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ホテル好きが見たホテル業界の惨状と「Go toキャンペーン」の本質

新型コロナの感染拡大に伴う自粛要請が出された3月中旬、そして4月7日の緊急事態宣言以来、旅行業・観光業および宿泊業は大きなダメージを受けています。

新型コロナは日本だけでなく、世界規模で大きな被害をもたらしており、東日本大震災などの近年の大災害時とは異なり、海外からの支援や援助を期待することもできません。

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観光庁の資料によると、5月の主要旅行業者の旅行取り扱い状況は前年同月比で97.6%減。深刻な事態などという生易しいものではなく、もはや存亡の危機に瀕していると言えます。

外国人の来日者数は前年同月比で約290万人から2900人と、99.9%減(※1)という壮絶な減少を見せており、インバウンドが大きな収益比重を占めるホテルでは、緊急事態宣言解除後は多少緩和されたとはいえ、国境を超えての往来はまだまだ復旧の目処がつかず、今後もかなり厳しい状況が現在も続いていきます。

▶宿泊業界の受難

資料(※2)によると緊急事態宣言発令中、29%のホテルで全館休業、81%のホテルでレストランやバーなどの営業を休止していました。

新型コロナによる損害を被ったのは宿泊業界だけではありませんが、五輪開催に向け新規のホテルが多く開業するなど、特別大きな投資をしてきた宿泊業界の受けたダメージは他と比べても極めて大きかったと言えるでしょう。

「こんなときだからこそ」、ホテルファンとしては無理のない範囲でホテルに赴き、客となることでホテルを支えたいとも思いますが、状況はなかなか難しいように思います。

実際に4月に都内のホテルに宿泊しようと予約を入れましたが、宿泊日前日に先方から「宿泊者に新型コロナ感染者が出た」というご連絡があり、キャンセルになった、ということも経験しました。
頂いた電話の向こうから伝わる慌ただしさに、ホテル・スタッフの皆様が懸命に対応されている雰囲気を感じ取り、とても胸が痛くなりました。

同時に新型コロナが身近な出来事であるということも実感せざるを得ない出来事でもありました。

緊急事態宣言解除後も、新型コロナ感染の実情はほとんど変化なく、政治家の言葉遊びの範疇外で感染の脅威は少しも衰えていません。

※1:出典:日本政府観光局(JNTO)
※2:出典:特定警戒区域9エリアにおける実態調査[北海道・東京・神奈川・千葉・埼玉・愛知・
      大阪・兵庫・福岡] (HOTEL Review Vol.729/730合併特別号)

▶GO toキャンペーンのちゃぶ台返し

そんななか発表された「GO toキャンペーン(GO toトラベル事業)」。7月22日以降の旅行に関して宿泊料などを1人1泊20,000円を上限に最大35%支援するというもの(詳しくはこちら)です。

いろいろ憂慮はあるもののの、ホテル好きとしてはこの機会に是非、と宿泊サイトなどを眺め、いくつかの都内ホテルに目星をつけて宿泊計画を練ろうかなと思っていた矢先、政府から「東京在住者には不適応」「東京発着の旅行も不適応」など、盛大なちゃぶ台返しが発表されました。

嗚呼。旅行を計画していた利用者はもちろん、すでに予約を受け付けていたであろうホテル・旅館や旅行会社の悲鳴が聞こえます…。

▶なんでこの時期にGo toなのさ?

