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INTERVIEW:長谷川逸子「音のきづき」

「音のきづき」 建築家長谷川逸子
日本がバブルだった1990年にイタリア半島を横断する旅行をした。その頃日本人の集団旅行者をたくさん見た。確かバチカンの美術館だった。入り口のドアの横に日本人の団体入館お断りの紙が貼られていてびっくりしたことを思い出す。集団の会話は声が高く大きくなる。そのことをたくさんのアジアの人々が日本に旅行に来ている頃、ホテルのロビーなどで耳を塞いだことを思い出す。
日本の建築材料は室内で吸音率が高いが、外部は金属やガラスで反射音が強い。イタリアなどの室内の壁や床に石材をよく使用する国の人々は、声が建物に反響する体験から静かに話す人が多いように思う。都市がつくられてきた歴史の中で、その国の建築材料は選ばれてきた。かつては日本の民家はとくに土や木、草などの吸音性の強い素材でつくってきたので、静けさが漂っていた。しかし工業化で室内に工場生産品が増えると外部はガラスとコンクリート板になる。グローバル化の時代を迎え、東京だけでなく地方都市も車や電車、そして建築現場や催し物、宣伝カーの音が合体して騒音となって反射音が多く、複数の音に満ちた都市音をそれぞれの街でつくっている。今、コロナ禍にあって、車の音、現場の音、イベントの音などの都市の音は半減している。コンクリートの壁と床の建物の中では、人は大声で話すことを知った。六本木のギャラリーを訪れた時、大声の高音で満たされていた。空間にスピーカーから自然音、風の音、水の音、鳥の音、虫の声などを流すと突然に静かで上品な声になり、みな優しい顔になった実験に立ち会ったことがあった。自然音を聞くだけで、音空間が一変するのを体験して以来、都市の音、建築の音に敏感になっていた。
関西国際空港の中に子供たちが過ごす場所をつくった時、自然の要素を拾い上げ、壁の中に何台ものビデオを掲げ、同時に自然音とピアノの音を混ぜて流した時、泣いたり暴れたりしない優しい子供たちの振る舞いに感激をした。
沼津駅北口にある県施設と市施設、ホテルが集まる複合建築は、国鉄に沿った東西に横長の敷地にあり、複合施設をつなげるように長いロビーやホワイエがある。それはコンベンションやギャラリー、展示場のロビーとなっている。展示場の2階部分の広い部分をステューデントロビーとした。高校生が駅の広場に座り込んでいるのを見て、学生達のロビーをつくった。そこにも自然音を流しているので、とても大勢いるとは見えないほど静かに学習している。この場所でも閉館時間を知らせるために自然音を切ると、突然高校生達の大声でいっぱいになる。ハードな材料で建築をつくるイタリアをはじめとするヨーロッパやアメリカでは、近年吸音材が開発されて、これまで日本では、土壁や土間などの自然材が民家には使われてきたが、今日では公共空間、特に劇場やコンサートホールをつくる時は発泡スチロールなどの吸音材の上に布を張ったり穴開きボードを重ねて吸音壁をつくったりする方法をとっている。

私は、都市空間の中で人々が静かに穏やかに話し、そして上品に振る舞うことを改めて実現させたい。音と人の振る舞いについての体験を通して音に敏感になり、人々は異なる六つの空間で静けさを体験する。そして音に気づいていく。
本プロジェクトでは、アメリカのARKTURA LLC社の吸音材で音の林を内部につくり、日本の太陽工業の吸音幕を使ってパオ空間をつくる予定だ。この二つの方法で静けさをつくり、音に敏感に気づいてもらう場となるだろう。

人間の感性、感情について実験する場をアートと感情、あるいはアートとパフォーマンスについて知る場を通し、音に気づいてゆく。

長谷川逸子のプロジェクトはこちら
https://tb2020.jp/project/awareness-of-the-sound/

cover photo 《音のきづき》2019


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