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ブラオケ的ジャズ名曲名盤紹介 ~これを聴け~       #3 New Orleans 〜Dirty Dozen Brass Band,Dixieland JazzとSecond line〜

0.はじめに

今回は東京から飛行機で約13時間、アメリカルイジアナ州にあるニューオーリンズについて特集する。
「え?曲じゃなくて街?旅行記ですか?」と思った貴方、説明のためにもう少しお時間を頂きたい。
このニューオーリンズという街は音楽、とりわけジャズと縁が深く、この街で発展していった音楽が、今日我々が親しんでいるジャズ、R&B、ファンクなどのルーツになっている。

残念ながら筆者もまだニューオーリンズの地に降り立ったことがない。(死ぬまでに一度は行く場所と決めている)
その地の音楽を共有することで、昨今なかなか海外に行けない情勢であったとしても旅に出たような気分転換になれば幸いである。

さあ、気持ちだけでも日本を飛び出し、古き良き音楽の旅に出発だ。

1.ニューオーリンズのジャズについて

ニューオーリンズでのジャズの歴史は長い。
元々は1900年代、黒人音楽とトランペット(コルネット)、トロンボーン、クラリネットなどの楽器が合わさるような形式で始まった。

ここで参考になる動画を一つ。

日本でも『聖者の行進』として有名な"When the Saints Go Marching In"の演奏である。
この演奏にはエレキギターも加わっているが、トロンボーン、クラリネット、小型のドラムセットというわりとシンプルな編成。

吹奏楽やクラシックに親しみの多い方だと、クラリネットの音色にはびっくりしてしまうかもしれない。とても明るい音色、ビブラートやベンドも多用している。
私個人としては、この音色はクラリネットを使って「歌う」と出来上がるものなのではないかと思っている。クラシックや吹奏楽で用いられる、管楽器の音色をより豊かにして「歌う」という意味合いではなく、マイクを使って人間の声として「歌う」に近い。マイクに向かってではなく、クラリネットに向かって歌ってみたら、こんな音色になるなぁと感じている。この音色が好きか嫌いかは貴方の感性にお任せするが、こんな音色も「アリ」であることは忘れないでいただきたい。
テーマ、アドリブの後の彼女の「歌」パートを聴くとそのニュアンスの近さがわかるのではないか。
各パートのワクワクする、ソウルフルな演奏を楽しんで頂きたい。


2.今回の一枚〜Dirty Dozen Brass Band〜 

“My Feet can‘t fail me now”(1984)

さて、今回紹介するアーティストはそんなルイジアナ州ニューオーリンズのブラスバンド、Dirty Dozen Brass Bandである。
1977年に結成されて以降、メンバーを交代しながらもブラスバンドとして伝統的なニューオーリンズジャズにファンクやソウルといった様々なジャンルを掛け合わせた音楽を生み出している。

1枚目に紹介する"My Feet Can't Fail Me Now"を初めて聴いたのは高校生の頃。
マーチングで行進する時にスーザフォンの演奏を目の当たりにしていたが、このアルバムを聴いた時、ゴリゴリのベースラインをスーザフォンの演奏で行っているのを聴いて、「え!?同じスーザフォンでここまで違うの!?」と驚きを隠せなかった。
吹奏楽とブラスバンドは違うと初めて身をもって体感した瞬間である。
ここまでグルーヴするベースラインを人間の息でやってのける、まさに「バケモノ級の」肺活量の持ち主である。

Roger Lweisのバリトンサックスの支えもかっこいい。ソロでフロントに回ってくるとフレージングもこれまたかっこいい。

チューバプレイヤーや低音楽器が好きな貴方にもぜひお勧めしたい一枚である。

"Twenty Dozen"(2012)


"Twenty Dozen"には上の動画で紹介した"When the Saints Go Marching In"が収録されている。この曲のベースラインとアドリブは、バリトンサックス。筆者的にはかっこよすぎて気絶するレベルの演奏である。
このアルバムは色々なジャンルの演奏が多いので、単純に聴きとおすだけでも面白いなと思う一枚である。

3.Second Lineについて

最後にニューオーリンズの音楽文化を語るうえで欠かせない「セカンド・ライン」についてご紹介しておく。
ジャズはライブハウスや喫茶店、バーだけのものではない。文化圏によっては葬儀の場でも演奏される。

ニューオーリンズの典型的なジャズ葬では、重々しい葬送歌や賛美歌を演奏するブラスバンドと共に、故人の遺族や友人、関係者が葬儀場から墓地まで棺を運んでパレードする。埋葬を終えた後の帰路のパレードでは、ブラスバンドは賑やかで活気のある曲を演奏する。多くの場合、スウィング感のある賛美歌やスピリチュアルな曲から始まり、パレードが進むにつれ、ポピュラーでホットな曲へと移り、盛り上がって行く。墓場までの重々しい演奏が故人を悼むためのものであるのに対し、帰路の演奏の明るさには、魂が解放されて天国へ行くことを祝う意味が込められているとされる。

このブラスバンドの帰路の演奏を楽しむ目的で、ファースト・ラインに続いて街を練り歩く人々がセカンド・ラインである。その多くは音楽に魅せられた通行人や地元の住民などであるが、ミュージシャンの葬儀などの場合、故人のファンが加わることもある。彼らは、音楽に合わせて踊り、ハンカチを振り、色とりどりの傘を掲げてパレードを盛り上げる。セカンド・ライン・パレードへの参加者は、セカンド・ライナーズなどとも呼ばれる。
(Wikipedia 「セカンドライン」より引用)

参考になる動画も載せておく。

ご覧いただいた通り、帰路はダンスに演奏にと華やかな葬列になっている。この点は、日本の仏式の葬儀のしめやかさとは対照的である。
リズムは誰かが指揮を執るわけでもなく、各々のリズム感が徐々に一つとなって大きなグルーヴを生み出している。
もちろん、譜面を見ながら演奏するというわけでもないので、メロディーラインだけわかっていれば、メロディーを演奏するも良し、ハーモニーに回るも良し、合いの手に徹するのも良し、アドリブを挟むのも良しである。今日まで続くジャズ的な要素が多く含まれる。
では、リズムは全てスウィングジャズかと言われるとそうでもない。行進中のリズムは極めてファンキーである。ルールに縛られることなく、各人の思い思いの演奏で楽しむ、ダンスで楽しむ、一緒に歩くというのは、音楽そのものの持つ力なのではないだろうか。
このように華やかに送り出すことで故人を偲ぶというのも、悲しみの忘れ方の一つなのかもしれない。

4.おわりに

今回はニューオーリンズという一つの街から、ジャズと音楽文化そのものについて触れてみた。
もちろん単純に聴いて楽しむのも充分良いが、たまにはこうして寄り道をしながら、歴史的なルーツや他国の文化を見てみるという「旅」を楽しんでみるのも音楽の楽しみ方の一つなのかもしれない。
スマホやタブレットで家から楽しめる「旅」はいかがであっただろうか。今回同行して頂いた貴方の音楽の「旅」の楽しみ方があれば、ぜひ私にも教えてもらいたい。

(文:もっちー)

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