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2023年見てよかった展覧会・作品

今年みてよかった展覧会(11展)と作品(9展)をあげてみました。個人的には、いかに印象的だったかがポイントで、イラストレーターだったり、漫画家だったり、現代アートだったりそっち系に好みが移っている感はあります。パンデミックも落ち着き、入場料も少し高めに落ち着いてはいますが、高めになったからこそ、行っておいた方がよい展覧会にいけてるのかなとも思ったりします。当時のSNS(寄稿記事)も一緒につけています。文章は少し改変していたりします。特に順位はつけませんが、よろしければ、お付き合いを。。


よかった展覧会

野又 穫 Continuum 想像の語彙@東京オペラシティ アートギャラリー

東京オペラシティの常設展というかコレクション展示があるのですが、ここでときどき見られる野又穫の作品が好きだったりします。彼のコレクションを一番所蔵してるオペラシティならではの展覧会。ほぼ無人の建築物の絵ばかり描いているのですが、彼は実は建築家でもなく、もともと広告代理店のアートディレクターが本職。昔やっていた実際には作られなかったアンビルドな建築を集めたインポッシブル・アーキテクチャー展を思い出しました。ありそうでない。細かく作られたハシゴとか、階段、入り口、壁に残った傷。リアルはあくまでもぽくで止まり、ノスタルジックな感覚に陥らせてくれます。そんな作品が会場いっぱいを埋め尽くす展覧会でした。気になる方は、東京オペラシティのコレクション展をチェックしてみてください。

デイヴィッド・ホックニー展@東京都現代美術館

初期から現在まで、カラフルというのは割と一貫しているのですが、パンデミック中、窓辺の風景をiPadで描いた動画作品は、描かれて行く過程がわかり、ホックニーの画力の高さが伺えます。はたまた、50枚組みの幅10メートル、高さ3.5メートルの油彩画《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》に圧倒されたり、春夏秋冬を描いた全長90メートルの大作《ノルマンディーの12か月》の、湖面の反射、川の流れなどの描写も秀逸。近くでみると雑なのだが、少し離れて見るとそれっぽくみえるベラスケスのよう。さらにキュビズム的多視点の写真の発展系なのか、バラバラに9分割された動画を一つの作品にしてる発想も面白い。86歳を過ぎて、活動の幅がさらに広がっている未だ現在進行形なんだと思った帰り道でした。

⽇下明作品展「何処かへの切符」@銀座蔦屋書店

インスタで見かけて好きになった画家です。夜、夜空、月、猫などがモチーフとして使われていて、無国籍かつノスタルジックな絵はどこかに連れていってくれそうな感じの絵が多いです。宮澤賢治童話集の挿絵も担当されているみたいで、ファンタジーな画風はぴったりかと思いました。もし自分がカフェ開くとしたら、ぜったいこの作家さんの絵を並べたいって思います。個展が開かれていたのは、銀座蔦屋書店の一角。ここは販売も兼ねているので、実際にジークレー版画を初めて購入してみました。まだ届いてませんが、玄関に飾る予定です。2024年が楽しみです。

中村直人 モニュメンタル/オリエンタル@目黒区美術館

正直ノーマークでした。中村直人は「なかむら・なおんど」と読みます。日本である程度、画家として名前が知られるようになった後、近所に住んでいた藤田嗣治の勧めもあり、まったく未知であった渡仏し、グアッシュ作品でパリでも名声をあげていきました。主には人物画なのですが、赤色や緑で塗った肌や、そのオリエンタルな描写が特徴的、さらにクシャクシャにした紙の上にグアッシュを塗り重ねて独特の質感といい、ほかではちょっと見られない絵を描く画家です。いままでの見慣れたアカデミックな絵からするとかなり新鮮な気がしました。ぐるっとパスで無料なのですが、こんなよい展覧会を見られるきっかけとなったぐるっとパスに感謝です。

