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メイエルストルムあるいは落下の法則

緊急事態宣言が発出された翌日。

在宅勤務が板についてきたせいか、おだやかな晴天の朝、恒例となった買い物がてらの散歩を始めた。

朝方通勤というプロトコルをやめたせいもあって(というか、このところ乗り物に乗る頻度もガタンと減ったこともあって、近所の風景と、テレビニュースの中の繁華街の風景など、外界に触れる回数が少ないという環境にも慣れてきた。

もともとリモートワーク中心だったのが、ここ数年、オフィスワークの比重が上がったので、再順応ストレスを感じるぐらいだったのに、それが世の中の方が自分の働き方の方に近寄ってきてしまった。

メール、メッセンジャー、Zoom, Teamsなどを活用したリモートチームが稼働している。

繰り返しになりますが、この緊急事態を1か月で脱出するためには、人と人との接触を7割から8割削減することが前提です。これは並大抵のことではありません。これまでもテレワークの実施などをお願いしてまいりましたが、社会機能を維持するために必要な職種を除き、オフィスでの仕事は原則自宅で行うようにしていただきたいと思います。どうしても出勤が必要な場合も、ローテーションを組むなどによって出勤者の数を最低7割は減らす、時差出勤を行う、人との距離を十分に取るといった取組を実施いただけるよう、全ての事業者の皆様にお願いいたします。レストランなどの営業に当たっても、換気の徹底、お客さん同士の距離を確保するなどの対策をお願いします。


安倍首相の昨日の会見で、すすめるべきリモートワークの指針に少しでもなりそうだったフレーズである。それ以外は、ほとんど情報量がなかった。

しかし結局、僕たちの会社も、これをベースにして、オフィスへの出社率を、ローテーション等を使っていかに下げていくというゲームを始めた。

一番、リモート化しにくい部署も、例外なくトライアルをはじめている。

リモートワークが大多数になってくると、仕事がこれまでとまるで違ったものに変わっていく。面白い動きである。

しかし人の交通が減ることによる需要減の影響から無傷でいられるわけでもない。

感染症対策のリモートワークは、それで終わりになるわけではなく、需要が拡大しない世界で、生き残るためにはさらに生産性の改善が必須になる。

国のコロナ支援対策を最大限活用しながら、自分たちの働き方の仕組みを筋肉質に組みなおす努力が求められる。

エドガ・アラン・ポーに大渦にのまれてという短編がある。

ある船乗りが台風に出会い、船が難破し、大海に投げ出された。そして船も乗組員も、大渦に飲み込まれてしまった。しかし主人公は大渦の中で、冷静に、どのような形状のものが落ちる速度が速いのかを見きわめ、もっとも落下速度が遅い物体に身を任せることで、九死に一生を得るという話だ。

なんとなく、今の僕たちは、そんな努力をしているような気がしないでもない。メイエルストルムの渦の中で生き残りをかけて、まわりを必死で観察し、覚悟を決めて、エイヤっと一つの物体に運命を賭ける。

この物語は、ハッピーエンドというわけでもなかった。生き残りはしたけれど、主人公の髪の毛は一夜にして真っ白になっていたという結末だったような気がする。

なんとなく、やれやれという感じだ。

こんな日には、好きな曲を聞くに限ると、「辛子色のシャツ、追いながら」と始まる竹内まりあの「セプテンバー」を流している。

デジタルな要塞の中に閉じこもっているうちに、桜は散ってしまったし、今日始まったソフトな戒厳令下の世界では、梅雨も、夏も、無感動なままに過ぎ去ってしまうのかもしれない。

でも、そんな季節が過ぎ去った後にやってくるセプテンバーを爽やかな気分で迎えられたならどんなにいいだろう。



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