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ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論7『007/ダイヤモンドは永遠に』

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第7作『007/ダイヤモンドは永遠に』

 今でこそ重要作品の一つである『女王陛下の007』が失敗に終わり、ショーン・コネリーが「泣きの一回」で再登板。それにより1970年代前半のボンド映画は『ダイヤモンドは永遠に』を皮切りに40歳代ボンドの時代になった。

 この項は「ボンドアクション進化論」を謳っているので、「進化」の部分を拾っていきたいのだが、40歳代ボンドのアクションが果たしてそういえるのかどうか? 4代目ティモシー・ダルトン以降とは異なって、ガイ・ハミルトンが監督した1970年代前半3作品の40歳代ボンド(不思議なことにロジャー・ムーアは50歳代に入ってからの方が良くなる)のアクションは「現状維持」と評するのが精一杯だった。

 初期のコネリーは「肉弾」というより「精悍せいかん」な感じで、「“危機一髪”を回避してからパンチのある一言」のスタイルと合わせて、“キレ味”抜群だった。対する今回は、ピーター・フランクスとエレベーターで格闘するシーンなど、体型の緩んだ“オッサン”が必死に闘っている感じが否めない。

 ウィラード・ホワイトのホテルに潜入する高所シーンは、華麗にエレベーターの「上」に乗って最上階まで上がり、そこからは「ピトンガン」を使って優雅に侵入して、前作のロープウェイシーンの悪戦苦闘とは対照的になっているが、それを基本パターンにするなら、後半のバンビとザンパーという女性二人との格闘も気の利いた方法でスマートに撃退してほしかった。

 Qと秘密兵器の登場はあるものの「説明」=「伏線」シーンはなく、むしろここでの秘密兵器の扱いは、その存在を隠しておいて、ボンドがいかにピンチを脱出するのか観客への「問い」→「解答」という風に、作劇上の機能が変化したといった方がよさそうだ。

 月面探査車→サンドバギーと乗り継いで敵の研究所から脱出したあと、ラスベガス市街でカーチェイスになる。ここで敵対するのが「保安官」(正確には“敵”ではなく、ある意味で職務を忠実に果たしている)だ。このパターンはムーア=ボンド時代もなぜか“アメリカが舞台になると”頻繁に使われることになる。イギリス流の皮肉なのだろうが、緊張感は確実にそがれてしまっている。

『ダイヤモンドは永遠に』は『ゴールドフィンガー』の成功を再び狙ったもので、ガイ・ハミルトン監督が復帰したのもその流れにあるのだから、アストン・マーチン(もちろん新しい秘密兵器満載の)を登場させたら、かなり印象が変わっていただろう。

 ところが、当時のこのシリーズは「過去のアイディアを使わない」ことに妙に潔癖で、代わりに登場するのがアメ車のムスタング。おまけに片輪走行の向きが“つながらない”という撮影ミスを犯してしまった(向きが変わるショットを追加してかろうじてつないでいるが)。

 当初案でクライマックスに予定されていた「フーバーダム」でのボートチェイスが実現していたら、ラストの盛り上がりにも、もうちょっとキレがあった気がする。

 メインの敵を倒したクライマックスの後に、生き残った手下による“復讐戦”が用意されるのもガイ・ハミルトン作品の特徴で、ここでは「クイーン・エリザベス」の船上でウィントとキッドの殺し屋二人が襲ってくる。これもまた『ゴールドフィンガー』からの発想(ただし、メインの敵と手下の役割が逆になっている)だろうが、残念ながら、あの二人がオッドジョブに比肩する強烈なキャラクターだったとは言い難い。


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