『わたしの#stayhome日記』2020-2023展@町田市民文学館ことばらんど

漫画家・今日マチ子の『わたしの#stayhome日記』2020-2023展刊行記念展。#stayhomeって言葉も、すでに少し懐かしくなってきましたが、本の内容はパンデミック中に、日常を漫画に描き留め、連日、SNSに発信していた3年間の作品が1年ごとにそれぞれ3冊に分け刊行されました。1冊ずつ刊行された本も、まさか3冊まで続くとは思わず当時は作品を描いていたようです。SNS世代の随筆作家という感じです。展示会会場では、いつまで続くかわからないパンデミックな毎日を日常のシーンとともに、少しずつ日常を取り戻している3年間を振り返ることができました。その他、「百人一首ノート」などの原画。東日本震災後に制作された「みつあみの神様」の動画パート(28分)。展覧会以来、kindleで少しずつ読みあさってますが、その幅広さを感じながら読んだりしてます。

木島櫻谷 ― 山水夢中@泉屋博古館東京

泉屋博古館東京で開館以来の入場者だった前回の回顧展。その時は、代表作である《寒月》などを含め、主に動物や花鳥図の展示だったのですが、今回は山水画。もちろん代表作である《寒月》も見られました。が、この人は動物画だけでなく、風景画もスキがないということがわかる展覧会でした。《渡頭の夕暮》の葦の表現がヤバいです。動物の毛並みを描く時も尋常でない線の多さなのですが、この葦もそう。一本一本手を抜くことがないです。博古館の公式インスタでもそのことがおすすめポイントという発信があって、ニンマリ。あと、万壑烟霧(ばんがくえんむ)の雄大さに圧倒されます。横10メートルと大きな絵なのですが、表現が緻密。これは、特に今回の作品全体に言えることかもしれません。《峡中の秋》も靄(もや)と河川を白く残すメリハリもさすがわかってらっしゃる、見る人の心を鷲掴みにする描写だなって、文字通り掛け値なしの眼福の展覧会だったと思います。

クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ@東京都現代美術館

現在まで一線で続く、クリスチャン・ディオールのブランドの流れを俯瞰していく展覧会。そんなに東京都現代美術館って行っている方ではないと思うのですが、今回思ったのは、同じ会場とは思えないほど、セクションごとで工夫を凝らした展示。特に2階分をぶち抜きで使ったインスタレーション。とにかく、会場のどこも映えスポットが多かったです。クリスチャン以降、6人のデザイナーが担当をしているわけですが、彼(女)らのデザインをどうみせるかも展示のポイント。それぞれ違いが出ていましたが、クリスチャンの生前でその才能を見出されたイヴ・サン=ローランが一番エレガントさを引き継いでいると思いました。今年は、そのイヴ・サン=ローランの展覧会や、ジョン・ガリアーノのインスタレーションも開かれていて、ディオールの1年になりました。

A girl philosophyある少女の哲学 安珠写真展@シャネル・ネクサス・ホール

会場はシャネル・ネクサス・ホール。今回も暗い会場での映え展示。モデルから写真家に転身された安珠の個展。ある少女の哲学という少女を題材にして、いろいろな物語、不思議な国のアリス、青い鳥、幸福な王子、動物会議、ユニコーンなどをテキストと連動した写真でストーリーが展開しています。幸福な王子の物語のラストシーンのテキストと写真が、この上なくリンクしていてゾワってなりました。没入感が高い構成でした。女性の誰もが経験するであろう少女という時代。その時代を女性写真家という目線でストーリーを追いながら写真に焼きつけた写真展。ガブリエル・シャネル曰く、「少女こそ鷹の目とライオンの勇敢さを持っているのです」。後述の江口寿史の「彼女展」における「彼女」に通じるところがあるのかもしれません。

佐伯祐三-自画像としての風景@東京ステーションギャラリー

藝大卒業後渡仏、ヴラマンクにディスられて、アカデミックから脱却。その後、帰国して東京、大阪の絵も残していますが、再度渡仏を果たします。彼のアトリエはパリ市街と言われるくらい、パリの街を描きまくります。まるで自分の短い寿命を知ってるかのように。ひと目で彼の絵と分かるくらい少し乱暴な線描だったり、踊ってる文字が特徴。「自画像としての風景」という展覧会のサブタイトルが物語るように、パリの街の絵が自体が自画像だったりするのかなとも思いました。東京ステーションギャラリーのレンガ造りの会場とも相性ぴったりですし、同じ会場で見た鴨居玲の命を削ってる感のある絵以来、同じ感銘を受けました。

