ジェイムズ・ボンド映画アクション進化論4『007/サンダーボール作戦』
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第4作『007/サンダーボール作戦』 (1965年)
『ゴールドフィンガー』で「スパイ映画」のチャンピオンになったボンド映画にとって、今回はいわば“初防衛戦”である。そのためワイドスクリーンが初めて採用され、画面を横一杯に使うアクションスペクタクルが展開する。最大の見どころがラストの敵味方入り乱れての大海中戦だろう。
延々10分にわたる「水中バレエ」のようなアクションは、「地上」で念入りにリハーサルをしてから撮影されたもので、今回再登板したテレンス・ヤング監督が必ずしも気に入った出来栄えではなかったようだが、個人的には大好きだ。これがあるからこそ、その直後に水中翼船(に変形した)ディスコ・ヴォランテ号でボンドとラルゴが対決する、シリーズ随一のカットのつなぎが早いシーンが生きてくるといえる。あれはまさに緩急自在といっていい。
「集団戦闘」における“おいしいところ取り”も相変わらずだ。スクリューのついたジェットアクアラングを支給されたボンドは、ほかの仲間より動きが速く、スモークを焚いたりして派手に存在を主張しながら集団のなかに埋もれず、遊撃手の立ち位置で活躍する。またところどころに挿まれる海洋生物のショットが「水中バレエ」感を際立たせて、血腥い戦闘アクションを適度に中和してくれている。
個人的に最初に『サンダーボール作戦』を観たのはテレビのトリミング版だったから、初めてシネスコ版を観たときは文字通り「2倍」の広がりに感じられたものだ。アクションばかりでなくロケも美術もそうだった。遠くマイアミまで一望できる空撮ショットなど、この時代のボンド映画の映像的インパクトのすごさは、簡単に4K映像が観られる今ではなかなか想像がつかないだろう。
前作と差別化するために『ロシアより愛を込めて』を遥かに上回る規模のスペクターの計画が描かれ、序盤のボンドは偶然それに巻き込まれる展開になる。敵の作戦描写がつづいて、Qの登場は話の中盤に設定される。今回は「現地出張」(ただし、撮影はロンドンのスタジオ)という画的な変化がつけられたものの、残念ながら、ここで説明されるジェットアクアラングなど水中専用の小道具類は、敵の潤沢な装備には遠く及ばず、そのせいか前作ほど力を入れた「説明」=「伏線」の演出になっていなかった。
アストン・マーチンDB5がプレタイトルと中盤のカーアクションで引き続き登場するが、こちらも前回ほどの活躍はなく、女殺し屋フィオナが乗るミサイル発射装置付きバイクにお株をとられていた。
ここで問題として浮上したのはフィオナの扱いで、冷酷な女殺し屋であろうともボンドはグラントやオッドジョブのように直接殺したりはしない。彼女の部下がボンドを狙った銃弾に斃れるのだ。二十世紀の終わりの『ワールド・イズ・ノット・イナフ』まで、女性の敵のこうした扱い方は不文律だったといっていい。
一方「“危機一髪”を回避してからパンチのある一言」は健在で、前述のフィオナが死んだ直後、「彼女、死ぬほど飲んでね」といってパーティ会場の椅子に座らせるシーンが印象的である。
前作プレタイトルの「潜水服の下の白いタキシード」以降、視覚ギャグ的なアイディアも目立ってきた。今作のプレタイトルでは、ブバール大佐殺害後、その手下が迫っているというのにボンドがわざわざその死体にチューリップの花を捧げる演出が効いている。
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