見出し画像

『地方自治体のDX推進に向けて』元大津市長、越 直美 氏に聞きました。

2022年2月1日に開催されました第2回東京都・区市町村CIOフォーラムにおいて、都内区市町村のCIOの皆様向けに、『地方自治体のDX推進に向けて』というテーマで、2012年から2020年までの大津市長として自治体DXを牽引されてこられた越 直美さんに、当時のご経験等を踏まえ、苦労された点や失敗を感じたことなどをご講演いただきました。
普通ではなかなか聞くことのできないお話でしたので、note記事として共有いたします。
※本記事については、当日の講演内容を基に一部加筆等を行っております。

1 何のための行政DX?

行政DXの目的の一番は、東京都であれば、都民。大津市の場合は、市民が便利になるためのものである必要があります。
これを忘れてしまうと、オンライン化はされたが、必要な書式はプリントアウトさせ、申請時にメールに添付することになるなど、ぜんぜん便利にならないということとなってしまう。オンライン化の本来の目的が、仕事などで忙しい方や、障がいのある方など、多様な方々が行政サービスにアクセスしやすいようするためのものであるべきということを、押さえておく必要があります。
もう一つの目的としては、職員が楽になることです。しかしながら、このことについては、理解していただくまでに時間がかかり、皆さんもご苦労されていることかと思います。行政のDXが進み、AIなどのいろいろな技術が入ってくる中で、今の役所で行われている様々な事務作業がなくなり、職員の仕事は、将来を「考える」こと、そして、それぞれの地域の方と「対話する」ということに集約され、結果として市民のためになるものではないかと考えています。
そのうえで、本日は、行政DX全体の進め方と、いくつかの具体例を交えながら、お話をさせていただきます。

2 大津市デジタルイノベーション戦略

まず、行政のDX全体をどうやって進めて行くのかということについてです。それぞれの自治体が、関係する計画を作っているかと思いますが、大津市の場合は、大津市デジタルイノベーション戦略というものを作り、副市長をトップに進めていました。
計画に基づき、市民のために便利にしようと、オンライン化できるものを、各部局から出して欲しいと話したところ、当初は数十件程度しか提案されませんでした。
これは、職員が日常の業務で忙しい中で、どれをやるべきなのかを考える時間もなく、オンライン化しようという動きにはならなかったためです。
では、どのように対応したかというと、基本的には全部をオンライン化したほうが便利になるのだから、「デジタル化できないもの以外は、全でデジタル化する」と決め、法律上、対面でなければならないと定まっているものなど、デジタル化できないものについては、その理由を書いてくださいとう指示を出しました。
そうすると、1,251手続のうち、殆どの手続きがデジタル化できますという結果となり、そのうえで、まずは市民からの申請件数の多い146手続をオンライン化していこうということになりました。
単純にトップダウンで指示をだすと、まずは、できる範囲でオンライン化すればよいだろうとなり、DXではなく単なるオンライン化となってしまいます。こうならないよう、まずは、市民の皆さんがどうやったら便利になるのかということを常に考え、市民立場から考える「デザイン思考」がすごく重要です。
将来的には、市民の側から見れば手続全てがなくなれば良く、マイナンバーカードもいらず、本人の顔等で確認が取れ、必要なサービスが受けられるようになる社会が必要です。「行政機関から書類を取って、行政機関に提出する」ということがなくなるようにしていく。これは、市のレベルだけでは難しいですが、都や国と連携することで、行政手続がいらないというような社会に近づけられると思います。