「GO toキャンペーン」は発表当初からかなりの批判にさらされていました。Twitterではハッシュタグ「#GoToキャンペーンを中止してください」がトレンド入りするなど、「なんでこの時期なんだ」「人の移動を抑えてきたのが水泡に帰す」「旅行する余裕のある人だけの優遇になる」「そんなことより医療現場の援助に金を使え」といった不安、不満が続出しています。

これらの不安はとても良く理解できるものですが、「GO toキャンペーン」を断行するのにもいくつか納得できる理由があります。

時期的なものでいえば、「数カ月後では遅い」のです。上記に添付した表を見ていただけば分かる通り、観光業界はすでに滅亡の危機にさらされています。
多くのホテルは4・5月の売上がほぼゼロで、6・7月も低調です。4ヶ月以上売上が激減している現状では、よほど体力のある優良大手以外は体制の維持が困難ですし、これがあと数ヶ月続くと多くは倒産するしかない状況です。

観光業界に救いの手を差し伸べるタイミングとしては「今」しかない。これ以上遅くなっていしまうと、救うべきホテルや旅行会社はすでに倒れたあと、ということになりかねないわけです。

「観光業界はそこまでして救うべき業界なのか?」という根本的な部分にはそれぞれの立場でいろいろな意見はあると思いますが、観光業は 観光消費25.5兆円、生産波及効果で52.1兆円という大規模産業で440万人もの雇用を生み出しています。

2015年の観光消費25.5兆円がもたらす経済波及効果を産業連関表によって推計すると、生産波及効果で52.1兆円(前年比12.9%増)、付加価値効果で25.8兆円(前年比12.9%増)という規模になる。また、雇用効果は440万人(前年比13.5%増)で、我が国の総雇用の6.7%を占めている。
また、観光消費がもたらす00,粗付加価値12.1兆円は、GDPの2.3%を占め、雇用者数231万人は、総雇用者数の3.5%を占めている。
出典: 数字が語る旅行業2 0 1 8

少なくとも政府は「その価値がある業界」だと認め、その方針として打ち出したのが「Go toトラベル事業」なわけです。

▶直接援助としないのは

「だったら予算を直接観光業者に援助すればいいじゃん」という意見もよく見かけます。しかし、それだと「予算分しか」援助できませんが、キャンペーンを実施すれば、最大35%の援助分以外の残り65%を売上として宿泊業者が稼ぐことができます

不満として上がる「旅行する余裕のある人だけの優遇になる」という部分も同じ考えからきていて、経済的に余裕のある層をキャンペーンで誘い出し、貯めている資金を旅行を通して世間に還元してもらおうというのが根本的な狙いです。

このように「旅行する余裕のある人だけ」を対象にしているというのは正解であり、旅行する余裕のない人は最初からターゲットにしていないキャンペーンになっているわけですから、その点に批判が集まるのは(心情的には理解できますが)ちょっと見当外れな意見のように思えます。

税金からの拠出金だけに頼る策ではいずれ限界が来ます。できるだけ少ない予算で最大効果を狙うという方策は宿泊業界やこのキャンペーンに限らず今後とも主流になっていかざるを得ないのではないでしょうか。

▶でもコロナ感染は怖いじゃん。…しかし。

県を超えての移動などによるコロナ感染の拡散に関して恐怖を覚えるのは当然のことでしょう。感染拡大が顕著な東京圏に関して地域の方々が嫌悪を覚えるというのも十分に理解できます。

「東京除外」はそうしたなかで、どうしても「GO toキャンペーン」を予定通りに実施したい政府が打ち出した最大限の妥協案といえます。
東京の人口は全国民の約10%、日本の個人消費の約14%が東京在住者が担っているといいますから、東京を除外することは計画としてはかなりの痛手ですが、それをしてでも「GO toキャンペーン」を期限通りに実施したいという意思表示と言えます。

東京だけを除外しても、新型コロナの感染拡大を本質的には抑制できないかもしれませんが、もはやそれに怯えているだけでは経済は死に、企業も国も傾く一方だということが見えています。

なんとかして経済を動かしたいという狙いはそれほど悪いものだとは思えません。

アフター・コロナ、withコロナというような言葉が標語であるだけではなく、現実の生活になっていくことはもう避けられないー。政府の決断の一片にはそのような方向性へと舵を切るという意思がはっきりと見て取れます。

もちろんそれ以外の利権やらなんやら裏暗いモノもいろいろあるでしょうから、単純に絶賛するというわけではありませんが、大雑把に見て方向性は間違っていないのではないかと思います。


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