後述するようにリアルな弁護士を描くことに限界を感じたせいもある。

 もう一つ──例えばドラマ『99.9』の逆バージョンとして──「0.1(レイテンイチ)」の意味も持たせたいと思っていたのだが、そこはうまくいかなかった。

4.書き直したいところはどこか?

 第2巻については話としては第1巻以上に「弱い」と考えているが、3巻目以降のステップボードだと思い、これはこれでよしとしている。

 とはいえ、ここで十分に練っておかなかったいくつかのことが未だに尾を引いている。たった2冊書いただけで、すでに後に退けなくなっている──いわゆる“サンクコストの罠”にはまっている──のが実に情けない。

 全体のタッチがコメディであることでそれを許してもらっている気がするが、書き直せるものなら書き直したい反省はしっかりあるのだ。

 ここでは大きく2つの反省点を挙げておく。

○法律事務所を書くということ

 書き直したいというか、未だにここは書き直せないと思っているのが、“証人尋問の練習”を描いたシーンだ。尋問そのものは裁判の傍聴をしていれば何となくわかるが、その練習をどんな風にやるのか、それぞれの質問にどんな意図が込められているのか、リアルな弁護士の視点で描くのは無理──それが第2巻を書いていちばん痛感したことかもしれない。

 裁判というものが「痛いところのつつき合い」などと、知った風な口で書いているが、あくまでもこれは素人の感想であって、何もわかっていないなといわれても仕方がない。

“オレオレ詐欺”事件の裁判なのに検察が「テンイチ」の情報を盛んに引き出そうとして、それを征四郎が「司法取引」みたいだと考えるシーンにしても自信がない。

 フィクションなのだから物語を面白くするための改変はありだとしても、そのさじ加減が自分にはわからない。

 それでも“オレオレ詐欺”の被害者の一人である征四郎が笠谷誠一の弁護を引き受けることは、実際にはないだろうなと思いながらも強引にその設定で話を進めたが、まったくないとはいえない程度なのかどうか、それぐらいは見極めたかった。

 予算の都合で弁護士に監修してもらうわけにもいかず、独学で勉強するにも限界がある。特に弁護士の日常や、俗人的な法廷戦術に関しては、司法試験の参考書をいくら読んでも知りえない。

 そんなこともあって『法律事務所×家事手伝い』というタイトルそのものの成立や、(広義の)ミステリーと謳っていいのかどうかさえ、すでにこの時点であやふやになってきている。

 ただ、それがシリーズにとって決定的なマイナスだったかといえば、必ずしもそうではない気がする。

○〈雑司ヶ谷スイーツ〉と〈どらクレープ〉

 前作で花梨が決心したことが〈雑司ヶ谷スイーツ〉という形で結実した。前作から半年後の話だったし、夫の生命保険金も下りていたから、これぐらいの挑戦は可能だろうと思った。

 この店自体にはモデルがある。執筆当時、似たような小さなお店を営業していた一軒家が近くにあったのだ。詳しく取材していたわけではないが、どの程度の規模でどんな商品の販売ができそうか、何となく見当がついた。

 とはいえ、最新刊の状況でおいてさえ、〈雑司ヶ谷スイーツ〉が儲かっているとは思えない。さすがに赤字にはならなくなっただろうが、それだけで生活できるレベルではないだろう。何よりも花梨にとっては、思考と時間を埋めてくれる何かが必要だったわけだから、それでいいのだと思う。

 問題は〈どらクレープ〉だ。これまた語感とイメージの伝わりやすさで決めた。本来なら、自分で実際に作ってみるべきなのだろうが、そんなことはしていない。だから、マーガリンの臭いの不快さもよくわかっていない。

 実際の味も、原価率も、日にどれくらい売れるのかも見当がつかない。にもかかわらず“新バージョン”なんてものを登場させているのだから、ふてぶてしい(あくまで花梨でなくて作者が)にもほどがある。

〈竹皿ようかん〉にも苦労した。日光は水羊羹が名物だが参考にした“竹筒”入りの羊羹は京都のものだ。何かそれに近いものはないかと探したが見つからず、作中でも見つからなかったことにしたのは本当に恥ずかしい。

 今回は日光も鬼怒川も取材をしておらず、作者個人として何も“発見”することなく書いてしまった反省は次巻以降に多少は生かされていると思う。

5.主要キャラクターの設定について

※注意:ここからがネタバレポイント①になりますが、キャラクター設定の裏話なので、すでに本編を読まれた方なら安心して読んでいただけます。

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