写真:びわ湖大津観光協会

3 民間企業との連携

新しいことを始めるときに共通することがあります。それは民間企業との連携です。
大津市では、中学生が自ら命を絶つという事件があった。その再発防止策として、いじめまたはその疑いを発見した場合には、24時間以内に「いじめ報告書」を教育委員会に提出することとしました。その結果、発見件数がこれまでと比べ約100倍となり、どれが深刻な事案かを判別する必要がでてきました。
一方で、いじめの報告件数が増加するに伴い、1万件程度の「いじめ報告書」が蓄積され、非常に重要なデータとなっていきました。しかし、教育委員会でこのデータを分析するにはデータ量が膨大すぎて、網羅的な分析ができていませんでした。
そこで、このデータをAIで分析し、新しくいじめが起こったとき、先生が「いじめ報告書」にデータを入れた瞬間に深刻化するリスクが分かるようフラグが立つものを作りました。教育委員会や学校でこれを利用することで、教員の負担を減らすとともに、子供達のためにいじめの深刻化を止めることを目指しました。
これまでの自治体のシステム発注は、見積もりを取って、仕様書をつくって、予算を計上してという手続きを踏んでいかなければなりません。しかしながら、この場合、深刻化を予測するAIが本当にできるのか解らず、議会に予算案を提出できる状況にありませんでした。
こういった場合には、まずは実証実験をやってみる、少し「できるな」とわかったら予算を少しずつ増やしていくというやり方をしていく必要があります。
新しいDXに取り組むポイントとして、予算執行の面からも、事前に全てわからないので、少しずつ拡大していくということと、あわせて、民間企業と必ず連携していくことが重要となってくる。自治体がAIを作っていくということはできません。ですから、民間企業と連携しながら、少しずつ進めて行くということが、これまでのやり方と大きく違う新しい点かと思います。

写真:びわ湖大津観光協会

4 システムの共通化

DXを推進する以前の大津市では、道路修繕に関しては、業者への委託による巡回点検や、住民からの通報に基づいて補修していました。
これを、デジタル化するべく、公用車でスマホを乗せて、自動的に写真を撮り、アプリのAIが自動的に損傷個所を検出するようなシステムの導入を行いました。このシステムは、My City Reportコンソーシアム(MCR)という千葉市が始めたシステムで、2021年8月時点で14自治体が一緒にやっています。
この効果としては、まずはコストを下げられる。大津市が開発すれば、年間何千万円かかかるが、MCRは年会費として参加者で分担しており、大津市の場合であれば、年間120万円程度で利用できています。また、自治体の数が増えれば、増えるほど知見の共有ができます。また、このシステムであれば、より多くの損傷個所のデータが集まり、AIの精度も上がってくる。さらには、自治体同士で、どの程度で修正するのかの補修基準の違いも見えてきました。
自治体間で知見が共有できるということは、新しいことに取り組むときには至極重要なことです。また、議会の理解を得る際にも、他の自治体と一緒にやっているということで信頼を得られるものだと思います。

MCR活用例(提供:MyCityReportコンソーシアム

5 街全体をDX化していくスマートシティ

自治体のDXから観点が少し変わりますが、街全体をスマート化していくスマートシティ。例えば、大津市であれば自動運転などに取り組んでいますが、問題は、このスマートシティを進めていくなかで、「自治体の役割が変わってきている」ということです。
先程のAIも同じですが、自治体はAIや自動運転などの新しい技術に関する知見はありません。そのため、自治体の役割は、例えば自動運転であれば市道、いじめのAIであれば自治体が持っている様々なデータを、民間に開放して使ってもらうということに変わってきています。

大津市において導入された自動運転

6 「失敗を許容する。」システムの構築を

また、今後、DXの場面でも出てくると思いますが、いろいろな失敗があります。
自動運転であれば事故、そういったものは必ず起きます。スタートアップは失敗してこそ成長していくものです。
一方、自治体には、これまで「行政は間違ってはならない」という無謬性が求められてきました。しかし、これからは、間違いや失敗をどうやって許容していくのか、常に考えていかなければなりません。
新しいテクノロジーの活用には、事故だけでなく、例えば情報漏洩など、いろいろな問題は必ずあります。ですが、その時にすべてを止めるのではなく、むしろ失敗を許容できるよう、最初から、事故が起きた時に、誰がどのように事故を検証し、再発防止を行うのか、検証委員会を設けておくなど、前に進んでいくようなシステムを造っていかなければならないと思っています。

5 最後に

こういった経験を活かしながら、私自身も、今後とも行政のDXに関与して、区市町村の皆様を応援していければと思います。

(事務局より)
今回、越 直美さんには、貴重なお時間をいただきご講演いただきました。引き続き、都内区市町村をはじめとした自治体DXに、引き続きご支援をいただければと思います。ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?