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設計士・インテリアデザイナー 野口妙子 -TDP生のストーリーマガジン【com-plex】 Vol.4- [前編]

デザインだけではない、これまでの経験が活きていく。東京デザインプレックス研究所の修了生を追ったストーリーマガジン「com-plex」。

今回ご紹介するのは、Studio CASA(スタジオカーサ)の野口妙子さんです。野口さんは航空業界から建築業界へとキャリアチェンジを果たし、住宅の設計士として活躍しています。今回は、そんな野口さんに設計士という職業やキャリアチェンジのきっかけ、「家づくり」に対する想いについて、お話を伺いました。



友人のための家づくり

Studio CASA(スタジオカーサ) 設計士 野口妙子さん(写真左)

――スタジオカーサを設立した経緯を聞かせてください。

東京デザインプレックス研究所(TDP)の修了後、アトリエ系のデザイン事務所2か所で1年ほどインターンを経験させていただきました後、不動産と建設業の両方を手掛けるリノベーション会社に2年半ほどお世話になりました。デザイナーとして入社したリノベーション会社では、社長に異動願いをし、半年間だけ不動産の売買なども経験させていただきました。

現在従事しているこのスタジオカーサは、その前職で出会ったメンバーと共に、3名で立ち上げたんです。

――スタジオカーサの設立には、どのような想いがありましたか?

「住みつなぐ」事を前提にした愛される家を建てたいという共通の想いをもって創業しました。そんな事あたりまえでしょ、と思われるかもしれませんが、神奈川・東京の不動産/建築の市場では、そういったところがないがしろにされているきらいがあったのは事実です。

実例を一つ上げるとしましたら、例えば親御さんから子世帯が譲り受けた戸建て住宅のリノベーション。大きく空間を変える計画をする際、「ここの柱がとばせて、ここに柱を配置できると希望の動線が叶います。」といった打合せ時に、建築当初の構造資料を建て主さまがご所有されていなく、当時の施工を請け負った某有名なハウスメーカーさんに問合せをしましても、建てたそのハウスメーカーでリフォームをしない限りは当該の資料が出せないと言われた事がありました。

お客さまの中には、さまざまな理由で家を建てたハウスメーカーには依頼したくないと思う方もいらっしゃいます。そうなると、もうどうしようもないですよね。

近年、ストック住宅(空き家、中古物件)が社会問題となっていますが、そんな環境ではストックもなにも、そもそも中古市場へ流通していける家が少なくなっていくのでは、と危惧しました。どうして建築当初にそこを考えていなかったのか。と、そんな類のことは、本当に何度もありました。

私たちが「住みつなぐ」ことのできる家を創り続けていくことで、少しでも住宅市場の底上げになればいいなと思っています。ハウスメーカーや建築家の都合ではない、お客さまを大切な友人と捉えた「友人のための家づくり」。それが、私たちがこの地場でやっていく意義でもあり、その姿勢を持ち続けることが、結果的にスタジオカーサの強みにもなっていると思います。


居心地の良さを設計する

――家づくりで大切にしていることは何ですか?

プロとして施主のご要望をより深いレイヤーで考え、私たちの想いも伝えるようにしています。そして、体積のバランスを設計すること。初めて自邸の設計を依頼くださる建て主さんたちは、平面計画にばかり目が行きがちです。

たとえば、「キッチンにこだわりたいから、リビングは狭くてもいい」というご要望があったとします。ただ、キッチンばかりに目がいってしまうと、リビングがおざなりになってしまう。もちろん、言われたとおりに設計することもできます。でも、体積のバランスを創っていくこと、居心地の良さを設計することは、最初の段階でしか決められません。

お客さまのご要望をきちんと伺いつつ、住んでからよしなになるよう、基本設計の段階で気をつけています。施工段階でも、のちに過剰なメンテナンスが出ないよう、心地よく住みつなげられるような家づくりを心がけています。

――設計段階での打ち合わせの回数は、どれくらいになりますか?

少ない方ですと8回くらい、多い方ですと20回を超えることもありますが、平均すると設計段階で15回程かと思います。ご家族ごとに必要な時間は異なると思いますので、その違いを真摯に受け止める努力はしているつもりです。

打ち合わせ前に、お客さま自身でどれだけ整理をしてきたのか、どういう流れで土地を購入したのか。言葉に乗ってこない背景もなるべく汲み取り、それぞれに必要な時間を確保する。そこを怠らずに進めていくことが、建て主さんの納得につながり、嬉しい気持ちで暮らしはじめていただけると考えています。

最近はSNSなどでいろんな「いい家」が溢れているかと思いますが、他の人の基準より、ご本人の納得感をパートナーである私たちは大切にしたいですね。そうしたら、たとえ、プレハブ小屋の家でも大満足する方はいるかもしれません。つまりは、家を建てるまでのプロセスが大事だということですね。

――スタジオカーサで想い入れのある家づくりはありましたか?

