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食の未来は革新的なテクノロジーの中にある

「東京ベイeSGパートナー」が
食の祭典「Tokyo Tokyo Delicious Museum」に出展


最先端技術で持続可能な新たな価値を生む「SusHi Tech Tokyo」

 いま東京都が発信している「Sustainable High City Tech Tokyo=SusHi Tech Tokyo」は、最先端技術や多彩なアイデア、デジタルノウハウによって世界の都市に共通する課題を解決し、「持続可能な新しい価値」を生み出そうという未来を見据えたコンセプトです。

 5月に江東区有明で開催された食のフェスティバル「Tokyo Tokyo Delicious Museum」(2023年5月19~21日)でその一端が披露されました。東京を代表する多彩な飲食店が数多く出店したこの食の祭典に、東京都も「SusHi Tech Tokyo」を全面に押し出したブースを出展。「SusHi Tech Tokyo」のコンセプトに賛同した「東京ベイeSGパートナー」が、フード(食)とテック(技術)をテーマにした技術や商品の展示・販売を行いました。


世界産先端の3Dフードプリンターが寿司ネタを作る?

 多くの有名飲食店が出店する中でひときわ目を引いたのが、世界最先端の3Dフードプリンターで再現された「すし」でした。これは、3Dフードプリンターの研究のトップリーダーである古川英光教授が率いる山形大学工学部ソフト&ウェットマター工学研究室「SWEL」が研究開発した最先端技術です。

3Dフードプリンター(スクリュー方式)で「タコ」を作成する様子

 この3Dフードプリンター(スクリュー方式)は、魚のすり身や魚介の粉などの素材を使って好きな形の寿司ネタを作ることができます。今回の出展では「タコ」を作成するところを実演しました。

3Dフードプリンター(バスタブ方式)

 こちらのバスタブ方式の3Dフードプリンターでは、バスタブの中に液体状のやわらかい素材を詰め、作りたい形にレーザーを照射して硬化させることで、食品を造形します。

3Dフードプリンターで作成した「すし」

 これらの3Dフードプリンターを使って、まるで本物のような「すし」を作ることができます。もちろん、原料はすべて食材なので、食べることができます。
 3Dフードプリンターでは、魚介の粉などを使うことで長期保存が可能になるほか、捨てられるはずだった野菜クズなども活用できるため、フードロス削減にもつながります。飲食店のみならず、介護・医療分野での導入など、その可能性は無限大です。

 「介護や医療の現場で生の魚介類を提供できない方にも、3Dフードプリンターでは生ではない素材を使って寿司の形と味に近づけた食べ物を作ることができます。従来の『できない』を『できる』に変え、既存のルールの変更をもたらす新技術といえます」と古川教授は説明します。「環境技術というとエネルギー分野や温室効果ガス削減などの気候変動対策の分野がイメージされると思いますが、食の分野でも技術革新による可能性が大きく広がっています。今回、「Tokyo Tokyo Delicious Museum」に出展して、東京はまさに食の宝庫だと実感しました。多種多様な飲食店や食品メーカーを巻き込みながら、最先端技術で東京発の食のイノベーションに貢献していければ」と古川教授は言います。今後、さまざまな斬新なアイデアの化学反応によって誰も見たことのないおどろきのメニューが生み出されるかもしれません。

来場者に説明する古川教授

 また、古川教授は「東京ベイeSGプロジェクト」の意義について、「産官学が連携しながら、志を同じくする同業他社や異業種と交流をもちお互いに問題提起をし合い議論することで、新たな共創の道すじを生むオープンイノベーションの場になることを期待しています」とも語っています。


廃棄されるはずの素材が高付加価値のクラフトビールに

 「SusHi Tech Tokyo」のブースでは、もう一つの目玉として「アップサイクルビール」も販売されていました。アップサイクルとは、本来であれば廃棄されてしまう素材を活用して付加価値を生み、新たな商品として世に送り出すもので、近年、服飾業界や食品業界を中心に広がりつつあるサステナブルな製造のあり方です。

「アップサイクルビール」を販売する株式会社Beer the First

 日本各地で廃棄予定だった食材や生産過程で生じる端材をクラフトビールにアップサイクルさせる事業に取り組む、株式会社Beer the Firstが手掛けるのは、どれもユニークな商品ばかり。ビール作りに使用する麦芽の20%を廃棄予定の東京都の災害備蓄品のアルファ米で代用したビールや、浅草の製麺所で廃棄される麺の切れ端を活用し、醤油ラーメンと相性が良いように副原料に海苔を使ったビールなど、アップサイクルの手法を取り入れながら新たなクラフトビールの可能性に挑戦しています。
 Beer the First代表の坂本錦一さんは、「私は以前、食品関連の商社や卸業界で仕事をしていたのですが、全国の食品メーカーや農家を訪ねる中で、市場に出回らずに廃棄されてしまう食材や農作物が多くあることを知り、何かできないかと考えました。もともとクラフトビールが好きだったこともあり、あらゆる素材をアップサイクルできるクラフトビールの特性に着目して、廃棄素材を活用したクラフトビールづくりのための会社を2021年に設立しました。自治体や企業との多様なコラボレーションによって、これまでにないクラフトビール作りを目指しています」と語ります。今回の出展により、「私たちの活動を広く認知してもらい、ファンになってもらうきっかけ作りができました」と確かな手応えを感じられたようです。「環境対策というと堅く捉えられがちですが、ビールであればみんなで楽しく味わいながら結果的に環境やフードロスの問題を考えるいい入口になるのではないでしょうか。今後も、東京ベイeSGパートナーとの交流を深めながら、新たな商品開発やビジネスチャンスにつなげたいですね」(坂本さん)

ラーメンの麺の端材を使用し、醤油ラーメンと相性の良い海苔を
アクセントに用いた 「華麺舞踏会」
廃棄予定だったカンパンを使用した「Brown Thumb Kanpan」(写真右)と、
アルファ米を使用した「White Thumb Rice」(写真左)


 いま、フードとテクノロジーが融合したフードテックは、最先端技術とイノベーションのアイデアによって食の可能性を拡げようとしており、「SusHi Tech Tokyo」のブースで、その可能性を体感することができました。今後、フードテックは、食の未来をどう変えていくのか。「SusHi Tech Tokyo」と「東京ベイeSGパートナー」の今後の拡がりに期待が高まります。

(文:さくらい伸)