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イワン・クラムスコイ『忘れえぬ女』描かれた女性はいったい誰なのでしょうか。

『忘れえぬ女』は、イワン・クラムスコイによって描かれた、ロシアの絵画です。絵に描かれた女性は、「静かな佇まいと直視する瞳」を持ち、観る者に強い印象を与えます。

この絵は現在、ロシアで最も知られた作品の一つとされていますが、発表当時は内容に対して多くの批判が寄せられました。その理由の一つとして、絵が高慢で不道徳な女性を描いていると見なされたことが挙げられます。しかし、時間が経つにつれて人々の芸術に対する見方が変わり、今日では高い評価を受けています。

イワン・クラムスコイ『見知らぬ女』1883年 トレチャコフ美術館

クラムスコイはロシア実用芸術の革新者で、「美術家組合」創設者でした。官製美術に反抗し、写実主義と民族性を重んじ、代表作『荒野のイエス・キリスト』は、心理的深みと倫理的問題を探求します。肖像画では被写体の内面を鮮明に捉え、ロシア美術のリアリズム発展に貢献。彼の美術観は、画家の社会的役割と芸術の民主的志向を強調し、後世に大きな影響を与えました。

『忘れえぬ女』は、作品のモデルの正体を始めとして、多くの疑問残すこととなりました。

1883年のサンクトペテルブルクでは、女性が男性の同伴なしに公の場所へ行くことは、実質的に考えられないことであり、通常、父親や夫、兄弟などの男性家族が伴う必要がありました。一人で馬車に乗る若い女性の姿は、当時の社会規範や期待とは大きく異なるもので、クラムスコイがこのようなシーンを描いたことは、非常に革新的な行為とみなされました。

『見知らぬ女』が描くファッション、フランシススタイルの帽子に軽やかな羽飾り、極薄の革製「スウェーデン」手袋、セーブルファーと青いサテンリボンで装飾されたスコベレフコート、マフ、そしてゴールドブレスレットは、1880年代の最先端ファッションを反映していると同時に、着用者の社会的地位や個性を象徴しています。貴族階級において最新の流行を追うことは品がないと見なされていました。見方を変えると、『見知らぬ女』の服装は、彼女が社会的に上昇しようとする野心を持つ新興中産階級の女性であることかもしれませんし、貴族階級に属しながらも、伝統的な規範を意識的に破って自己表現を試みているとも考えられます。

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