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ロダン『カレーの市民』〜像は高くおくべきか、低くおくべきか。

1346年、イングランド王エドワード3世はクレシーの戦いで勝利し、カレーを包囲しました。飢餓のため、市は降伏を余儀なくされました。エドワードは、6人の指導者が投降すれば市民を助けると約束しました。最も裕福な市の指導者であるウスタシュ・ド・サンピエールが最初に志願し、他の5人の市民が続きました。サンピエールはこの5人を市の門まで率いていきました。

処刑されると思っていた6人でしたが、イングランド王妃フィリッパは、市民たちの死は妊娠中の胎児に悪い前兆だと主張して夫を説得し、彼らに慈悲を与え6人の命を助けました。

フランスの彫刻家、オーギュスト・ロダンは、6人のモニュメント制作を公共機関から依頼されました。ロダンは、投降の瞬間を、敗北、英雄的な自己犠牲、そして差し迫る死が入り混じった痛ましい光景の彫刻を完成させます。

オーギュスト・ロダン『カレーの市民』1884-88年(原型)、1953年(鋳造)国立西洋美術館蔵

ロダンの作品には、公共彫刻に不可欠な「あからさまに英雄的な古代からのお約束」が欠けていました。ピラミッド型の配置や寓意的な人物像も含まれていないこと、6人の市民たちは栄光的なイメージで表現されず、「痛み、苦悩、宿命論」を表現されていたこと、台座ではなく地面に置くことが意図されていたこと。ただ、ロダンにとってこれこそが自己犠牲の英雄的行為でした。英雄的な身振りを期待していた市当局はロダンの感動的な人間像を理解できずにこれを拒否しました。像を台座に置くかどうかも議論された結果、カレー市で除幕式が行われたのは、完成から7年後のことでした。当日は、ロダンとの意図に反し、作品は約2メートルの台座に載せられていました。

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