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ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論5『007は二度死ぬ』

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第5作『007は二度死ぬ』

 前作で無事“初防衛戦”を勝利したボンド映画にとって『007は二度死ぬ』はいわば“アジア巡業”であり、最初の舞台に日本が選ばれたのは実に光栄だった。画面は引き続きワイドスクリーンだが、そこで展開したスペクタクルは意外にも「縦方向」、つまりは「高さ」のあるアクションだった。

 第2作で確立された「格闘」アクション、第3作での「カー」アクション、これらはボンド映画に限らずアクション映画の必需品だ。前作の「水中」アクションは新鮮だったし、コストがバカにならないので他の追随を許さない反面、『サンダーボール作戦』一作であらかたやり尽した感がある。

 その点、「高さ」のアクションはスリル満点でバリエーションも多く、中途半端な予算ではチープになってしまうので、CG表現が台頭してくるまではボンド映画の独壇場だったといっても過言ではない。

 発端こそトヨタ2000GTを使った「カー」チェイスだが、追いかける敵を撃退するために丹波哲郎演じるタイガー田中が用意したのは巨大なマグネットを吊り下げたヘリコプターだ。これで敵の車を吊り上げて、東京湾に捨てよう(その映像は誰が撮っているんだ?)というのはバカバカしくも豪快な「垂直」シフトだった。

誰が撮影している?

 さらに神戸港の戦い(ここでも倉庫の高さを使ったアクションがある)の末に捕まったボンドはスペクターの女殺し屋ヘルガを籠絡ろうらくし、いっしょに小型飛行機で逃げ出すも、一人機内に取り残されて墜落の危険に晒される。これが下向きの「垂直」シフト、つまりボンド自身の「落下」のスリルを含んだアクションである。のちに『ムーンレイカー』でも行われるが、ボンド一人を殺すのにわざわざ飛行機一機を無駄にする発想も、実にボンド映画らしいセンスだ。

 そして、垂直展開の「大トリ」となるのがジャイロコプターのリトル・ネリーだ。ここでもレクチャーにQが「現地出張」してくるが、前作同様それを「伏線」にはせず一気に飛び立たせてしまう。リトル・ネリーは兵器満載で基本的には「無双状態」だが、体が剥き出しになる乗り物なので適度にヒヤヒヤしながら楽しむことができた。さすがのタイガー田中もこれを見て目を丸くしていたのがいい。

 クライマックスのスペクター基地も、少なくともセットの高さにおいてはシリーズ「最高」といっていいだろう。ただし、今回のメインの敵がついに登場した宿敵ブロフェルドだったにもかかわらず、しっかり決着がつけられなかったことは画竜点睛がりょうてんせいを欠いたといえる。

 ショーン・コネリーの“1回目の降板”が確定していたのならば、あるいは原作同様、はっきり決着させたかもしれないが、この“持ち越し”が解消されるには実に『ノー・タイム・トゥ・ダイ』まで待たなければならないのだ。

 ブロフェルドばかりでなく、ヘルガはボンドとの再戦を待たずに処刑されてしまい、クライマックスで対戦する白人の大男ハンスもピラニアがいるプールに落ちて「自業自得」死する。そもそも彼ら二人は特徴的な必殺武器を持たされず、結果、ここでも「伏線」が張られていない。キャラクターも十分に立っていないし、作品全体のスケールアップに反比例して、「対決」に至る細かな描写は激減してしまったというしかない。

 そうした反省から、次回作で大きな“原点回帰”が行われる最初の事例になったのもこの作品である。


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