創業後、一番初めにご来社くださって、一番初めに建ててくださった方は、やはり想い入れがあります。集客にも時間がかかると思い、まだ何も整ってない中配っていたチラシを見て、来店してくれまして。実はまだ会社のパンフレットもできていない状態で……。「問い合わせ、来ちゃった……」みたいな(笑)。お母さまが経営者の方で、娘さんが私と同世代の方という、二世帯住宅の建築相談でした。

ご相談にいらしたときは、もう一つの設計事務所も候補としてあったようですが、最終的にスタジオカーサを選んでくれた理由は、お母さまの夢に「あんた(野口さん)が出てきた。」からと言われました(笑)。だから、この会社で建てないといけないって思ってくださったようです(笑)。

そのご家族の方にはすごく、すごく良くしていただきましたし、今もとても仲良くさせていただいて、たまにおうちに遊びにきてくれます。

スタジオカーサで初めて設計を手がけた住宅


お客さまの「経済設計」

――設計士の仕事とは、どのようなものですか?

会社によって異なると思います。一般的なハウスメーカーでは、プランニングや住宅の設計などが設計士の仕事とされています。しかし、スタジオカーサでは、土地探しや住宅ローンなどの段階からお客さまと一緒に進めていきます。家づくりから始めるわけではなく、より豊かな暮らしを家で表現する。大事な要素の一つとして家づくりがあるという感覚です。お客さまの「経済設計」も含んでいますね。

「設計士」の仕事と聞くと、いわゆる“設計”ができることと想像されやすいと思いますが、私は「話がわかる」ということが、まずは一番だと考えています。たとえば、「このコップを1000円で買いますか?」と聞かれたら、デザインや質感などで、自分で判断することができると思います。しかし、家づくりはそうはいきません。仕事ではなくプライベートで、見えないものを個人の出費で取捨選択の中購入するのは、やはり大変なことだと思います。

費用がいくらかかるのか、何が採用されるのか、どこに住むべきか。その状態から家を購入したり、建てたりすることになります。家づくりの知識はもちろんのこと、建て主さんの言葉以外の背景も理解し、不動産やローン、エリアなどの知識に加えて、コンサルティング能力があって、はじめて設計士だと思います。

――土地探しなどから手掛けるとなると、かなり大変ですよね。

すべての段階を一人が担当することになるので、かなり大変です。人材育成にも時間がかかってしまいますし。それでも、分業体制は採用していません。あるお客さまとの商談時、そのお客さまから「他の会社は市役所の窓口のようだった」と聞いたことがあります。分業体制の場合、工程ごとに担当も変わってしまうので、お客さまは何度も同じ話をすることになってしまうようです。

しかし、一人の担当がすべてを理解し、伴走することができれば、少しはストレスが減り、より家づくりへの集中力を高めていただけます。とはいっても、設計担当にもキャパシティーには限界があるので、すべてを手掛ける必要はない事は承知しています。それでも、何が行われているかを理解していれば、プロジェクトの先頭に立つことができ、お客さまと伴走することができます。

――設計士の仕事の一つに「掃除」があると聞きました。

掃除はとても重要です!わたしたち設計士も、お引渡前には何度か現場の掃除に赴きます。掃除をすることで、住む人の目線で見ることができるんです。家の傷はもちろんのこと、少し仕上げ材が浮いているとか、住み始めてからでは補修が大変になることにも気づくことができます。ちなみに工事期間中は、適宜現場監督がよく、掃除をしてくれています。

現場が汚い状態ですと、職人さんの仕事も雑になってしまう傾向にあるので、腕のいい現場監督は、現場をきれいに保つことをとっても大切にしているんです。

後編へつづく


◇ Studio CASA(スタジオカーサ)
  Webサイト:https://studiocasa-style.com/
  Instagram:https://www.instagram.com/studio_casa_official/
◇野口妙子さん
  Instagram:https://www.instagram.com/nk___taeco/

[取材・文]岡部悟志(TDP修了生) [写真]前田智広

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