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ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論8『007/死ぬのは奴らだ』

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第8作『007/死ぬのは奴らだ』

 ロジャー・ムーアはショーン・コネリーより3歳年上で、初登場時点ですでに40歳代後半になっていた。もし前作でコネリーが再登板せず、ジョージ・レイゼンビーの30歳代ボンドの“肉弾”アクションがつづいていたら、さすがのムーアも“三代目襲名”には二の足を踏んだのではないだろうか?

 そういう意味で、コネリーによる“ワンポイント・カムバック”と、それによる40歳代ボンドの“緩い”アクションへのシフトは意味があったといえる。

 ムーアのキャラクターもあってスマートな闘い方には磨きがかかる。ただし、今回はQがまったく登場せず、事実上「ロレックス」一つしか秘密装備がないことには注目しておくべきだろう。

 それは冒頭でMから直接手渡された後で、イタリアの女性エージェントを相手に“実験”され、話の中盤ではボートを引き寄せることに“失敗”し、ようやくクライマックスのカナンガとの対決になって本領を“発揮”する。あまり目立ってはいないが「三段論法」的な使われ方をしているのだ。

実験
失敗
本領発揮

 ムーア=ボンド第1作として、明らかに『ドクター・ノオ』のスタイルを踏襲している作品なので、秘密兵器に頼ることは極力減らしたかったのだろう。ハンググライダーも当時は目新しかっただろうが特殊なものではないし、毒蛇にはスプレーを使った即席の火炎放射器で対抗し、人食いワニの大群からは“因幡いなばの白兎”で脱出する。要はいかに機転を利かせるかがポイントになるのだ。

 それ以外の特徴としては、なぜか作品内において「観客」(もしくはアクションシーンの“立会人”?)を必要とすることが挙げられる。一人目が小型飛行機の教習中にとんでもない目に遭ったベル夫人。

 そして二人目が、前作のラスベガスで登場した“保安官”の発展形であるペッパー保安官だ。中盤の目玉であるスピードボートチェイスの15分間は「ペッパー保安官劇場」でもある。ここまで目立つとムーア=ボンドは、もはや秘密情報部員とはいえなくなっているが、それはまた別の問題だ。

 とはいえ、このスピードボートチェイスはたっぷり時間をとって、シーンとしてもよく組み立てられている。ニューヨークでのカーチェイス、二階建てバスや小型飛行機を使ったアクションが「単発」に見えるのに対し、演技の“構成点”が高いとでもいえばいいのだろうか。

 ボートなのに派手に土手を飛び越えたり、橋の封鎖を突破したり、一方で結婚式を台無しにしたりと、この作品以降頻度が上がるボートアクションの「小ネタ」をすでに出し尽くしている(『ワールド・イズ・ノット・イナフ』のプレタイトルは完全にこれのリニューアル版だった)。馬力で上回る敵のボートとの決着も秘密兵器を使わずに実にスマートに解決していた。

 ロレックス一つという「徒手空拳」(これはこれで評価できる)、ボートアクション以外は「単発」すぎるアクション、そしてコミックリリーフ的な作品内「観客」の存在。これらの特徴が一気にひっくり返されて、同時にムーア=ボンドのアクションを確立するのが第10作なのだが、それは項を改めよう。この作品と次作はそこにつながる“ステップボード”だった──あるいは“我慢の時期”だったと考えるとかなり見方が変わってくる。

 クライマックス後の手下による“復讐戦”は、久々に列車のコンパートメントを使ったものだったが、これはもうちょっと大事にリニューアルしてほしかった。


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