「あと4ヶ月で壊される、何してもOKなビル」だからできた、写真家の川島小鳥さん・画家の小橋陽介さんの展覧会@水道橋
●写真と絵の展覧会『Pink Noise Dance』
「このビルの入居者募集!壊されるまでの4ヶ月、超短期。ビルに何をしてもいいです」
そんな募集で物件を借りてくれたのが、写真家の川島小鳥さんと、画家の小橋陽介さん。アーティストのお二人が、この自由に使える空間を生かした展覧会『Pink Noise Dance』を開き、取り壊される『原島第三ビル』の最後を彩ってくれました。
●4ヶ月の「超短期募集」に至ったわけ
今回このビルへの入居者は、「4ヶ月限定」という超短期での募集でした。というのも、水道橋にたたずむこの『原島第三ビル』は築57年を経て経年劣化が進み、惜しまれつつもとうとう壊されることになったのです。
募集のきっかけは、ビルの管理人さんが東京R不動産に相談をくれたことでした。「R不動産を見ているような『何か面白いことをしたい!』と思っている人たちなら、壊されるまでの『超短期』を上手に使ってくれるんじゃないか」と考えてくれたのです。
管理人さんの話を聞くと以下のように「面白いことになりそうな」条件が揃っており、さっそく『東京R不動産』に掲載したのでした。
●偶然見つけた物件で、「ここでしかできない展示を」
R不動産に掲載すると数々の素敵な応募がありましたが、そのうちの一組がこちらのお二人でした。
写真家の川島さんはもともと、「自宅の引っ越しのためにR不動産を見ていたので、展覧会場を探していたわけではなかった」そう。そんな中、東京R不動産を眺めていると偶然この募集を見つけ、何をするかは決まっていなかったけれど、衝動的に応募したとのことでした。
「僕はアトリエを持っていなくて。持ってみたいけど、家も好きだから要らない気もして…。なのでこの募集を見つけた時、アトリエのお試しというか、なんだかすごく気になりました。4ヶ月っていう短さが、『うん。いい〜』って」(川島さん)
川島さんに誘われて一緒に内見に来た画家の小橋さんは、現地に来て「ひろ」と感じたそう。「募集ページの情報で広いことは分かっていましたが、実際に来てみたら、高い天井や大きな窓で、改めて広さを感じました」(小橋さん)
そんなお二人の申し込み文には、このような内容が。
お二人のやろうとしている「この空間でしか成立しないもの」は、まさにR不動産が求めていたもの。どの方の応募も素敵な内容でしたが、ビルのオーナーさん・管理会社に選ばれたのは、川島小鳥さんと小橋陽介さんのチームでした。
●超短期の「4ヶ月間」、展覧会までの過ごし方
一般的に、アートの展覧会をするとなれば、会期の1〜2日前に急いで会場に搬入を済ませるものです。しかし今回は4ヶ月も場所を抑えられたので、お二人はその間じっくりと構想を練ってから搬入することができました。
4ヶ月という期間は「超短期」に思えても、展覧会の会場としては十分な長さだったのですね。
物件を借りている間、写真家の川島さんは、この空間にじっくりとこもって過ごしました。
「ずっと考えていたというか。ぼんやりと写真を選んだり、どう飾るか妄想したり。ここでの4ヶ月は、今まで撮ってきた大量の写真を見直すきっかけになりました」(川島さん)
このアトリエは、川島さんのお友達も「せっかく場所を借りたらやっぱり『こもりたい』もんね!」と共感してくれ、何度も遊びに来てくれました。
それがきっかけで、お友達から「自分だったら映像で展示するかも」「僕なら大きい絵本みたいに」「ひらひらと繊細なイメージはどう?」などの提案や協力も得られ、一緒に展示を作り上げたそうです。
一方、画家の小橋さんは、搬入前日にこの部屋に泊まり、夜中に壁や天井に絵を描きました。
「天井が高いから大きい絵も描けるし。床にペンキや絵の具が垂れたり、天井まではみ出して描いてもいいのは、解体前のビルならではですよね」(小橋さん)
●舞台となった『原島第三ビル』と『東京R不動産』の長い関係性
私たちR不動産と『原島第三ビル』の出会いは、約20年前に遡ります。
このビルの管理人が、開設半年で実績もほとんど無かったサイト『東京R不動産』を見つけ、「この建物のボロボロな感じが合うかもしれない」と、掲載のご相談をしてくれました。
そこでこのビルの「古くて改装しないと使えない」という問題の見方を変え、「好きなように改装できる物件」としてR不動産に掲載。(当時、自分で手を加えてもいい物件は本当に珍しかったのです)
すると、デザイナーやウェブ制作会社など「カルチャーに共感してくれた面白い人たち」から続々と申し込みがあり、大改装をして素敵なアトリエ・事務所として使ってくれました。
「歴史あるビルが壊されること自体が、今の東京っぽいなって。でもそれは必ずしも悪いことではなく、いずれ変わっていくものですもんね。そんな歴史の流れにちょっとだけでも関われて、ありがたい体験でした」(川島さん)
●解体前のビルだからこそできた、華々しいラストダンス
展覧会名『Pink Noise Dance』にある「ピンクノイズ」とは、滝音のような、癒し効果があるとされているノイズなのだそう。「来てくれた人には、ピンクノイズを感じてもらえたらうれしいですね(笑)」(小橋さん)
取材中には「大ファンです」とお二人に話しかける人や、記念品を大切そうに買って帰る人も多数みられ、展覧会は大盛況。飾られた作品だけでなく、それを愛でるように鑑賞する人々も含めて、この空間が完成されているように感じました。
きっと来場した人もビルのことまでは考えていないだろうけれど、それでもこういったイベントのおかげで、感傷だけでない晴れ晴れとした気持ちで建物を見送ることができて、私たちにとっても思い出に残る出来事となりました。
川島さん、小橋さん、お二人ともありがとうございました。
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