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シッカート『切り裂きジャックの寝室』〜ある事件にまつわる絵画

中野京子著の「怖い絵」でも取り上げられているウォルター・シッカートの『切り裂きジャックの寝室』。彼は、スーラ、シニャックと同世代のドイツ出身の画家でした。ホイッスラーのアシスタントを務めつつ、ドガの影響も受けます。ロイヤル・アカデミーの保守的な運営に反対するために創立されたニュー・イングリッシュ・アート・クラブにも参加します。シッカートの作風が変化し始めたのは、彼が自身のアトリエをカムデン・タウンに移した頃。その時期に「カムデン・タウン殺人事件」と呼ばれる猟奇殺人が発生します。事件後、シッカートは『カムデン・タウンの殺人』という作品を発表しました。この絵には、裸の女性が横たわったベッドの横に男性が座り、絶望的な姿勢でうつむいている様子が描かれており、この絵は事件を連想させる要素を含んでいたため、この作品は論争の的となりました。

ウォルター・シッカート『カムデン・タウンの殺人』

シッカートの名前が再び知られるようになったのは、彼が亡くなって17年が経った後。ロンドンのイーストエンドで発生した連続殺人事件、いわゆる「切り裂きジャック事件」の容疑者としてシッカートの名前が浮上しました。この事件は世界初のシリアルキラーとしても知られており、シッカート自身も生前からこの事件に強い関心を抱いていました。彼は「ジャックがかつて住んでいた」という噂を聞き、その部屋を借りてまで、『切り裂きジャックの寝室』という作品を残しています。作品は、手前のピンクのベッド越しに奥に見える鏡台で、この絵には人が登場しませんが、殺人鬼の帰りを待つ不穏な寝室が描かれています。この作品は後世においても彼の関与を示唆するものとして注目を浴びることとなります。

ウォルター・シッカート『切り裂きジャックの寝室』

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