江口寿史 彼女展@千葉県立美術館

今年は、『彼女展』、日比谷で開催された『東京彼女』。イタリア文化会館で行われた二人展『江口寿史×ルカ・ティエリ展』そして、2月まで開催中の世田谷文学館での『江口寿史展 ノット・コンプリーテッド』と主だったところだけでもこれだけ江口寿史の展覧会がありました。

順位をつけづらいのですが、イラストレーター 江口寿史の焦点をあてた『彼女展』を選びました。CDジャケットや雑誌の表紙、挿絵、ファミレスのメニューなどそのフィールドも幅広いです。本人曰く、「女の人のある時期の『無敵さ』をなんとか絵に定着したい。そう思いながら描いている」そういうふうに言われてみてみるとどれも女の子の「無敵さ」が感じられる絵だなって思いました。しかも、構えた構図ではなくスナップショット的な何気ないしぐさのイラストにそのあたりは垣間見れる気がしました。それはベラスケスが要人ではなく市井の人を描いている時の方がイキイキしているのと一緒かも。特にこのオーバーヘッドをかけてる女の子はいい。

さいたま国際芸術祭

さいたま国際芸術祭、現代アートチームの眼がディレクションを担当で話題になっていたかと思います。現在、使われていない旧市民会館おおみやを大々的に手を入れたプロジェクトになってました。 眼の広報の方が1時間ほど会場をガイドしていただき、そのまま通り過ぎてしまいそうなところの説明もしていただき、現代アートは裏側(コンセプト)を知らないとわかりみが半減だなって思いながら、広報さんに感謝です。大ホールの横に導線を作ってしまって、ステージの裏側から見られるようにしたり、さらには、本展の見どころのひとつでもあるスケーパー。風景という単語から眼が作った造語のようですが、人はもちろんモノも対象なので、会場にある怪しいモノは、全てスケーパーに見えてきます。 ふだん素通りしてしまうものを疑ってみてみる、そんなインスタレーションなんだなって思ったりしました。

よかった絵画・作品

《山本美香(五十歳代の佐藤和孝)》諏訪敦「眼窩裏の火事」@府中市美術館

超写実派で知られる諏訪敦の個展。肖像画の章にあった、ジャーナリスト佐藤和孝の肖像画。30代、40代の彼の連作があり、最後に並んでいたのは同じジャーナリストで、パートナーでもあった山本美香の肖像画。惜しくもシリア内戦の取材中に命を落としてしまうのですが、彼女の瞳には佐藤和孝の人影、絵のタイトルは、『山本美香(五十歳代の佐藤和孝)』。こういうゾワッとさせる物語を作れるのが、彼のすごいところ。あるものをそのまま描くのではなく、過去の亡き者を描いたり、あるものを描きながら、亡き者を影を映しとっていたり、写実絵画でありながら、内包されている物語を描いていく画家なのかと思いました。

《ホワイトウイングス》クロースアクトシアター@六本木アートナイト

久しぶりの六本木アート(オール)ナイトの開催。一番気になった公演が《ホワイトウイングス》。オランダを拠点とするパフォーマンスカンパニー、クロースアクトシアター。六本木ヒルズとミッドタウンで、計6回公演してくれたのですが、ミッドタウンの方だけ昼間と夜の公演をみました。竹馬?のようなものにのったパフォーマンスで、歌声ありドラム演奏あり、踊りありとファンタジーかつ迫力満点のパフォーマンスでした。毎年、このような海外招聘パフォーマンスはあるようなので、こういう分かりやすいアートパフォーマンス狙ってみるのはアリかと思いました。まずは動画を見た方が伝わります。

西島雄志個展「瑞祥 zui-shou ─ 時の連なり ─」@ポーラ ミュージアム アネックス

針金をウズ状に丸めて、そのパーツを使って想像上の動物やらを作っていきます。ここで紹介したいのは、《瑞祥 zui-shou》と呼ばれる鳳凰を表現しているのですが、ところどころのパーツしか作ってはおらず、途中を補完して動物の形を想像するもの、とは言え、恐竜の化石が一部しか見つからないが、その全体像は想像できるというのに発想は似てるかなと思いました。展示も大きく部屋を4つに区切り、それぞれに暗がりの演出が、いい具合に没入できました。

《ジャグラー》 - グレゴリー・バーサミアン@NTT InterCommunication Center [ICC]

