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南北相法(後篇/巻ノ四)

水野南北居士 著

《月割・日割の弁》

古書では血色のみの判断によって百日以内に善事が起こるとか、七日以内に悪事が起こるなどという事を論じているが、この論は未だにその理屈を説明しきれていないゆえ、採用する事は出来ない。そもそも人は天地と同体であり、気血は天地を運行する気に従って順行するものである。しかし、そうは言っても、天地には予測不能な変化がある。つまり、気候にはどうにも出来ない不順があり、人体の血色もその時々に従って変化するものである。そうであれば、どうして一時的な血色を観ただけで、何月何日には善事が起こるとか、悪事が起こるなどという事を、前もってはっきりと断言出来るのであろうか。出来るはずがない。私はこのような理由で長年この事に心力を尽くし、考えてきた。結果、血色で吉凶の日時を明らかにしようと思うならば、その血色に月割・日割を用いなければならない、という事を悟ったのである。もし、月割・日割を用いて血色を判断する時は、百回観て一度も的中しない、という事はない。今、この事を改めて踏まえてみると、古人がこの事を知らなかったとは考えられぬのである。つまり、物にはすべて体(たい)と用(よう)の二つがある。血色は吉凶を知る徴(しるし)であり、すなわち観相の体である。また、月割・日割は血色の意味を推し進めて明らかにするための用である。古人はその体を述べるだけで、その用を省略したのである。後人がこれを理解せず徒(いたずら)に、「血色だけで吉凶の日時を判断すべし」、としたのは大いなる誤りであった。私は多年の功力によって天地自然の理を極め、古人が未だかつて発表してこなかった教えを明らかにし、血色の観方に体用を備え、新たに月割・日割の図を製作する事が出来た。ともかくも、これが私が相法の世界において、古今無双の独立を果たした所以(ゆえん)である。

《月割の図》

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↑「月割の図」

この月割の穴所は、およそ曲尺(かねじゃく)二歩(にぶ)ほどの幅を、心の中で定規を定めるようにして一文字に観通し、その範囲内における吉凶を論ずる。
*曲尺二歩(かねじゃくにぶ)…曲尺とは、主に大工や建具職人が用いる直角に曲がった、金属製の物差しの事である。江戸期に普及した曲尺は、室町期に現れた鯨尺という呉服尺に端を発し、鯨の髭で作られたものが普及していたとされる。その長さは一尺二寸五分(=約38cm)とされた。この場合、二歩は二割の事であるから、38cmの20%で、約7.5cmとなる。また、当時の曲尺の長さは一尺(=約30cm)だという説もあり、この場合の二歩は6cm前後とも考えられる。しかし、実際の顔の大きさを考えてみれば、4~6cmくらい(=当人の親指2本分くらいの幅)が正しかろうと思う。

《月の割り方を弁ず》

一 正月(一月)、九月は図のように、小鼻の根元から耳たぶの端までを一文字に観通して、判断する。左は正月、右は九月。

一 二月、八月は図のように、内耳の突起の前から小鼻の少し上までを一文字に観通して、判断する。左は二月、右は八月。

一 三月、七月は図のように、駅馬の官から眼の下を通り、鼻までの間を観通して、判断する。左は三月、右は七月。

一 四月、六月は図のように、額の両角から眉の中ほどまでを一文字に観通して、判断する。左は四月、右は六月。

一 五月は図のように、天中から印堂までを一文字に観通して、判断する。

一 十月、十二月は図のように、小鼻の際から口角を通り、顎の端までを一文字に観通して、判断する。左は十二月、右は十月。

一 十一月は図のように、鼻の下から顎の端までを一文字に観通して、判断する。

《月の吉凶を弁ず》

一 もし、その月に該当する部位に潤いがあり美色に観える時は、良い月であると判断しなさい。逆に、潤いがなく淋しく観える時は、必ず悪い月であると判断しなさい。その月に該当する部位が良くも悪くも観えない時は、何事もない月であると判断しなさい。詳しい事については先に述べた八色を用いて、いかなる吉凶があるかを考え、判断しなさい。また、月割の部位に粟粒ほどの大きさの赤色が現れる時は、悪い月であると判断しなさい。必ずしも吹き出物とは限らない。しかし、その当時から二、三か月も先の部位に、以上の赤色が現れる時は、考慮してはならない。そうは言っても、その時々に応じ、その変化に応じて考え、判断しなさい。月割においては、傷、ホクロ、黒瘢(あざ)、癜風(でんぷう)の類は考慮してはならない。
*癜風(でんぷう)…癜(なまず)とか、黒癜(くろなまず)とも言う。デンプウ菌が皮膚に寄生して起こる皮膚病の一つで、淡い褐色の円形状の斑点が出るのが特徴である。白い斑点が出るものは白癜(しろなまず)と呼ぶ。

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