ドラローシュ『ジェーン・グレイの処刑』〜世代を超えて人々を引きつける力とは?
『ジェーン・グレイの処刑』は、1553年7月10日にイングランド女王に即位し、わずか9日後に廃位され、1554年に処刑されたジェーン・グレイの死の直前の瞬間を、フランスの画家ポール・ドラローシュが描きました。治世が非常に短かったため、ジェーンは「九日間の女王」とも呼ばれています。ジェーンの後に王位に就いたメアリーは、プロテスタント信者であったジェーンに対し、カトリックに改宗すれば命を助けると提案しましたが、ジェーンは毅然として改宗を拒み、死を選んだと伝えられています。
1834年にパリのサロンで初めて展示されたとき、この絵は非常に人気を得ました。この作品は元々、デミドフ・コレクションの一部として、ロシアの実業家アナトーリー・デミドフが購入しました。その後、1870年にイギリスの実業家ヘンリー・イートンの手に渡り、最終的に、1902年にロンドンのナショナル・ギャラリーに遺贈されることとなります。
1928年のテムズ川の洪水でテート・ギャラリーが壊滅的な被害を受けた際にこの作品も破壊されたと考えられていましたが、1973年にキュレーターのクリストファー・ジョンストンが、洪水で損傷したキャンバスを調査していた際に、幸いにもは良好な状態でこの絵を見つけました。
1834年の発表後、数十年間にわたり絶大な人気を誇っていましたが、20世紀に入ると写実主義の歴史画の評価が低下します。1975年に、洪水での損傷が修復され再び展示されると、再び注目を集め始め、特に若い世代の観客に人気を博すことになりました。その後、2017年に開催された「怖い絵」展で初来日を果たします。
ドラローシュは、約300年前の出来事を題材に、当時の歴史資料を参考にして、目隠しをされたジェーンが処刑台に頭を置こうとしている瞬間を描きました。ジェーンは不安げに手を伸ばして台を探し、彼女を手助けするチャンドス男爵(ドラローシュの絵では聖職者のように描かれています)。ジェーンがロンドン塔に幽閉されている間、彼女には侍女たちが付き添っており、その中の一人はジェーンが幼い頃の乳母でした。二人の侍女の表情は、これから起こる悲劇に対する深い悲しみを表現しています。
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