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ブラオケ的民族音楽名曲名盤紹介 #2「トルクメンの音楽」

 民族音楽の名盤紹介第二弾は、2008年にSEVEN SEASから発売された『トルクメンの音楽』を紹介したい。トルクメニスタンの民族楽器や歌唱法を使った民族音楽が収録されており、独特のファルセットで歌うジャマール・サパロヴァの歌声や、アンナムラドフ・アンナセイイトによるドゥタールの高い演奏技術など、聴き応えのあるアルバムとなっている。特に、ジャマールのファルセットは、どんだけ強靭な喉を持っているのだろうと感心してしまう。一度聴いたら確実に耳に残る歌唱力は、まさに必聴である。

 さて、そもそも何故私がトルクメニスタンの民族音楽に興味を持ったのか。それは、本CDを買った当時、世界のメディアによる報道の自由度ランキングで、トルクメニスタンが世界ワースト2位だったことに由来する。1位はエリトリアで、3位は北朝鮮。このような報道規制が強いトルクメニスタンでは、どのような民族音楽が潜んでいるのか非常に興味があった。また、何かの番組でトルクメニスタンを特集していた際、学校や病院が無償であることや、家を建てるのも無償であることを報じており、独裁国家でありながら、当時の大統領であるグルバングル・ベルディムハメドフ大統領に対する国民の崇拝の様子などを見ると、どうしてもトルクメニスタンを深く知りたいと思わざるを得なかったのだ。そんな中、民族音楽のCDを出版しているレーベルのCDを探していると、たまたま本CDが目に留まり、恰も必然かの如く購入したのが最初のトルクメニスタンの民族音楽との出会いである。本CDは2枚組となっており、1枚目は器楽編、2枚目は歌唱編となっている。

  ※1枚目:器楽編
1. 月のような娘
2. 長い巻き毛
3. 私には友がいない
4. ノブグル
5. ノヴァイ
6. ベグレル
7. サッラナ
8. サルティクラル
9. 絶望
10. 金色の帽子
11. 老いたサイティク人
12. グィズィル・インジク
13. ハジィゴラク

  ※2枚目:歌唱編
1. ジャニミ・ジャナナシ
2. イズラマ
3. ガシュリ・ヤル
4. ズルプン・セニン
5. ハイト・イイカン
6. 美しい花嫁
7. ザリ・ビレン
8. 裏切り
9. 来た、行った
10. 君は僕の美しい人
11. 象牙の櫛
12. アマン・アマン
13. お金がなくては生きられない

 題名を見てわかる通り、『私には友がいない』『お金がなくては生きられない』あたりは、非常にネガティブなメッセージを曲名としてストレートに伝えており、日本の作品ではあまり見られない曲名である。トルクメニスタンの音楽は叙事詩の一節を表現したものが多く、中でも英雄や恋愛を扱ったものが多いため、それ故にこのような曲名が付けられていると考えられる。

 ところで、トルクメニスタンがある中央アジアの音楽文化は大きく2つに分けられる。ウズベキスタンやタジキスタンのような微分音(半音よりも小さい音程)を使う西アジアの文化、カザフスタンやキルギスのような打楽器を殆ど使わないことやロングリュートのポリフォニックな演奏法をする遊牧民の文化があり、トルクメニスタンはその中間的な性格となっているらしい。正直なところ、実際にそれぞれの地域の音楽と聴き比べしないと良く分からないが、本CDに収録されている作品においては、基本的にドゥタールの演奏から始まるケースが多く、ドゥタールが2本の弦からなる楽器であるせいか、同じような和音で始まることが多い。最初の数秒を聴いただけだと、どれがどの曲かが全く分からないため、イントロクイズをやったら正答率は極めて低いだろう。一方、息を止めてスタッカートにしたような独特の歌唱法においては、例えば2枚目の『ハイト・イイカン』あたりを聴けば分かりやすい。そもそも技術的にどうやったらこのような発声が出来るのかが謎ではあるが、時々咳払いしている音も聞こえてくるため、やはり喉に対する負担は大きいのだと想定される。また、全体として、不規則なリズムであることが多く、演奏者同士が互いにアンサンブルしながら展開していく様は非常に趣深い。YouTubeのURLを下に貼ったので、是非これを機に、トルクメニスタンの民族音楽に興味を持って頂けたら幸いである。

Disk 1:

Disk 2:

(文:マエストロ)

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