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ネットで匿名の誹謗中傷を受けてもひとりで悩まないでください~ネット誹謗中傷の報道を受けて~

こんにちは。弁護士の斎藤悠貴です。

女子プロレスラーの木村花選手が亡くなった原因がネットで誹謗中傷を受けていたからではないかというニュースが大きく報じられています。匿名の誹謗中傷を受けて辛く悲しい思いをしている人はとても増えています。

匿名だからと軽い気持ちで投稿してしまう人がいることもおそらくひとつの要因です。ただ、ネットは完全な匿名ではありません

芸能人が匿名で誹謗中傷する人を裁判で突き止めたというニュースを見た人もいると思います。
私はネットの誹謗中傷トラブルばかりを扱っているわけではありませんが、私が関わってる裁判だけでも、匿名で誹謗中傷した人の住所と名前が特定されたケースは多いです。おそらくみなさんが思っている以上に、たくさんの人が裁判で住所と名前を特定されています。

ネットで匿名の投稿をする人は、住所や名前が特定されるという前提でネットを利用しなければなりません。
匿名の誹謗中傷を受けた人も、匿名で誹謗中傷する人を突き止めて訴える手段があることを覚えておいてください。

1.匿名で誹謗中傷を行う人を特定するための法律がある

ネット上で匿名の誹謗中傷を受けた時、名誉毀損プライバシー侵害肖像権侵害などになるときは、投稿した人の住所や名前を特定する法律の手続があります。プロバイダ責任制限法という法律です(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条)。

①投稿があったサイトなどにIPアドレスタイムスタンプの開示を求め、②IPアドレスから判明したプロバイダに対して住所名前の開示を求めるという2段階の手続を踏むことが一般的です。

発信者情報開示の一般的な流れ

注意が必要なのは、プロバイダがIPアドレス・タイムスタンプと住所・名前を結びつける情報を保存している期間が3か月程度であることが多い点です。
匿名の誹謗中傷を受けた場合には、投稿者を特定する手続をするのかどうかを早い段階で決める必要があります。

手続の流れやログの保存期間の問題に関する詳細は、以前弁護士ドットコムに取材していただいた以下の記事で丁寧にまとめていただいています。

ネット中傷、賠償命令までの困難な道…植村隆氏長女の裁判で直面した「時間と費用」(弁護士ドットコム)

ただ、現在の法律は、誹謗中傷を受けた被害者を救済するには不十分な点もあります。法律の手続でも匿名の誹謗中傷をした人を特定できないケースもあるので、法律の改正も含めてより良い制度にするために検討を続けなければなりません。

2.プロバイダ責任制限法の改正が検討されている

令和2年4月23日、総務省で「発信者情報開示の在り方に関する研究会」が開催されることが報道されました。発信者情報開示の対象となる情報の見直しや、手続を円滑にするための方策の検討などが行われます(「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の開催)。

令和2年4月30日に開催された第1回の研究会では、発信者の特定を容易にするため、SMSアドレス(=携帯番号)を開示の対象として明記することなどが提案されています(資料1-3(清水弁護士資料)発信者情報開示に関する課題について)。SMSアドレスが開示の対象として明記されれば、匿名の誹謗中傷をした人を特定できる可能性が高まります

この研究会は配布資料も公開されていますので、気になる方はこちらも見てみてください。

インターネット上で匿名の誹謗中傷の被害を受ける人を少しでも多く助けられるように、どのような法律に変えるべきか私たちも一緒に考えていくことが大切です。

この研究会で検討されているのは、匿名の投稿者の特定に関するプロバイダ責任制限法です。特定した後にどうなるのかということは別の問題になります。現在のネット上の誹謗中傷の広がりを考えれば、「匿名でひどい誹謗中傷をする人を処罰するための法律」を作っていくことも必要でしょう。

3.ひとりで悩まずに気軽に弁護士に連絡してください

ネットで誹謗中傷を受けて相談に来る方の中には、一部の人が誹謗中傷をしているだけなのに、見えない世界からたくさんの人が自分のことを悪く言っていると思ってしまう人も多いです。
自分がネットで誹謗中傷を受けていることを見つけたら、とても不安な気持ちになると思いますが、まず深呼吸して冷静になってください。

大切なことは、ネットで誹謗中傷を受けてもひとりで悩んでどうしたらいいか分からないと慌てないことです。
誹謗中傷に対して何ができるのかいまどれくらい被害が広がっているのかなどをよく考えながら冷静に適切に対処すれば、事態は必ず収束させられます。

弁護士に相談すると高そうだから相談できないと思っている人は、法律事務所に電話して、「ネットで誹謗中傷を受けているのですが、30分相談すると法律相談料はいくらですか?」と聞いてみてください。それを聞くだけならタダです。ちょっと高いからやっぱり相談はやめておきます、と言っても弁護士は怒りませんので、気軽に連絡してみることをおすすめします。

誹謗中傷のあるネットのページに関して以下のうちできることを事前に準備してもらえると、相談がスムーズに進みますので覚えておいてください。
・ページのURLをコピーして保存しておく。
・ページのスクリーンショットを撮影しておく。
・ページをプリントしておく。
・ページをPDFで保存しておく。

ネットで誹謗中傷を受けていても、だいたいなんとかなります。
匿名の誹謗中傷を受けたらひとりで悩まずに気軽に弁護士に連絡をしてみてください。

            文責:弁護士斎藤悠貴(東京弁護士会所属)