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磐梯町におけるデジタル変革 (行動規範・国内事例紹介)

現在、東京都ではデジタルサービスの開発・運用に携わる全ての職員が共有すべき価値観(行動規範)の策定を進めています。
この取り組みにおいて、行動規範策定後に、それをどのように都庁内に浸透させていけば良いのかという観点から、先駆的に取り組まれている自治体等にヒアリングを行っています。
今回は、既に行動規範「什の掟」を策定し、磐梯町のDX推進に向け、日々奮闘されているデジタル変革戦略室・小野室長にお話をお伺いする機会を頂戴しましたので、ヒアリングさせていただいた内容を記事にまとめてみました!

0 磐梯町ってどんなところ

まずは、磐梯町ってどんなところ?
会津の秀峰・磐梯山麓に広がる磐梯町は、福島県会津盆地北東部に位置し、日本名水百選に選ばれた磐梯西山麓湧水群の、清らかな水と自然豊かな、歴史と文化の町です。
また、レジャーでも、春から夏にかけては、ゴルフ、アウトドアスポーツ、バーベキューが楽しめ、秋には、じっくりと会津路に足を伸ばす歴史散策や紅葉狩り、冬にはスキー、スノーボード、ウィンタースポーツが堪能できるなど、四季を通じて、楽しめる町でもあります。
人口規模としては、約3,350人で、東京都小笠原村の約3,100人に近い規模で、町の職員数は74名(2021.4.1時点)で、一般行政部門52名と教育部門16名、その他6名で構成されています。

1 磐梯町デジタル変革戦略第1版

磐梯町は、多くの地方自治体が抱える少子高齢化などの課題を解決していくため、町の総合戦略の中で「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」を進めて行くことを目標に掲げています。
そして、この目標に向けて、地域のさらなる価値創造、共生社会の共創のための手段として、「誰もが自分らしく生きられる共生社会の共創」をミッションに、デジタル変革を積極的に推進されています。

デジタル変革の第一歩として、磐梯町は、2019年11月に全国で初めて自治体最高デジタル責任者(CDO)を設置したのを皮切りに、2020年7月にデジタル変革戦略室を設置(3か年の時限措置)し、それと同時に、デジタル変革戦略室の位置づけや、「什の掟」と題したデジタル変革戦略室行動規範、具体的な施策展開の方向性等を記載した『デジタル変革戦略第1版』を公表しています。

小野室長からは、「一般的な計画の場合、計画期間を5年などと設定しているが、デジタルの関係では5年も経つと大きく社会は変化するので、その変化に計画が追いつけない。このため、デジタル変革戦略では、従来計画に用いるPDCAサイクルではなく、OODAループを用いています。これにより、状況に応じて、柔軟に対応できるものとなっています。」とのお話があり、新しい視点(文化)を取り込んだ、チャレンジングなものとなっています。

2 磐梯町デジタル変革戦略室の『什の掟』

新たに設置されたデジタル変革戦略室は、町の職員だけで構成された組織ではなく、民間から登用されたCDOやCDO補佐官のほか、地域おこし協力隊などの様々なバックグラウンドを持つ職員から構成されているとのことで、現在の東京都にも通ずるものがあります。
このため、都でも検討を進めている共通の価値観である行動規範が、既にデジタル変革戦略室では『什の掟』として定められており、この規範に沿って、様々な取り組みが展開されています。
この磐梯町デジタル変革戦略室『什の掟』は、会津藩ゆかりの「什の掟」をデジタル変革戦略室の構成員等の行動規範として、オマージュしたものとのこと。

磐梯町デジタル変革戦略室『什の掟』

一、住民本位でなければなりませぬ
行政は、住民のためにあることを肝に命じて、常に行政事務や事業のUI(住民接点)、 UX(住民体験)の向上に努めるようにしましょう。また、住民本位の次に顧客本位(町外の人々)、職員本位も意識し、みんなに魅力ある磐梯町にしましょう。
一、誰一人取り残してはなりませぬ
民間企業のDXと違い、行政のDXは相手を取捨選択できません。共生社会実現の視点から、すべての住民や職員がDXの恩恵に与れるようにお互いを気遣っていきましょう。
一、言葉や他者に踊らされてはなりませぬ
何が住民本位であるかを常に自分の頭で考え、同僚と対話し、行動するようにしましょう。本当にやるべきことがわかっていれば、次々と生まれる流行り言葉や、他者からの甘言に惑わされることはないはずです。なお、流行り言葉は活用しましょう。その場合、注釈を加えましょう。
一、本当の価値を評価しなければなりませぬ
私たちがDXを通じて行うべきは町の将来像と共生社会の実現であり、住民本位の価値の提供です。前例という「カタチ」に捉われず、「カチ」を評価し、共創しましょう。
一、できない理由を並べてはなりませぬ
住民本位の価値があると信ずる道があるならば、できない理由ではなく、できる理由を考えて、行動しましょう。住民を役場や制度の都合に合わせるのではなく、私たちが変わりましょう。
一、行動し、挑戦しなければなりませぬ
どんなに重厚な計画書や戦略も行動と結果が伴わなければ意味がありません。自治体のDXはまだ誰もが見ぬ道です。リスクを恐れず、挑戦しましょう。
一、失敗を責めてはなりませぬ
行動や挑戦には時として失敗が伴います。挑戦した者を讃えましょう。あわせて、失敗は共有して、反省して、次に活かしましょう。
一、データ・事実と結果を軽視してはなりませぬ
主観ではなく、客観(データ・事実)に基づいた取り組みを進めましょう(証拠に基づく政策立案)。そして、アウトプット(出力)だけでなく、どのようなアウトカム(成果)を目指しているのかをしっかりと認識しながら取り組みましょう。
一、目的と手段を取り違えてはなりませぬ
常に今の行動が何のためにあるのかを考えましょう。特に手段が目的化しないように、細心の注意を払いましょう。
一、感謝し、他の模範とならねばなりませぬ
私たちの取り組みはすべて先人の取り組みの上に成り立っています。このことに感謝し、DXを通じて、私たちが新しいカチをカタチにして、磐梯町だけなく、日本を変えましょう。

