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【期間限定】『法律事務所×家事手伝いダイバース フラグメンツ2024』note版第3話第2回

Amazon Kindle電子書籍『法律事務所×家事手伝いダイバース』の本編で語りきれないアイディアをまとめた「フラグメンツ」(”断片集”)シリーズ。

1年に1冊、1冊に4話、1話あたり約4000文字というルールを設け、すでに2冊を発売していますが、3冊目『2024』の9月発売予定を前にして、その一部を期間限定で公開します。

noteで公開するのは全4話のうち、第2話と第3話(それぞれ全3回)。残りの2編はぜひ本編でお楽しみください。

第3話 第2回三毛猫杯 2

 正義は無事天体望遠鏡を範朝に譲り渡した。彼は大学生になって急に雰囲気が変わるようなこともなく、宇宙への興味、というか野望もまったく衰えていなかった。

 富士登山を提案したら、ホイホイ話に乗ってきそうだったが、正義は逆にそれが怖くて切り出せなかった。

 そうでなくても外国人登山客が増えて、やれ弾丸登山だ入山規制だとやたら面倒臭そうな話ばかりだったし、 山小屋を描いたドキュメンタリー番組をテレビで観て、まず自分が登れる自信がなくなってしまった。

 かといってほかにいいアイディアもなく、相手は未成年なのでいっしょに飲みに行くこともできず、合格祝いは彼が恐れていたとおり、かなり地味なものになった。

 そんなさなかにまた花梨に店に呼び出された。

「圭介さんのところで“第2回三毛猫杯”を開催するんだって──それに範朝くんも誘ってみるのはどう?」

 彼女はいきなりそう切り出してきた。

“第2回三毛猫杯”?──初耳だった正義はどうせボーリングかマージャンの大会だろうと思ったが、

「正義が考えていることは大体想像がつくけど、やるのは東京タワーの“オープンエア外階段ウォーク”だって」

「東京タワーの外階段って333段あるんだっけ?」

「それはタワーの高さが333メートルの間違いでしょ? さすがにてっぺんまで登るわけじゃないけど、階段は全部で600段、十五分ぐらいかかるらしい……」

 その次の展開を予想して、正義は急に憂鬱になった。

「汐里からその話を聞いて、夏越なごしさん夫婦にばかり任せていたら申し訳ないから、わたしも一枚噛むことにした。ちょこっと賞金を出す代わりに、範朝くんを誘ってもいいことになった──」

 ますますその先を聞くのがイヤになってきた。

「ついでに“実行委員”として、正義とまりなさんにも参加してもらいたいの」

「バカいうなよ。参加者全員“成人”なんだろ?──保護者なんか必要ないよ。むしろプライドを傷つけるぞ」

「だから、保護者じゃなくてあくまで実行委員」

 花梨はその論法で押し通したいらしい。

「範朝くんだけがみんなと初対面だから、誰か知り合いがいるといいし、圭介さんと冬美さん夫婦も当然来るわけだから、正義とまりなさんがいてもおかしくない」

「そういうおまえはどうするんだ?」

 痛いところを突いたつもりだったが、花梨はその答えをしっかり用意していた。

「残念ながら、わたしは〈鬼子母神〉の“夏市”に行かなきゃならないし、当日はママの誕生日だから、夜の支度したくもしなきゃいけない……」

「七月七日にやるのか? 暑い盛りじゃないか?──おれだって“都知事選挙”に行く予定があるぞ!」

「それも大丈夫──全員で先に選挙に行く予定だから」

「そこまでしておれに行かせたいのか?」

「だからいったでしょ? まりなさんの真意をこっそり聞いてほしいんだって──」

「東京タワーを徒歩で登りながらか?」

「彼女、そういうの好きなんでしょ?」

 花梨は何か大きな勘違いをしている。

「それともう一つ──汐里と古池くんのようすも見てきてほしい。そもそもあの二人は正義が引き合わせたようなものなんだから多少は責任を感じるでしょ?」

「何だよ、あの二人、怪しいのか?」

 いよいよ花梨も気づきはじめたか? しかしそんな話をあえて正義にする彼女の魂胆はもっと“怪しい”。

「ずっと同じバイトをやっているのよ、あの二人。詮索したいわけじゃないけど、何となく気になるでしょ?」

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