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アプリコット伯爵

『テリンㇴはアプリコット伯爵についてどれくらい知ってるの?』
夕暮れの柔らかい陽が差し込む部屋の中
窓際に座ったゴーダは何時ものようにテリンㇴに問いかける
ゴーダは質問をしている時、別の世界を見るように目線が宙を彷徨い続ける

『アプリコット伯爵は公園で子供たちに瓶詰のアプリコットを投げるんだ。でも、誰もそれを受け取らない。誰も彼に優しくしないんだ。
僕はそれがとっても良くない行いだと思ってるんだけど、みんなははそう思わないみたいなんだ。』
陽の光がゴーダに暗い影を落とす。
『ゴーダは受け取ってあげてるの?』
テリンㇴがゴーダに問いかける

『僕はまだアプリコット伯爵に会ったことが無いんだ。伯爵は探しても見つからないんだよ。彼に会いたいと求め続けてる間はきっと彼に会うことは出来ないんだ。求めるのを辞めれた時にアプリコット伯爵は僕の前に現れるんだと思う。』
窓の外を電車が走り抜けていく。ゴーダは黙って電車を見送りまた話を続ける

『僕はいつかアプリコット伯爵に会うことができたらアプリコットを受け取るんだ。だってね、そうしないとアプリコット伯爵は死ぬことができないんだよ。誰かが彼のアプリコットを受け取ってあげて初めて彼は救われるんだ。伯爵はずっと人々に救いを求めているのに、誰も手を差し伸べない。
誰も優しくないんだよ。見て見ぬ振りさ。』
ゴーダは今にも泣きだしそうだ
『アプリコットを受け取ったら伯爵は死んでしまうの?それじゃあ、ゴーダが伯爵を殺す事になってしまうじゃない。』
テリンㇴはゴーダに問いかける

『そうだよ。僕は彼を殺すよ。でもそれで彼が救われるんだから、僕は迷わずアプリコットを受け取るよ。僕は誰かのために何かをしたいから』

2本目の電車が通過するのを見送ると、ゴーダは瓶詰のアプリコットを一つ口の中に放り込んだ。


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