少しずつずれているオブジェクトを高速で回転させ、それをストロボフラッシュを使って動いているように見せる、立体パラパラ漫画という感じでしょうか。小さいものでしたらよくみるのですが、高さが4メートルほどあって、原寸ほどのジャグリングする人間には圧倒されます。大きいのを回しているので、音も出ますし、大掛かりなところが見応えがありました。展示情報を見ると、期間は少し限定されるのですが、ほぼ毎年見ることができるアート作品のようです。

《オルタナティブポスターたち》ヒグチユウコ展 CIRCUS@森アーツセンターギャラリー

かわいい猫や、少しきもい動物で知られるヒグチユウコの個展でしたが、意外性が見られるのが、ずらりとオルタナティブポスターのセクション。オルタナティブポスターとは、映画公開時のメインポスターの代替ポスターで、メインのポスターより凝った表現手法で作られたポスターのこと。たしかに、構成が大胆や緻密な描写が、よりアーティスティックに仕上げられています。「IT」、「サスペリア」等ホラーが飾られていますが、インパクトがあるのは「悪魔の首飾り」の少女。ヒグチユウコが10代の頃に見た、エドガー・アラン・ポー原作のオムニバス映画「世にも怪奇な物語」の三話目に登場する幻影の少女がモチーフになっていて、以降のヒグチユウコが描く少女に影響を与えたそうです。

LUKE JERRAM《Museum of the Moon》ムーンアートナイト下北沢2023@下北線路街全域

2022年から始まったお月見アートイベント。月だったりうさぎだったり十五夜にあわせた作品が展示されていますが、LUKE JERRAMの月の実物はよかったです。街中に浮かぶ(実際は吊り下げられている)月は異様であり、月見にぴったりのアート作品ですね。その月の下で飲んだり食べたりするスペースもあるので、月見の宴を楽しめる空間にもなってました。

《長岡の花火》生誕100年 山下清展ー百年目の大回想@SOMPO美術館

見る前の印象としては、切り貼り絵でしょって。でも、実際に絵を見ないとわからないものですね。切り貼り絵と思えないくらい細かいです。特にこの絵は、『みんなが爆弾なんかつくらないで、きれいな花火ばかりつくっていたら、きっと戦争なんて起きなかったんだな』 この花火の絵はメッセージとともに国宝指定してあげたい。蔡國強も似たようなことをいってましたが、今みんなに見て欲しい絵でした。

白天花火《満天の桜が咲く日》「蔡國強 宇宙遊 – <原初 火球>から始まる」@国立新美術館

火薬のアーティストがどういった展覧会をやるのか気になってましたが、火薬の点火跡を使ったいわゆる火薬絵画、抽象画さながらの作品が並ぶ空間になってました。圧巻は、会場の奥で流れていた『いわきの昼間花火』の動画。ドローンや花火に接近した動画に見応えありました。

近いかなと思われる動画です。
https://www.youtube.com/live/I2uIi0GT8Qg?si=6fTcPUQpykiP4f9K

そもそも蔡國強が、なぜアートに花火を使うかの理由として、今までは戦争など人を傷つけるために使われていた火薬をアートに使えないかということで始めた火薬アート。宇宙も表現したり、火薬だけで、かなり奥が深い表現ができているのではないかなと思いました。

《SNSのスクロール画面》世の中を良くする不快のデザイン展 GOOD DESIGN Marunouchi

生活に関するデザインって切ってもきれないもので、丸の内にあるGOOD DESIGNでは生活に即したデザインをとりあげていて、ふだんはそんなに人が入っていないのですが、この不快のデザイン展は人が人を呼んで入場制限までおきてました。地震警告音が決して「快」ではない緊張感のある音だったり、ガスに匂いをつけてガス漏れを気づきやすいにしたり、踏切のカンカン音は、世の中で最も汚い音階とされる音程で作られていたりと不快であることで注意を引いたり、することにスポットを当てられたデザイン展の中で、印象に残ったのが、スマホのスクロール画面のデザイン。インスタでもXでも一緒なのですが、簡単にどんどんスクロールするには仕掛けがあって、『断続的強化による行動強化』。知りたい情報だけでなく、興味ない情報も流すことによって、SNSに夢中にさせるデザインのひとつだそうです。実際の実験結果に基づくデザインで、不快の必要性が体感できる結果でした。


皆さまのお気持ちは、チケット代、図録代とさせていただきます。