ならむことはならぬものです。

磐梯町デジタル変革戦略第1版より

「什の掟」
会津藩では、同じ町に住む六歳から九歳までの藩士の子供たちは、十人前後で集まりをつくっていました。この集まりのことを会津藩では「什 (じゅう)」と呼び、そのうちの年長者が一人什長(座長)となりました。毎日順番に、什の仲間のいずれかの家に集まり、什長が「お話(什の掟)」を一つひとつみんなに申し聞かせ、すべてのお話が終わると、昨日から今日にかけて「お話」に背いた者がいなかったかどうかの反省会を行っていたとのこと

https://nisshinkan.jp/about/juu

3 行動規範等の庁内浸透

町では、戦略策定後、全職員向けに戦略に関する説明会を開催し、「DXは住民本位の行政を行うためデジタル技術を活用するものであり、手段の一つに過ぎないこと。DXの実現にはステップが必要であり、地味なことを積み上げて初めて良い結果を導き出せる。最初のステップは、職員のITリテラシーの向上させていくことからになる」こと等を、菅原CDOが、職員一人一人に向けて丁寧に説明し、理解を深めていったとのことでした。
また、「事業課でペーパーレスを進めたいなどの声があれば、すぐに出向いて、サポートしているほか、デジタル化に興味を持っている職員にローコードツール等を紹介するなど、庁内営業も積極的に行っています。」とのことで、横ぐしを通したデジタル変革戦略室の役割の重要性についても説明いただきました。

さらにDXに対する理解を深めていくため、磐梯町では、スタートアップ企業なども交えたオンラインイベントや職員のテレワーク研修などに順次着手するとともに、全職員を対象に業務量調査を実施し、職員でなければできない業務(コア業務)と職員でなくてもできる業務(ノンコア業務)を定義し、教育課においてBPRをモデルケース的に実施し、施設予約システムのICT化の検討などを実施中とのことです。

また、並行して、庁内全職員にチャットツールTeamsを入れたり、審議会等の開催日程の調整に民間クラウドサービスを使ったりと地道な活動を行うなど、「職員にとっての身近な成功事例を一つ一つ積み上げながら、DXを推進している」とも話されていました。

この職員へのDX浸透という点では現在も続いており、これまで(2021年9月末時点)に、ガバメントクラウドに関することや、キャッシュレスサービス、ローコードツールのデモなど、様々なDXに関連するテーマで、計14回の職員向けDXオンライン勉強会を開催し、職員にデジタルを感じ取ってもらう努力をされているとのことでした。

4 外部との共創

磐梯町では、庁内での意識改革を進めていくとともに、外部の有識者や実践者の知見を活かして、デジタル変革や官民共創・複業・テレワークに関する取り組みを推進するとともに、日本における自治体のデジタル変革のモデルを目指し、「磐梯町デジタル変革審議会」と「磐梯町官民共創・複業・テレワークに関するオンライン審議会」の2つの外部有識者との協議する場を設け、外部のデジタル系人材などとの交流も積極的に進めています。

① 「磐梯町デジタル変革審議会」

社会経済情勢の変化に対応するとともに、限られた資源を最大限活用し、町民の視点に立ったデジタル技術の活用を推進するため、デジタル変革についての助言・提案及び環境整備を行うための審議会

② 「磐梯町官民共創・複業・テレワークに関するオンライン審議会」

これまで培ってきた知識やスキルを活かし、複数の業務に従事する複業、及び多様な現代の生活スタイルにも、柔軟に対応することができるテレワークを推進していくため、課題の整理と具体的な対応策について、協議するための審議会

この2つの審議会では、磐梯町が取り組むチャレンジに対して、様々な意見を出してもらうことで、それぞれの取り組みをより良いものへと進化させていっているとのことでした。

5 デジタルからデザインへ~脱デジタル宣言~

磐梯町では、第1版の策定から1年が経った今、これまでの経験と反省、知見を踏まえ、基本的な考え方は変わることなく、次のステージに向けた、具体的な取り組み方針を織り込んだ第2版の戦略を10月に公表しています。磐梯町デジタル変革戦略第2版では、“デジタルからデザインへ”というサブテーマのもと、具体的な6つの将来像を掲げ、そのうえで、それぞれの将来像を実現していくための具体的な戦術が明記されています。

詳細については、磐梯町のnoteに記事をご覧いただければと思います。

6 最後に

今回のヒアリングを通じて、DXを推進していくという職員のマインドを醸成していくためには、職員のリテラシーアップに向けた地道な活動(デジタルーツールの試験的導入や繰り返しの説明など)と、外部からの継続的な刺激(スタータアップとの連携推進、関係人口増加に向けた取組みなどの推進)が必要ということを教えていただきました。
また、小野室長からは、「デジタル変革戦略室は3年の時限的な組織。この3年間で何ができるかといえば、まずは、庁内の風土づくり。自転車で例えるならば、1年目は各課と二人三脚で走らせ、2年目は補助輪で走ってもらって、3年目は自走してもらえるよう、しっかりとサポートしていきたい。時間はかかるが、着実に改革は進んでいます。」とのコメントも。

最後に、今回のヒアリングは、短い時間ではありましたがとても充実したものでした。小野室長には、丁寧にご説明いただき、本当にありがとうございました。改めて感謝申し上げます。


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